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滅茶苦茶喜んでる美少女と、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている美女を背にしながら、俺はまた倒れ伏した魔王様の方を見た。
よく考えたら、まだ10カウントも終わってねぇなと思って……。
さっきキメ台詞まで放っちゃった上に、エリザなんて瞳がハートマークになりそうなくらい感動してるっぽいんだけど、マジで決まらんな俺は……。
…………10カウントが始まるまで長いな?
『ワアアアアアアン!!!』
「うお!?」
いきなり始まった10カウント。
てっきり、システム音的なもので行われるのかと思ってたのに、プロレスの審判みたいな暑苦しい音声で行われている。
いや、10カウントなんだからプロレスじゃなくてボクシングとかなんだろうけれども、このねっとりした感じはプロレスっぽい気がする。
しかも……。
『トゥウウウウウウウウウ!!!!』
「…………」
これ、敢えてゆっくりやってね?
這いずってロープに逃げた選手の手をこっそり蹴って戻すタイプの悪役審判みたいな感じじゃね?
このパニックルームを作った時に参考にしたのがそういうモノだったのかも……?
とはいえ、特に魔王様が立ち上がることも無く、そのまま10カウントが完了して俺の勝利が確定した。
……かに思えた。
「大試ぃ!大試ぃ!好き!大好き!」
「お……おう……ありがとう……」
俺に飛びついてきて、そのデカい胸を押し付けながら喜びを全身で表してくれているエリザ。
勿論嬉しい。
嬉しいが……婚約とかする気は無かったんだよなぁ……。
魔王様ごめん……流れでこうなった……。
ちゃんと責任は全力で取るから許してほしい……。
「ボスって本当に、アレだよにゃぁ……」
「アレってなんだよ?」
「いや、油断してるといきなりとんでもない事に巻き込まれるよニャーってにゃ」
「まあ、うん……」
俺だって、まさかカレーが食べたいなってふと思って魔王様の店に行ったら、そこから寄生生物との戦いを経て、エリザとファムの婚約を認めてもらう流れになるなんて思ってなかったよ……。
多分今日の朝起きたばかりの俺に、今日中にそういう事になるぞって教えたとしても信じないと思う。
「……あれ?」
「ん?大試、どうしたの?」
「いや、魔王様の10カウント終わったのに、このパニックルームだっけ?この空間が解除されないなって思ってさ。どうやったら外に出られるんだ?」
「ほんとだ!うーん……あ、そっか!ウチたちも参加者になっちゃってるんじゃない?」
「あー、多分そうにゃ。パニックルーム発動時の効果範囲内にいたある程度の強さのある存在は、とりあえず参加者になっちゃうんだった気がするニャ」
「へー……」
この問答無用っぽさは、流石魔王って感じだな。
実際のゲームでもきっと存在していたんだろうけれども、その場合は主人公たちの武器を強制解除することで、1ターン目の攻撃を潰したりする凶悪な効果だったのかもしれない。
場合によっては、準備不足のままきたプレイヤーに攻撃不能の案山子状態にしていたのかもしれん。
武器も魔術も使えないんだからな……。
それを防ぐためのアイテムなんかを事前に集める必要があったとか、そういう要素もありそう。
そんな中、拳で乗り切った俺のプレイは、多分一番頭の悪いクリア方法の一つなんじゃなかろうか……?
なんにせよ、このままだと終わらんわけだし、エリザとファムにはギブアップしてもらおう。
「2人とも、ギブアップよろしく」
「うん!ギブアップ!」
エリザがそう宣言すると、『ギブアアアアアアップ!』という野太い声が響いた。
さっきの10カウントと同じ声な気がするけれども、そんな音量ださんでいいから頭の上にでもギブアップしたマークでも出しとけよ……。
「……あれ?ファムはギブアップしないのか?」
「いや……だって……」
「ん?」
「んんん……!あーもう!分かったニャ分かったニャ!ギブアップ!」
どうしたのかと思ってファムを見つめると、顔を真っ赤にしながら目線を逸らし叫ばれた。
そして、再度『ギブアアアアアアップ!』と響くのと同時に、ゴングの音が鳴り響いた。
そして、パニックルームが解除される。
どうやら俺が勝者で確定したらしい。
あー、疲れた……。
「さぁてと……魔王様は、生きてるよな……?」
「うん!パパはこのくらいだったら死なないと思う!その内起きてくると思うよ?」
「ならいいか……。それはそれとして……レーテー、意識があるか無いかは知らんが、パニックルームの効果でお前は今、俺の命令に絶対服従なんだよな?今すぐ魔王様の体から出て来い」
『…………』
俺がそう命令すると、魔王様の体からもわもわっとどす黒い物が染み出してきた。
最初は気体っぽかったのに、段々と密度が上がってねばねばのドロドロの物になった。
これが、レーテーなんだろうけれども、闇魔術で自意識を維持できるネトネトを作り出してギリギリ生存しているって事かな?
まあ、何でもいいけれど。
とにかく、現時点では会話もできない状態らしい。
「そのまま動くな。死んでも動くな。そもそも、生きていると言って良いのかもわからんドロドロだけども」
『…………』
俺の命令によって、完全に動きを止めたドロドロレーテー。
その黒いスライムみたいなものに、倶利伽羅剣で作り出した業火をぶっぱなした。
この炎ならば、他の物に影響を出さずに魂まで焼き尽くしてくれるだろう。
そして数十秒もすると、後にはただ筋肉ムキムキのおっさんだけが残っていた。
「あー……これで本当に終わったっぽいなぁ……」
「うん!大試ありがと!」
「……エリザ、まだ結婚したわけじゃないんだし、そんなに胸を押し付けてくるのはどうかと思うんだけども……」
「えー?このくらい普通じゃないの?恋人になったんだもん!大試がしないだけで、普通はもっとすごい事だってしてると思う!」
「そうなんだろうけれども、俺はその辺りもっと大切にしたいというか……これはポリシーの話でだな……」
「うーん……うん、そっか。わかった!だって、私も大試のお嫁さんになるんだもんね?夫になる人が大切にしたいと思ってる事なら、やっぱり大切にしてあげたいもん!」
「ありがとう、頼む……」
まあ、その内目を覚ますであろう魔王様の眼前で、俺がエリザに抱き着かれてエッチな事になっていたとしたら、今後どんな目で見られるかわかったもんじゃないという事情もあるんだけれども……。
「……………にゃ」
「あっ」
その短い声を聞いて、俺は瞬時に思い出した。
そういえば、今回俺はもう1人婚約することを決めてしまったんだったと。
声の聞こえた方を見れば、顔を真っ赤にしてそわそわし続けている猫耳メイドがいた。
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