明治17年(1884年)11月 アメリカサンフランシスコ ウォーターフロント 小川正宗
アメリカの地を踏むのも、約10年振りだ。あの頃はまだ幼く、見るもの全てに興味を持っていかれていた。それもまた、懐かしくもある。船を降り、ウォーターフロントを歩いていると、不意に聞き覚えのある名前が耳に飛び込んできた。
「アマデオ、そっちの積み荷の数量を確認してくれ。間違いなければ、そのまま積んでいいぞ」
まさか、あのアマデオなのか?でも彼がいたのはサンノゼ近郊のアルビソのはず。確認すべく、声がした方へと足を速めた。そこには、やや丸顔でくりくりの大きな目で黒い髪の少年がいた。日に焼けて、彫りが深い顔立ちは、父であるルイージにどことなく似てきている印象があった。
「アマデオ・ジャンニーニなのかい?」
あの頃とは違い、英語で話しかけた。振り返ったアマデオは暫し固まったかと思うと、満面の笑みを浮かべて返した。
「まさか、正宗なのか?アルビソの駅で話しかけてくれた」
そう言うと、最大限の歓迎を表すかのようにハグをしてくれた。10年の時が、埋まる気がした。
「君が私の事を覚えていてくれているとは、正直思っていなかったよ。10年も前の幼少期のことだ、忘れられていても仕方ないと思っていたのに…」
「忘れるものか、言葉も通じないのにコミュニケーションを取ろうとしてくれた初めての東洋人だったのだ。いつか会えた日には、今度こそ自分の言葉で挨拶をしようと思っていたんだ」
そう言うとアマデオは、父であるルイージが亡くなったこと、母の再婚相手の元で働いていることなど、矢継ぎ早に聞かせてくれた。
「そうか、大変だったんだな。私も今は父の商会で働く一社員なんだ、これからニューオリンズの博覧会に向かうところなんだ」
「ニューオリンズ?遠いな、博覧会は一度は見てみたいが、仕事に追われてそれどころではないな。そうだ!帰りに話を聞かせてくれよ。どんな内容だったのか…約束だぞ」
そう言うと、追われるかのように仕事へと戻って行った。アマデオはここにいる。ウォーターフロントや青果街を探せば、また会えるだろう。そうだ、自分も仕事でアメリカにやって来たのだ。束の間の再会を果たし、自分の仕事への思いを新たにした。




