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好事魔多し〜理不尽な客は異世界送りにします〜  作者: talina


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第二話 選別

 出入り禁止。


 頭の中で下したその結論は、現実世界では妥当な判断だった。


 だが、それで終わらせない。


 規則に基づく組織としての対応。

 正論であったとしても、それらは、この手の人間にはほとんど効かない。


 むしろ、感情を逆撫でするだけだ。


 警察を介入させたとしても、何度でも再来する。


 現場は疲弊し、時には職員の身に危険が及ぶ。


———


 その日の業務を終え、支店を出る。


 外はすでに薄暗い。


 春先の湿った空気が、わずかに肌にまとわりつく。


 駅へ向かう人の流れに紛れながら、ふと考える。


 いつからだろうな。


 こういう「面倒」を処理するようになったのは。


 昔の自分なら、深く関わらないように、静かにやり過ごす。

 それが生き方だった。


 だが、それでは、何も守れない。


 学生時代の事を思い返す。


 本来なら、自分は別の人生を歩んでいたはずだった。


 運動は、得意だった。


 いや、得意というレベルではない。


 能力は突出していた。


 県大会を抜け、国体で優勝したとき、周囲の目が変わった。


 当然のように、有名一流私立大学から声がかかった。


 人生のレールは敷かれていた。


 だが、唐突に道は閉ざされた。


 原因不明の難病。

 入退院の繰り返し。


 医師は、静かに告げた。


「激しい運動は、控えてください」


 それは宣告だった。


 アスリートとしての死刑宣告。


 夢は、そこで終わった。


 オリンピックも。

 その先の指導者としての未来も。


 すべて、途切れた。


 そこから先は、惰性の人生だった。


 第二次ベビーブーム世代にとって、受験は熾烈な戦争だった。


 かつての自分なら、推薦で進んでいたはずの大学に、一般入試で挑む。


 扉は開かなかった。


 進学先の大学は、悪くはないが、誇れるものでもなかった。


 そして、目的を見失って何事にも情熱がなかった。


 大学生活は、ただ無意味に過ぎていった。


 そして、卒業の頃。


 更に最悪な環境が待っていた。


 就職、超氷河期世代。


 何十社と面接に落ちた。


 どこかで、諦めていたのだと思う。


 滑り込んだ中小企業も、長くは続かなかった。


 やりたいことがない。


 続ける理由もない。


 辞めた後は、バイトを転々としながら、時間だけが過ぎていく。


 何もない人間。


 そういう自覚だけが、積み上がっていった。


 転機は、唐突だった。


 きっかけは、今でもよく分からない。


 ただ、気づいた。


 ある日、強烈な違和感とともに。


 「人を消せる」と。


 最初は、錯覚だと思った。


 だが、試した。


 誰にも言わず。


 誰にも知られず。


 そして――


 消えた。


 一人の人間が。


 痕跡もなく。


 最初から存在しなかったかのように。


 記録も、写真も、記憶も。


 すべて、整合性を保ったまま書き換わる。


 世界そのものが、辻褄を合わせる。


 そして、“送り先”が、見えた。


 それは異世界。


 いくつもあった。


 環境も、文明も、危険度も、ばらばらな異世界が。


 そして、与える身分も能力も、すべて、自分で決められた。


———


 駅のホームに立つ。


 電車が滑り込んでくる音が、やけに遠く感じた。


 神様気取り、か。


 自嘲する。


 だが、違う。


 選別だ。


 不要なノイズを、取り除くだけの行為。


 そう割り切ることで、ここまで来た。


———


 翌日。


 あの女は、また現れた。


 予想通りだ。


 窓口に張り付き、同じことを繰り返す。


 どもりながら、個人情報を探る。


 無駄な対応で窓口の業務を妨げる。


 女性行員の顔色が、昨日よりも明らかに悪い。


 ストレスが蓄積している。


 そして、諦めが。


 その瞬間、決めた。


 もういい。


 これは排除だ。


 昼休み。


 フロアの人が減る。


 あの女は、ロビーの椅子に座っていた。


 誰かを待つように。


 いや、ただ居座っているだけか。


 足音を消して、気づかれない距離まで近づく。


 視界の端で、女の口が動く。


 また、何かをぶつぶつと言っている。


 女に意識を傾け“選択”する。


 異世界の中から、一つ。


 危険度は「低」


 環境は「安定」


 身分は「農民」


 能力は、与えない。


 この世界と同じ、不自由さの中で生きればいい。


 それで十分だ。


 決定。


 次の瞬間。


 そこに、女はいなかった。


 椅子だけが、わずかに揺れている。


 周囲の人間は、誰も気づかない。


 いや、最初から、いなかったことになっている。


 防犯カメラも。

 行員の記憶も。

 そして、家族でさえも。


 すべて、自然に書き換わっていく。


「課長、何かありました?」


 後ろから声をかけられる。


「いや、何も」


 そう答える。


 本当に、何もなかった。


 最初から。


 ただ、少しだけフロアが静かになった気がした。


 女性行員の顔色は明らかに良くなっていた。


 最善の選択が行われた結果だった。

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