明治20年(1887年)1月 アメリカニューヨーク ダスティ商会 伊達正
あれからダスティ商会の面々は、信用の置ける人物との面談に動いていた。その中でも、人脈も伝手も限られていた忠七とは事務所でじっくりと話をする必要があった。
「そろそろ日本に帰る準備をせねばならぬ、そなたどうする。残って人脈の拡大を手伝うか?それとも日本に戻って人材収集をするか?」
「一つ、考えていることがございます。ニューヨークからロンドンに渡り、自分の足で拠点となる人や場所を探そうと思っております」
新たな発想が浮んだことに喜んで、頷いた。
「ロンドンには、三井のロンドン支店もございます。今、ロンドンを預かっている渡辺専次郎とは少なからず面識もございます」
「そうか、ロンドンにゆくなら日本村も訪ねてみることだな。あそこには、三井のような高級駐在官ではなく普通の市井に暮す芸人や職人がいる」
「そうですね、どうも発想が縮こまりがちになってしまって…。そういう者達が一番、数が多く市井の情報に通じているのですね」
「そういうことだ、情報とは一つの信頼出来る場所で得るよりも、玉石混交でも多く集めるに越したことはない。より多い情報は、より正確な情報を見極めるためには必要不可欠だからな」
忠七の理解を促しながら、続けた。
「一番良いのは各都市を繋げる人材だが、求められているのはそれだけでは無い。例えばイタリア語やフランス語での読み書きが出来るに越したことはないが、それが出来なくとも現地にそれが出来る人材がいれば良い。そう考えてゆけば、登用出来る人材の幅が増えるし、見落とすことが無い」
「優秀な人材がいても、条件に見合わないから…と諦める必要がなくなりますね」
「ただ、人を見極める目は要求される。こればかりは、数をこなして養って行く必要があるがな。お主にはまだまだ時間がある。可能ならば欧州の各都市を巡ってみることだ、その経験は決して無駄にはならんだろうよ」
それを聞いて、忠七も決意を新たにしたようだ。ロンドン行きの、準備を始めた。可能な限り、彼らとの対話の時間は取っていたつもりだった。ただ一人、又四郎を除いては。それだけが、心の何処かに引っ掛かかっているように思えた。




