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剣と魔法の世界に行きたいって言ったよな?剣の魔法じゃなくてさ?  作者: 六轟


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810:

 今日も今日とて、昼食にパンをもそもそする俺。

 やっぱり新学期始まって早々だと、うちの女子たちのような高位貴族たちは何かと忙しいらしく、昼食はそれぞれ別々の場所でとなっている。

 そこまで高位貴族じゃない絢萌も、白川郷リゾートが出来てからは、いろんな所に付き合いで呼ばれて忙しいらしい。

「もう!それもこれも大試さんのせいですわ!」なんてことをニヤニヤしながら言っていたと小学生女子からタレコミがあった。


 3年になると、卒業後の進路に備えて色々な活動をするために、授業に参加しなければいけない時間がかなり減らされると言うのもあるんだろうけれども、午後まで学園で大人しく勉強を受ける3年生は、精々全体の6割くらいのようだ。

 俺はといえば、卒業後の進路は開拓村一択だし、本日は王都近郊で大災害や大事件も起きていない筈なので、午後からも退屈な授業を受けるつもりでいる。

 なので、昼休みにまたこの校舎裏のとこで静かにパンを食べようとしたんだけれども……。


「ってことで、やっぱり公式が解釈違いだと思うんですよ」

「そうかな?私は、彼女はやっぱり主人公の事がまだ好きだったんじゃないかと思うのだけれど」

「ならん!我は、断固としてあの女が根っからの悪女であり、主人公の事もキープ君としか考えていなかった説を推す!でなければ救いが無さ過ぎる!」

「フフフ……その救いの無さこそが美しい……」


 俺が大量に買い込んだパンをバクバク食べながら、ヒロインが他の男に寝取られたアニメについて盛り上がっている2年生男子たち。

 別にその話題で盛り上がるのは構わんけれども、俺の周りに集らないでくれる?

 同レベルだと思われそうじゃん。

 俺は、どんな理由があれ、主人公と恋愛関係にありながら他の男と体の関係になる奴をヒロインとは認めないので、そもそも貴様らとなんて会話にならんのだが?


「大試先輩はどう思いますか?ヒロインは、やっぱり元々主人公の事なんて興味無かった派ですか?それとも、無理やり関係を持たされたか何かで、その後関係を断てなかったとかそんな感じ派ですか?」

「ごちゃごちゃうるさいから主人公はさっさとその女と間男をブラックホール作って吹き飛ばせ派」

「なんでブラックホール?」

「暗黒面かな?」

「深い絶望を表現していると見た!」

「おお……重い感情……超重力の渦……」


 なんて面白くなさそうなアニメを4人揃ってみてるんだコイツら……。

 もっとこう……何かないのか!?

 キラキラ系イケメン共の筈だろ!?


「なぁ、お前らさ、何で今日も男子4人でいるんだ?今すぐナンパしてこいよ。いけ好かないイケメンキャラの筈だろ?何オタクに優しいギャルが好んで話し掛けそうなタイプの人間みたいな会話で盛り上がってんだよ?」

「なんでナンパ!?僕無理ですよ!」

「パーティでならともかく、大して仲良くも無い女子に声をかけるのはちょっとね……紳士的ではないし……」

「彼女が欲しいとは思うが、何だかんだで今の状況が楽でな……」

「男の友情……これもまた青春……」


 ダメだコイツら。

 どうやったらこのスペックで大学卒業まで童貞でいそうな雰囲気満々の状態になれるのか。

 すげぇ不思議。


「何にせよ、女の子の前でそういう会話やめとけよ……」

「「「「あっ」」」」


 俺の言葉に、少し固まる4人の男子。

 そう、今ここには、1人女子がいるんだ。


「涅、寝取り寝取られの話題で盛り上がる男子をどう思う?」

「さぁ……?私は、バトルマンガしか読まないので、あっちにフラフラこっちにフラフラするタイプの恋愛ものはちょっと……」

「え!?涅さんもマンガ読むの!?」

「はい。前は、髪を切りに行った美容院とかに置かれているマンガを読む程度でしたけれど、最近下宿しているお宅の書庫に大量にマンガがありまして、ありがたく読ませて頂いています」

「へー!」


 涅がマンガを読んでいるという事を知り、嬉しそうになる4人。

 しかし、その前の話題でかなり白い目で見られている事に気が付いているんだろうか?

 何共通の話題を探そうとそわそわしてんだコイツら……。


 今日は、たまたま昼休みの始めの方で涅と会って、そのままパンを買い込んでここに来たんだ。

 お互い、食堂に少数で潜り込みたいとも思っていなかったのもあって、非常にスムーズに事は進んだ。

 2人で静かに飯食って、昼休みをまったり過ごそうぜってさ。

 ……なんだけども、今日も今日とて道草を食いに来た男子4人に見つかってしまい、こうしてパンを奪われている。


 涅がバタークリームパン1つ食べる間に、コイツら1人につきパンを5個くらい食ってんぞ……。

 それでもまだパンが無くならない辺り、どんだけ買ってるんだと自分で自分が面白くなってくるけれども、だってこのくらい買わないと売店のパンが全然なくならないんだもん……。

 売店のおばちゃんが、悲しそうな顔で売れ残りのパンを片付ける所なんて見たくないし、イメージもしたくないもん……。


「あ!ギャルといえば思い出したんですけど」


 マンガの話題をいくつか話し、それに塩対応している涅の雰囲気に気が付かないで盛り上がってた男子4人だったけれども、唐突に全く違う話題が始まった。


「3年のエリザベート先輩が、突然婚約しちゃったらしいんですよ!」

「「「な!?」」」


 俺は、飲んでたお茶を思わず吐き出しそうになったのを必死に我慢した。


「本当なのかい!?」

「あのエリザベート先輩が!?」

「フフフ……これは夢だ……きっと悪い夢……」

「ホントだよ!だってこの目で見たもん!薬指に指輪はめてたし!」

「「「ぐっ……」」」


「あ、涅、次はどのパン食べる?」

「卵サンドもらえますか?」

「ハイよ」

「あふぃはほうほへぇまふ」


 俺は無関係俺は無関係。


「……そういえば、私も同じくらい悪いニュースを知っているんだけれど……」

「これと同じくらい!?それはもう絶望しかないじゃん!」

「まあ、そうかもしれないね……。皆は、あのネコミミのメイドさんを知っているかい?」

「ネコミミメイド?おお!知っているぞ!すごい人気があるな!我も好きだ!」

「まるで本物かのような自然なコスプレ……あれは……良い……」

「今日の朝偶々見たんだけれど、彼女の左手の薬指にも、指輪が嵌っていたんだ」

「「「ぐああああああ!!!!」」」


 無関係無関係……。


「あ、その話ですか。それなら相手は大」

「はーい涅ちゃんカツサンドをやろう」

「え!?いいんですか!?頂きます!」


 この娘、天然な雰囲気でサラッとばらしそうになったな……。

 こえぇ……。


「はぁ……。昨日カレー屋さんでエリザベート先輩に会った時は、そんな雰囲気無かったのになぁ……」

「指輪も嵌めていなかったね」

「クソ!昨日に時が巻き戻せるならば、我が突撃して告白して結婚するというのに!」

「覆水盆に返らず……悔しいけれど……」


 なんなの?

 会うたびにこいつらは女性の左手薬指見てんの?

 こえぇよ。


「女性のプライベートについて、あんまり詮索するなよ。モテなくなるぞ?」

「「「「そうなんですか!?」」」」

「そりゃそうだろ……」


 いや、ただの馬鹿かもしれん。


「あれ?そういえば涅さんは、どうして大試先輩と人気のない所でお昼を食べてたの?」

「大試先輩『は、』ちゃんと私の希望を理解して尊重してくれるので。それに、信用に足るだけの行動もしてくれています。そもそも私はお金もありませんし、大試先輩にパンをあげると言われたらホイホイついていきますよ」

「え!?そうなの!?女の子ってパンを奢ったら一緒にご飯食べてくれるの!?」

「知らなかったな……」

「パンの焼き方を学ばねばならんか!?」

「はじめちょろちょろ中……これは違うか……?」


 ある程度空腹が落ち着いたらしく、片手に持ったパンをもそもそ食べながらもう片方の手でスマホを眺め出した涅。

 明らかにガヤガヤと話しかけられて迷惑そうだけれども、依然4人は気が付かない。

 逆に隣にいる俺の方がハラハラしてるわ……。


 エリザとファムと婚約したのが俺だってバレたら、節操のない男だとこいつらにあーだこーだ言われそうだし、それとは別に涅もそろそろ黙ってスマホに集中したそうで、それを邪魔する男子4人へのヘイトが高まり過ぎそうで怖い……。


 その時、俺のスマホが鳴った。

 取り出して画面を見て見れば、アイからの連絡だった。


「涅、今夜の夕食は、カレーらしいぞ。トッピングの希望があるかって質問来てるわ」

「トッピングの希望出していいんですか!?だったら、ハンバーグって答えておいてください!」

「わかった」


 ぽちぽちっとアイに返事を送った。


 さて、この馬鹿4人はいつまでバカな話題で涅をイライラさせるのかな?

 なんて思って目線を上げれば、何故か4人ともが俺をみていた。


「あの、どうして大試先輩のとこにやって来た夕食の話で、涅さんから希望を聞いているんですか?」

「まるで、大試先輩の家に涅さんが住んでいるみたいな会話だったような?」

「う、うむ……同棲しているようにしか見えなかったが……?」

「思春期の男女が一つ屋根の下……ナニも起きない筈もなく……」


 ……あ、しまった。

 コイツらに涅をうちで預かっている事を知られると、ギャーギャー煩そうだから、特に言ってないんだっけか?

 でもまぁ……いいか。

 もうめんどくせぇ……。


「私は、大試先輩の家に下宿させてもらってます!すごく良くしてくれるんですよ!昨日の夜も、エリザさんとファムさんっていう婚約者が増えたからってパーティーでしたし!」

「「「「…………」」」」


 何故かドヤ顔で力説する涅。

 対照的に、顔が絶望に染まる4人。

 何を期待していて、そして今何を勘違いしているのかもわからんけれども、めんどくさそうだ……。


「大試さんのヤリチン!女の敵!エッチなマンガの寝取りヤンキー!」

「酷い!私はかつてこれ程の怒りを感じたことは無い!」

「金か!?金が無いのが悪いのか!?我らが焼肉に小遣いを全てつぎ込んでしまったからモテないのか!?」

「フフフ……最近BSSで中々感じなくなってきてしまった……」


 やっぱり煩かった。


「そんなに金が無いなら稼げばいいだろ?ダンジョンで冒険者活動でもしてこいよ」

「ナンパ野郎先輩の言う事になんて従いませんよ!……因みに、どのくらい儲かるんですか?」

「値段次第な所あるね」

「1日に1万GPは欲しいぞ……」

「フッ……1000GPでも可……」


 どうやら、儲け話に興味津々らしい。


「上手くいけば1日辺り10万GPくらいじゃないか?1人につきな」

「行かなきゃ!」

「武器の準備をしないと!」

「魔物め!薙ぎ払ってくれるわ!」

「もしかしたら……ダンジョンの中で美少女と出会ってしまうかもしれない……」

「「「それだ!!!」」」


 この時、数年後の未来において、半ば伝説とされる冒険者パーティー『リア充クラッシャーズ』が結成された。

 初期メンバーの彼等は、後のインタビューでこう答えている。


『その日、優しい笑顔を向けてくる美人に何かを期待するのは止めたのが、このパーティーを作ったきっかけだ』と。



「…………アイツら、早速とばかりにダンジョン行くっぽい話しをしてたけど。午後の授業サボる気か?」

「そんなにモテたいんですかね?」

「だろうなぁ……。でも、金が無くてもアイツらなら、話題にさえ気をつければ普通にモテそうな気がするんだけどなぁ……。どう見ても、外見だけで入れ食いだろ?」

「でもあの人たちはきっと、自分の外見に寄ってくる女の子じゃなくて、しっかり内面を見てくれる人が良いと思っているんじゃないですかね?」

「内面なぁ……」

「目の前に、そこまで外見が特別良いわけでもなく、学園でも指折りの美少女をどんどんかっさらっていく人がいたら、そう思ってしまうのも仕方ないと思います」

「聞きようによってはディスられてるように聞こえるんだが……?」

「因みに私は最近まで、白馬の王子様が自分を迎えに来てくれて、お姫様抱っこでピンチから救ってくれるってシチュエーションを期待してました」

「案外ありがちだな」

「でも、すごく良かったです。とにかく、そろそろゆっくりスマホに集中させてください」

「俺も、寄生虫関係のWebページ見る作業を再開するわ」

「なんてものを見てるんですか……?」


 いや、最近ちょっと寄生虫に関する情報を更新しないといけないって実感してさ……。

 一回読み出すと止まらなくてさ……。

 日本住血吸虫症とか……。



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