明治13年(1880年)11月 神奈川県横浜 ダスティ商会 伊達正
11月5日に工場払下概則が発表された。北海道開拓使を含め、政府が抱える官営事業を民間に移していく流れが、いよいよ具体化してきた。それを誰よりも危惧していた、伊達邦成様と田村顕允殿が月が変わる前にダスティ商会を訪れた。
「正殿、此度の払下概則の事。聞き及んで居られますか?」
応接室の椅子に座るなり、田村殿が身を乗り出してこちらに問うてきた。
「ええ、10年計画の終わりに、開拓使の官有物を払い下げるための下準備と見ていいでしょう。現地では開拓使引き上げの準備は見られますか?」
先程までゆったりと座っていた邦成様が、おもむろに口を開かれた。
「はい、人的な移動を想起させるような慌ただしさがみられますな。それに伴って、どのような影響が
齎されるのか…それをご相談すべく参りました」
「なるほど…率直に言って開拓使が解体されるのは、政府の既定路線でしょうな。さらに言及するなら、北海道を預かっていた黒田清隆氏の伝手で官有物が払い下げられる可能性が高いでしょう」
そう言うと、二人はお互いに顔を見合わせて頷いた。それを確認して、話を続けた。
「これでは一部の商人の独占によって、今後の北海道の商いは行われてしまう。それは私も、邦成様も望んでは居られますまい。それを阻止するためにも、二人の人物を紹介しましょう」
田村殿がそれを聞いて反応する。
「二人とは、どちらの方でしょうか?」
「一人は大隈重信殿です。…しかし、私には面識がないのでそこに繋がる渋沢栄一殿を訪ねると良いでしょう。必ずや力をお貸し願えるでしょう」
二人が力強く頷くのを見て、言葉を続ける。
「今一人は三菱の岩崎弥太郎殿です。三菱が北海道に進出する余地を、一人の資本家に独占されることを岩崎殿が好むとは思えません。この二人に内と外から圧力を掛けて貰えれば、黒田殿の目論見を打破することも可能でしょう」
そう言うと、二人の顔から幾分か緊張の度合いが薄れて行くのが見て取れた。
「ですが、楽観は出来ません。これからどのように動くかは、誰にも予見は出来ませんので。なので、二人と連絡を密にし、如何なる事態にも対処して行かねばなりません」
言い終えると、暫くは日本を離れることは出来ないことを覚悟した。




