明治19年(1886年)7月 アメリカニューヨークフィフスアベニュー ユニオン・リーグ・クラブ 伊達正
ニューヨークのメンバーにアドバイスを与えて、振り返って忠七にも話した。
「お主のパリでの人脈も、ヨーロッパでの新しい情報。今、パリで何が求められていて、どんな物が新たに発見されたのか?それをニューヨークに繋げ、日本にも繋げてゆく。パリだけではないぞロンドン・ローマ・ベルリン、そこに繋がる信用出来る人間を早急に探さねばなるまい」
そう言うと、忠七が深く頷いた。
ニューヨークの暑さが本格的になる前、モルガン氏よりフィフスアベニューにあるユニオン・リーグ・クラブでランチのお招きを受けた。
「久しぶりだね、何時以来になるのだろう?」
「最後にお会いしたのは、10年以上前になりますか?オットーをご紹介頂いて以来になります」
ランチを済ませ、食後のコーヒーをお互いに口へ運んだ。間を取って、モルガン氏が話始めた。
「驚いたよ。突然、StandardOilTrustの権利を手放すとは。…君に先を見通す目があることは理解しているが、今回の件を説明して貰えないかと思ってわざわざ足を運んで貰ったんだ」
「確かにStandardOilTrustの権利を持ち続ければ、この先30年以上は楽に稼ぎ続けられたでしょう。只々、金の卵を産む鶏を観察し続けることで得られる成長とは、一体何でしょうか?」
「そうだな、そんな事のためにオットーのような優秀な人材を譲った訳ではないからな。そう言われれば、正式に株式を取得した会社にも納得がいく」
「私もそれほど若い訳ではありません。私を慕って付いて来てくれる者に、何を残せるかを考える年齢に差し掛かった…という事です」
「私にも心当たりがある話だ」
しみじみと自分の言葉を反芻するモルガン氏が、話題を少し変えてきた。
「鉄鋼・鉄道業界の面々が君を紹介して欲しいと言ってきてね、君さえよければコネモー湖畔のハンティングクラブに招待したいと言っていたよ」
「私が株式を持つ会社のお得意様ですね、一度は顔を繋いでおく必要はありますね」
「特に熱心なのが、鉄鋼王との呼び声が高いカーネギーだ。石油王を支えた男に、随分と興味を持っているようだ」
と、皮肉な笑みを浮かべていた。アンドリュー・カーネギー、ピッツバーグきっての実業家だ。一体どんな男なのだろうか、そう考えながも承諾することに心は動いていた。




