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俺が目線を向けると、尻尾の毛を逆立たせて緊張した顔になったファム。
今更だけれども、相手の感情の事を全く考えずに婚約の事を話していた気がする。
というか、そもそもアレってレーテーを挑発するために言ってただけなんだけれども、ファム本人はどう思ってるんだろうか?
多分、嫌われてはいないと思うんだけども……。
以前フリとはいえ、ファムと婚約するためにファムの親父さんと決闘までさせられたんだし……。
「なぁ、ファム」
「ニャ!?なんにゃ!?」
「……なんか、めっちゃビビってないか?」
「そんなこと無いニャ!?いつも通り余裕ニャ!ニャッハハハ!」
「いや、絶対いつも通りじゃないから……」
つっても、ファムがこの状態になっている理由なんて1つしか思い浮かばない。
先程、『俺の女』と宣言してしまったんだから、そりゃその事だろうさ。
いやぁ……あの時は、完全にハイになっちゃってたよねぇ……。
とにかく目の前のオッサンを殴り倒して、エリザとファムを手に入れるんだ!って気になってたもん。
今考えると、完全に意味わからんわ。
なのに、エリザは大喜びで俺の女状態を受け入れてくれているのがそもそもビックリなんだけれども……。
そしてファムだ。
正直、あんまり嫌われていないんだろうとは思うんだけれども、正直な所どうなんだろうか?
エリザと違って、ファムは俺たちに一回殺されているような状態だ。
女神様にアブダクションされて剣に封印されたりした結果、猫耳メイドとして俺んちで生活している訳だけれども、特にこれといって今の境遇に本気の抗議を受けたことは無い。
それどころか、開放してくれって言われた事なんて一度たりとも無いかもしれない。
だから、俺の事が心底嫌で、同じ空間で生活したくないという程ではない。
ここまではオッケー。
それ以外の部分では、案外気安いというか、パンツを見られても気にしないってスタンスになりかけたかと思えば、見られて照れて、それでも俺を嫌いだと言う感じでもない。
今のソファーで座っていると、たまに後ろから抱き着いてきてウザがらみしてくることもあるし、普通の童貞であれば一瞬で勘違いしてガチ恋勢になるレベルだろう。
更には、父親相手に嘘の婚約者として紹介されて、そのまま本気のステゴロ対決をさせられたけれど、エリザ曰くアレは、魔族の女性にとってとても魅力的なプロポーズ方法であるらしいし、それを嫌いな男に、フリだとは言ってもさせるとは思えない……多分!
これらの情報から導き出される答えは……。
「えーと……」
「にゃ……」
うん、相手からグイグイ来てくれるんじゃない限り、婚約者がこんなにポロポロ増えてきた俺ですが、真面に色恋沙汰で相手に追及なんてできないですね。
童貞だもん。
チェリーボーイだもん。
そんな俺を見かねたのか、逆にファムの方から話しかけてきた。
「……ボス……じゃない、大試」
「なんだ?」
「えーとにゃ……ニャーは今、パニックルームの効果で、大試の命令に絶対服従状態ニャ」
「あー、そうだったな」
「だから……ニャ……」
ただ、その話も途中で止まってしまった。
顔がどんどん赤くなって、限界を超えてしまった感じがする。
それでも、大きく深呼吸した後に話を再開するその顔は、とても強い決心みたいなものが見えた。
「ニャーは、この手の事であまり素直になれないニャ」
「自分で言うか」
「言いたくないけど言っとかないと大試は日和るかもしれないから仕方ないニャ!」
なんか怒られた……。
「それでにゃ……『結婚したいか?』なんて聞かれても、絶対『したくない』って嘘つくと思うニャ……」
「嘘って……あ……うー?あー…………うん」
「うっわ、めっちゃ顔赤くなってるニャ」
「お互い様だろ……」
「にゃ……」
何?
なんでこいつこんな甘酸っぱい雰囲気醸し出してんの?
ドギマギしちゃうんだけど?
固まった俺の服の裾を指先でちょっと抓み、ファムが消え入りそうな声で言った。
「……だから……命令して欲しいニャ」
婚約者めっちゃくちゃ増えて、これ以上増やすのはどうなんだって思い続けてきたここ最近だったけれども、流石にこんな事を言われて拒否できる男がいるだろうか?
いや、いるかもしれんが、俺にはできない。
ファムの顔に手を添えて目を合わせる。
ファムなりにかなり勇気を出してくれたのが分かったし、これで俺が躊躇するのはダメだと思った。
「ファム、命令だ。俺と結婚しろ。必要な儀式とやらは前もって終えてあるし、魔王様にまで無理やりだけど認めさせた。だから、もうゴチャゴチャ言わずに俺の女になれ」
「…………ニャ」
どうも魔族の女性は、強めに言った方が嬉しいようなので、俺なりに俺様的な感じで言ってみたけれども、それが功を奏したのか、ファムは俺の言葉に、コクリと頷いて返事をしてくれた。
「あー!ずるいずるい!ファムだけじゃなくてウチにも今のやってー!」
「ニャ!?ダメニャ!今のはニャーだけの大試にゃ!他の感じでやってもらったらいいニャ!」
「えー!?大試は大試だしいいでしょー!?」
「うー!ダメニャ!だって……初めて好きになった男なのニャ……ニャーだけの大試もいてほしいにゃ……」
「わ!?ファム可愛い!とっても女の子っぽい!」
「揶揄うならもうこの話ヤメにゃ!」
「でもウチも大試にもっと甘い言葉言われたいー!顎をクイッてされて『おい、キスの仕方を教えてやるよ』とか言われてみーたーいーのー!」
「それどこの誰にゃ!?」
「大試にやってもらいたい!」
なんか知らんが、目の前で今回俺が婚約することになってしまった美女2人が、俺が恥ずかしさで死にそうな内容でじゃれ合い始めた。
とりあえず頭を抱えて後ろを向いた俺だったけれども、そこには当然筋肉だるまのオッサンがいて……。
「お……おれのえりざが……おとこに……とら……うっ……」
目を覚ましていたっぽいのに、また眠りに入っていった。
あれ?
そう言えば俺って、魔王を倒したことになるのか?
ははは、ゲームの勇者みてぇだなぁ!
なんて現実逃避を、左右の腕にそれぞれ抱き着かれた事で中断させられた。
「大試!ウチにもカッコいい言葉で色々な告白して!」
「いい加減恥ずかしいから帰ろうニャ!」
「それだとファムが勝ち逃げしたみたいなものでしょ!」
「勝ち逃げって……まあ、そうかもニャ?大試はニャーの事大好きだし、パンツみて興奮しちゃうエロガキだもんにゃー!」
「あー!そうやって挑発しちゃうんだ!?いいもん!ウチだってもっと大試におっぱい押し付けちゃうから!大試がやめてくれって言ったから止めてたけど、今だけは押しつけちゃうから!」
「なんでそうなるにゃ!?おっぱいとか、そんなの……結婚してからにすべきだと思うニャ……」
「とかいいながらファムだってこっそり押し付けてるじゃん!」
えーと、今日は何をしようとしてたんだっけ?
確か、飯食おうとして……。
パン買ってこっそり食ってたらバカ男子に見つかって……。
それから……。
「あ……カレー食いたいな……」
「じゃあウチが作ってあげる!」
「ニャーだって作ってやるから食うニャ!」
最早、現実逃避すら許されなかった。
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