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明治16年(1883年)10月 東京府麹町区内幸町 農商務省 伊達正

秋の収穫を終え、北海道の伊達邦成様と田村顕允殿の主従が訪ねて来た。ダスティ商会では有珠の永年社(伊達家臣団の農業組合のような物)を通じて、アメリカのパークデイビス社の医薬品やジョンディア社の農機具に至るまで、海外から北海道へ製品を卸していた。今回は甜菜のための農業用肥料を求めて、有珠より足を運んでいた。残念ながら我が商会では、甜菜のための農業用肥料までは手が回ってはいなかった。なので、留学経験者を多く要している農商務省を三人で訪ねることにした。


ただ、比較的最近に始まったばかりの甜菜の栽培に詳しいものが少なく、肥料について知る者は皆無だった。

「アメリカではここ最近、化学肥料による栽培が注目されつつあります。その分野に詳しい方などはおられないのでしょうか?」

そう聞くと、農務局の職員は少し考え込んで同僚達に聞いて回った…中の一人が。

「そういえば最近帰国して入省した、高峰君の専門分野が工業化学じゃなかったか?彼なら化学肥料について何か知っているかもしれない」

そう言って、工務局から高峰譲吉という青年を呼び寄せてくれた。

「工務局の高峰譲吉です、私の専門分野は工業化学なのでお役に立てるかは分かりませんが…」

「欧州への留学から帰国されたばかりとか?欧州では化学肥料を製造や使用はされてはいませんでしたか?」

田村殿が早速、欧州の農業について尋ねた。

「勿論、製造もされていましたし使用もされていました。ただ、専門分野ではなかったので製造方法や、それが齎す影響にまでは言及出来ません」

自分は、ダスティ商会の永年社へ向けたカタログを開き高峰殿に説明した。

「こちらは伊達様の農業公社『永年社』に向けた我がダスティ商会の販売カタログです。医薬品から農機具に至るまで、アメリカの製品が載っています。ただ、載っているものにもバラつきがあります。頻繁に取引のあるジョンディア社の農機具や、我が商会が出資しているパークデイビス社の医薬品ならば直ぐに取り寄せることは可能です。ですが、化学肥料のように新しく取り寄せるものは、新たに契約を結ばなければならず、その分時間が掛かります。さらに言えば、どの程度の量を取り寄せれば良いかも分からないのです」

「札幌農学校でも、甜菜に対しての化学肥料のデータが不足しているので、アメリカから買い付けるにしても効果や使用量が分からず、北海道の風土に適しているかも分かりません」

邦成様が適切に、説明を足してくださった。

「これは化学肥料について、もう一度研究しなければなりませね」

そう言って、高峰殿は農務局の職員達を促した。これは相当に気を長く持たなくてはならなそうだ。

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