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明治12年(1879年)12月 神奈川県横浜 ダスティ商会 伊達正

明治12年の暮れも押し迫った26日、日本橋・京橋が大火に見舞われた。焼失家屋は1万戸以上、7万坪以上を焼いた火災であった。我が商会の東京での情報収集を担う、大洲商会も日本橋に店舗を構えていた。今は情報収集にのみ専念していたので、高橋順蔵と田中幸助という二人の青年だけが詰めていた。


翌27日の昼過ぎ、顔を煤だらけにした二人がダスティ商会に辿り着いた。年嵩である順蔵が幸助に肩を貸す姿は、火災の爪痕を生々しく物語っていた。

「正様、何とか店舗の権利書だけは持ち出すことが出来ました」

その痛々しい姿で、誇らしげに書類を捧げる順蔵に容赦無い一喝を入れた。

「この戯け者が…、そのような物は後でどうとでもなる。そなたらの命より大事なものなど、あの店舗には無いのだ」

そう言うと、汚れた二人を顧みることなく抱きしめた。よう生きていてくれた、その思いがあった。

「例え二人に身寄りや頼るべき者が無くとも、まず何より己の命を優先せよ。例え何10万という大金があろうと、使うべき人間がいなければただの紙くず同然じゃ。よいか、これは私から命令だと心得よ」

疲れ切った二人を、自宅に連れ帰り。湯に入れ、食を摂らせて休ませた。


その翌日に、日本橋を訪れた。三井銀行のように石造りの建物は、煤けつつも残ってはいるが。昔ながらの木造商店は、跡形もなく灰燼に帰している。その焼け残った三井銀行に、益田孝殿を訪ねた。

「おお、これは正様。斯様な乱れきった場所に、足を運んで頂き誠に申し訳ございません」

「大火の後です、焼け残っている方が珍しいでしょう。御気遣いくださるな。今日はいち早い復興のためにも、三井に踏み留まって頂くべく罷り越しました。日本橋・京橋の復興には、三井の力が必要不可欠ですからな」

そう言って、懐から10万円と書かれた小切手を取り出し手渡した。

「これを出来る限り少ない利子で融資し、1日も早い復興に役立てくだされ。三井にも少なからず被害はありましょうが、他の者達への目配りに充てるべくお使い頂ければ」

「まこと、三井一人で立ち行くはずもございません。これは、周辺に店を構えし者達に率先して使わせて頂きます」

二人で銀行の外へ出て、辺りを見回しながら。

「こう見ると、やはりまだまだ木造の店舗が多かったのですな。海難事故のための海上保険は滑り出しましたが、火災に備えるための会社も必要でしょうな」

「ええ、それは此度の火災で身に沁みましてございます。例え僅かであろうと、手当があればそれを励みにやり直す希望もあろうかと」

「そうですなこの国は火災だけではなく、地震やそれに伴う津波などの被害にも備えなければならない。そういった被害にも、向き合って行く会社が求められて行くことでしょうな」

そう言って空を仰ぎ見ると、ちらちらと雪が舞い降りてきた。道理で寒いはずだ、あと数日で年が明ける。来たる年は、幸多からんことを願わずにはおれなかった。

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