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俺たちがこの生徒会所有の独房とやらに入れられた翌日。
やることも無い俺たちは、いつまでここに入れられているのか、釈放してもらえるのか、海鈴はどうなったのか等を取り留めも無く話し合っていた。
気の弱い奴らは、死刑宣告でも受けたかのような絶望の表情だったが、そもそも俺たちは、神に選ばれ転生してきたこの世界の主人公なんだ。
こんな所で、しかも収監されたまま死ぬわけがないだろうに……。
何かイベントが発生して脱出できるに決まっている。
そして、あの世界を滅茶苦茶にしている犀果大試を倒せば、俺たちが勇者になれるはずだ。
正直、幼馴染のヒロインもいない俺以外のメンバーは、どうせ俺という主人公の添え物なんだろうし、ここで脱落したとしてもそういう話だったんだで終わりそうな気もするけれども、できればあの犀果大試を倒すまでは協力しておきたい。
だからと、全員に渇を入れようとしたその時、誰もいなかったはずの鉄格子の向こう側から声をかけられた。
「ふむ……人の子らに相応しい薄汚い場所ですねェ……」
「「「「!?」」」」
ここに居るのは、俺を含めて11人。
一応トイレや浴室もあり、消灯後は男女も分かれて寝室へと向かわされるけど、それ以外は同じ空間で過ごしていた。
その誰とも違う、高貴なようでドブの中から響いてきているような気色悪さもある不思議な声が聞こえた方を見れば、筋肉の塊のようなオッサンが立っていた。
服装は、古代ローマ人みたいな服に、背中には翼があって、頭の上には天使みたいな輪っかが浮いている。
というか、天使……なんだろうか?
筋肉がすごすぎるのと、目がぎょろッとしているせいで、天使のイメージと比べると神聖さが足りない気がする。
夜道で出会ったら、全力で逃げると思う。
「な!?なんだお前!?」
「キャア!?」
「お、おい!見張りの人!変な奴がいるぞ!?」
口々に叫ぶが、近くに居るはずの見張りが来る気配はない。
ここは、刑務所程がちがちに固められている場所ではないらしいから、ここから見える壁から伸びる階段を少し登った先、見張りのいる場所まで扉も無い開けた空間だ。
なのに、そこからこっちにやってくることも無いという事は、見張りはもしかしたら殺されたのか……?
そんな事をする見た目が奇妙な生物となると……。
「ま、魔族!?それとも魔物か!?」
「キィエエエエエエエ!!!貴様あぁ!!!この私をそんな薄汚い者どもと間違えるなど万死に値するぞおおおおおおぁ!!」
「うわああああああ!?」
俺の指摘に、更に目をギョロギョロさせながら筋肉天使が鉄格子に掴みかかって叫び始めた。
その剣幕は、流石に俺も悲鳴を上げてしまった程で、後ろでは何人かが漏らしたのか、尿の臭いがする気がする……。
「おぉっと、私としたことが、思わず口から羽を飛ばしてしまう所でしたよ。発言には気をつけなさい人の子よ」
「……あ、ああ……」
何が何だかわからないが、とにかく目の前の不気味な存在の機嫌を損ねる訳にはいかないので、無難な返事をすることにした。
それが功を奏したのか、筋肉天使は笑顔になり、今度は一転聖職者みたいな雰囲気で語り始めた。
「私は、主に使える大天使ウリエル。天使になれる素質を持つ者たちを神の世界へと誘う仕事をしています」
「大……天使……?」
「然り。そして貴方たちは、私が天使の素質ありと見込んだ者たち。何やら魂そのものに天使に関する情報が刻まれている様子。これは是非とも我が主の元へと連れて行かなければと赴いたのです」
「俺たちが天使!?」
そりゃ、そういう予感はあったさ。
普通の人間じゃないっていう感覚は。
世界と俺のズレっていうのか?
そういうのを日常的に感じていたからな。
だけど、流石にいきなりズバリで言われると、流石に驚く。
「とはいえ、他にも天使の資格を持つ者たちがこの場所にはいるようです」
「何……!?」
俺達だけが特別なのかと思えば、そうじゃないらしい。
それが少し引っ掛かるが、まあ良しとしよう。
そう言うシナリオだとしても、明らかに主人公は俺達……いや、俺だからだ。
「自ら天使になる選択をする方々であれば、私が直接導くことができます。しかし、必ずしも人の子はそう正しい選択ができるとは限りません。例えば……あの、犀果大試のように」
「「「「!?」」」」
俺を含めて、周りのメンバーから息を呑むような音が出た。
今この場で、この筋肉天使よりも恐ろしい存在がいるとしたら、ゲーム知識をもってチート行為を繰り返しているであろう犀果大試だけだからだ。
そいつが、天使の資格をもっているだと!?
「とはいえ、そのような人の子らを導く方法が無いでもないのです。例えば、私を始めとした天使たちに攻撃を仕掛けてきた場合、強制的に天使にする法的な根拠を作り出せますから」
「法的……?」
「あ、えぇえぇ。神の世界にも当然法はありますからね。特に他の世界へとやって来ている場合は、神の管轄が違うせいでその法も面倒で……」
「他の世界?アンタは、この世界の天使じゃないのか?」
「まあそうですね。むしろ、この世界で真面な天使なんてそうそう育たないのではないでしょうか?だから我々が、我々の主が、天使の為すべきことを成そうとしているのですよ。犀果大試という異端者を天使にしてしまいたいのもその一環です。アレほどの魔力、我が主の元で天使となれば、どれだけ世界の為になるか……。というわけで、貴方達には、主の御許へと向かう前に大騒ぎを起こしてほしいのですよ。どんなものでもいいので、彼等からの攻撃を誘発させ、私たち天使が被弾しかけるという状況を作り出すお手伝いです。それが、貴方達が人の子として行う最後にして最高の仕事になる事でしょう。丁度近々、大きな催しがあるのでしょう?そこでついでに他の者たちも巻き込んでやりましょうねェ」
筋肉天使が色々言っているが、どうにも気に食わない。
コイツは、どうにも俺よりあの犀果大試を高く評価している気がする。
だったら、アイツと一緒のやり方で天使になんてなっても、俺が主役として目立てないんじゃないか?
それは、納得いかない!
「話しは分かった。だけど、俺がアンタに協力するには、一つ条件がある」
「条件だとおおおおおおおぉああおぉ!?キサマアアアァ!!!キサマ如きが私に条件だとおおおぉ!?」
「ひっ!?」
思わず悲鳴が出かけたが、それでも俺は引かない。
俺は、主人公だ!
ここで引かないのが、主人公だ!
「俺は、天使にならない。なるとしても寿命で死んでからだ!」
「ナニイイイイイイイイイイイ!?!!?」
「その代わり、犀果大試の攻撃がアンタに当たるようにするのには協力する。だから……あの犀果大試をとっとと天使にしてくれ!アイツさえここからいなくなってくれるなら、俺は幾らでもアンタに協力する!」
「…………ふむ」
俺の提案に、筋肉天使が悩み始めた。
コイツは、今の段階でもほぼ正体不明だし、不気味なことに変わりはないけれども、犀果大試を何とかできるなら何でもいい。
ゲームのお助けキャラみたいなもんだろう。
できれば自分自身で止めを刺したかったけれど、俺は、その辺りは妥協できる人間なんだ。
「良いでしょう。貴方に関しては、寿命で死んでから連れて行くことにします。その代わり、犀果大試を始めとした天使候補者の拉……導きのお手伝いはお願いしますよ?」
「あ、ああ!」
どうやら俺は賭けに勝ったらしい。
主人公だから、当然謎の新キャラの説得とかもお手の物だ。
筋肉天使は、交渉結果に満足したのか、ギョロギョロする目を細めながら話す。
「さて、それではこんな所からとっとと出て、装備の調達でもしましょう」
「……ん?いや、俺たちはここから出られないんだが……?そういえば、アンタ、見張りの人はどうしたんだ?殺してたら騒ぎになるぞ!?」
「見張り?……ああ、この上の入り口に立っていた人の子の事ですか。心配いりません。私の姿は、私が認めない限り人の目では見る事が出来ないのですよ。そして今、ここでの会話が外に漏れないように結界を張っているので、見張りとやらには全く聞こえていない筈です」
「そうなのか……とりあえず騒ぎにならずに済みそうで良かった!それはそれとして、脱出できない状況に変化はないけどな。この鉄格子の扉を鍵で開けないと、俺たちは外に行けねぇ」
「では、こうしましょう!」
そう言うと筋肉天使は、掴まっていた鉄格子を腕力だけで曲げて、人1人くらいなら通れる隙間を作ってしまった。
「これで外に出られるでしょう?」
…………何でこいつは、こんな事してこんなドヤ顔になれるんだ?
鉄格子を破壊なんてしたら……。
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!
案の定というか、警報が鳴り始めた。
そりゃ、鉄格子破壊したらそうなるだろうよ……。
「ふおぉ!?なんだこの音はああああぁ!?」
「いや、アンタが鉄格子壊したから、センサーが反応して警報が鳴り始めたんだろ?明らかにアンタが原因だ」
「せんさぁ?」
「機械だよ機械」
「くぅ!!!人の子らが作る機械とやらは、私にはあまり馴染みのない物なのです!……仕方ない!主よ!申し訳ございません!一旦撤退します!お前たちも桜花祭の当日までさらばだ!」
警報に焦ったらしい筋肉天使は、慌ただしくそう言い捨てた後に、一瞬で姿が消えていた。
ビックリしたけれども、恐らくここに来た時もこうやって姿を消しながらやってきたんだろう。
俺も天使になったら、この力が使えるんだろうか?
使い道は色々あるなぁ……。
なんてことを思っていたら警備員がやってきて、「誰だ!?この鉄格子を破壊した奴は!こんな事をしてタダで済むと思っているのか!?」なんてすごい剣幕で言ってきた。
でも、犯人は俺達じゃないし、そんなふうに怒られても困る。
「誰がやったんだ!言え!」
「「「「天使」」」」
「貴様ら!舐めているのか!」
クソ!この主人公である俺の言う事を信じないなんて、この警備員は何様のつもりなんだ!?
どうせモブのくせに!
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