明治14年(1881年)1月 東京府日本橋区薬研堀町 郵便報知新聞社 伊達正
年が明けても、伊達邦成主従は本州に留まっていた。渋沢栄一殿へと紹介し、無事に大隈重信殿に会って今後の協力を得ることに成功したようだ。後は岩崎弥太郎殿へと紹介するだけなのだが、忙しい岩崎殿を捕まえるのには時間を要した。
なのでその前に、言論で世に訴え掛ける栗本鋤雲殿に引き合わせることにした。
「どうしたのだ、久しぶりではないか正」
確かに久方ぶりに見る、人懐っこい笑顔に本題を忘れそうになる。
「こちらの方々は北海道の有珠で開拓されている、伊達邦成様と田村顕允殿です。今日はその北海道でのあらましについてお話したく、伺いました」
「伊達の…ということは先に発表された、払下概則への懸念ということか」
「ええ、その通りです。その裏には10年計画の終了と、官有物が払い下げを見越してのものではないかと。このお二方は、現地での体感で察っせられたと仰っておられます」
田村殿が後ろから割いるように、話出した。
「どうも開拓使の間には、移動を視野に入れた動きも見られます。これに伴って、北海道が不当に独占されるような事態になっては目も当てられません」
「なるほどな、ご懸念は尤もなことだ。これまで懸命に励まれてこられたというに、それをないがしろにされてはな…」
率直に鋤雲殿に問いを投げ掛けてみた。
「何か情報は入っていませんか?開拓使長官は黒田清隆、その線ならば薩摩閥の五代友厚などが線上に上がると思うのですが」
「確かに、その線を辿れば五代だろうな。だが、今のところそれを匂わせるような情報は入っておらんな。しかし、それが事実であれば世論を代弁する新聞社が黙ってはおらぬ。その点は任せて貰おう」
それを聞いて安堵したのか、伊達邦成主従は顔を見合わせ頷きあった。
「こちらでも、神戸のウォルシュホール商会や我が商会の手の者に調べさせておりますが、どうも大阪は動きが活発になっているようです」
「五代ほどの切れ者が、世論を無視して強引に事を進めるか?頭の固い黒田なら分かるが、商人としてはどう思うのだ?」
「そうですね、私ならば乗りません…ですが皆が皆、私のようには思いますまい。三菱の岩崎弥太郎殿ならば、強引に捩じ伏せてその後に結果で黙らせることでしょう」
「そうじゃな、いずれにしろ世論を無視するが如き政策には断固として反論する。それだけはここで、約束させて貰おう」
その言に、一時の安らぎを得た心地で郵便報知新聞社を後にした。空は今後の未来を暗示するかのように、どんよりと雲を垂れ込ませていた。




