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「1辺が100mの正方形の空間!今この中は、我が『パニックルーム』の影響下にある!」
高笑いをしながらそう宣言するレーテー。
我が!とか言ってるけど、それ体から技まで全部魔王様のだろうに。
「パニックルームのルールを説明するぞ!」
「……え?説明してくれるのか?」
「それもルールのうちだ!ルール説明をしなければ、パニックルームの本来の効果は発揮できない!」
「そうなんだ……」
魔王様がやるなら、正々堂々とやりたいんだろうなぁって印象になるけれども、レーテーがやると慢心とか油断って言葉しか出てこねぇな……。
イメージの問題だからいいけどさ……。
こっちとしては有難いし。
「まずだな、この空間の中では、先程言った通りこちらが設定したルールを強制的に守らせることができる」
「凶悪な技だな」
「まあ、こっちも同じルールに縛られるので、この特徴自体はそこまで凶悪ではないかもしれんが」
「そうか……」
ルールを説明するために内容を頭の中で整理しているのか、フハハ笑い的なのが無くなったレーテー。
勢いが無くて、それでいて一生懸命ルールを説明しようとしているので、すごく馬鹿っぽい。
一応コイツ、魔王軍では数少ない知将系の幹部だったはずなんだけどな……。
「そして肝心の今回の設定ルールだ!」
「おう」
「まず、ゴングが鳴るまではお互いに戦闘行為ができなくなる」
「おう」
「戦闘方法は、徒手空拳のみに限定される。仮に武器を手に持とうとしても、直ぐに納刀状態に戻されるぞ」
「……成程?」
「魔法や魔術の使用も禁止だ。つまり、身体強化魔術も使えん」
「おう」
「身体強化魔術までいかない、魔力をただ纏うだけであればセーフだ」
「……ふむ」
「つまりは、マッスルと魔力で相手をぶちのめせ!」
「わかりやすいな」
「勝敗は、10カウント制だ。どちらかが倒れると、空間自体の機能でカウントがスタートし、10秒以内に立ち上がれなければ負けが確定する。後は、場外はなく、ギブアップは可能だ」
「ほう」
「敗北した者は、そこから1週間強制的に勝者の部下になり、何でも言う事を聞かなければならない」
「ん?今何でもって言った?」
「因みに、これらのルールはプリセットされていたもので、私はどう弄ったらいいのかわからんが、設定完了ボタンの押し方だけは感覚でわかった」
「そうか……」
「どうだ!?筋肉と膨大な魔力を兼ね備えた魔王を相手に、このパニックルーム内で戦うのがどれだけ恐ろしい事か理解できたか!?」
「ふーむ……」
うーん……。
俺は、とりあえず手を握ったり閉じたりしてみた。
手に剣を持つことはできないみたいだけれども、システムというか、世界の理的には装備している状態にはなっているらしく、神剣によって身体能力が上がったままのようだ。
これってもしかして……?
「うわぁ……これ使っちゃうにゃ……?」
「パパの得意なやつだよね?ファムもこれ使われてすぐギブアップしたんじゃなかった?」
「そうニャ。魔術とか使っていいなら割と頑張れそうな気がしたけど、流石にあの魔力おばけの筋肉だるまに殴り合いで勝てるとは思えなかったニャ。それで部下になった後、特に何か命令される事も無く1週間経って、寝床がもらえるからってズルズル魔王軍に残ってたら幹部になってたニャ。元々就職するつもりだったしにゃ」
「そうなんだー」
その時、この男くさい空間の中に清涼感のある声が響いた。
なんていうか、フローラルさまで感じる。
俺と魔王ボディのレーテーだけじゃ、ちょっとアレだわ……。
「あれ?ファムたちも巻き込まれたのか?」
「そうみたいニャ。テレポートで出ようとしたけど、魔術とかに該当するのか無理っぽいにゃ」
「ウチも今はただの女の子くらいの力しか出ないかも……変化も切れちゃってるし……」
「あ、ホントだ。久しぶりに見たなその瞳。縦長瞳孔」
「あ……。あのね……変……かな?」
「目か?いや、これはこれでアリじゃないか?キリっとして可愛いと思うぞ」
「ホント!?ありがとう!」
この部屋の中という限定空間だと、レーテーに寄生される危険性もありそうな距離ではあるけれど、寄生行為がは多分攻撃と見做されるだろうし、一応は安全か?
できれば外にいてほしかったけども……。
そして、説明されたルール通りであれば、魔王様とレーテーもこのルールを無視することはできない筈なので、レーテーによる筋肉乗っ取りは既に攻撃判定にならない段階まで進んでしまっているって事だろうなぁ……。
本格的にボコって死ぬ寸前まで追い詰めて逃げ出させるしか無いか……。
「こちらを無視して何をイチャついている!?」
いい具合にレーテーのヘイトを俺に向ける事が出来ているし、これでファムとエリザの安全はある程度守れるだろう。
……いや、ファムについてはアピールしておいたけども、一応エリザに関してもやっとくか?
「俺が俺の女とイチャついて悪いのかよ?」
「ふざけるな!ファム嬢はこのレーテーが幸せにするのだ!」
「だぁからファムは俺の女だって言ってんだろ?それによぉ、エリザも含めて俺の女だからな?イチャつくことに文句言われる筋合いねぇなぁ」
「え!?」
「なん……だと……!?」
目を見開き、固まるレーテー。
どうだ?
俺の事をもっとクソ野郎だと思ってヘイトを向けろ!
「ねぇ……大試……」
「ん?」
レーテーに注目しながら悪い顔を維持していたら、後ろから声をかけられたので振り向いた。
するとそこには、顔を真っ赤にしたエリザが……。
「……エリザ、今までの一連の流れちゃんと見てたよな?」
「うん……」
だったら、俺がアイツのヘイトを稼ごうと敢えてクソ野郎ムーブ決めてた事も理解できてるよな……?
別に本当にエリザとファムを手籠めにしようとしている訳じゃないからな……?
今言ったらレーテーにバレそうだから口にはできないけども、分かってるよな……?
「あのね……あのね大試!」
「ん?」
「魔族には、古くからあるしきたりって言うか……伝統の婚約方法があって……」
「……うん?」
「もう実践してる魔族もあんまりいないんだけど、女の子は割と憧れてるプロポーズ方法で……」
「……あー、うん」
「男の子が、女の子に同意してもらってから女の子のパパとタイマンステゴロバトルで勝てば、正式に婚約者になれるっていうので……」
あの、いきなり何ファンシーな事をモジモジ説明しているんですかエリザさん?
いや、冷静に見ると最後の方はファンシーじゃねぇけど……。
……あ、でもこれ覚えあるな?
「そういや、ファムにもやらされたなそれ」
「え!?ファムも!?」
「にゃああああ!?いや、だからあれはそう言うフリにゃ!内緒ニャ!」
「でもでも!やった段階で正式な婚約だって……」
「婚約ならアレにゃ!結婚確定じゃないからセーフにゃ!」
「ふーん……ホント?」
「ニャ……」
ファムとエリザが何やら顔を赤くしてじゃれ合っているのを見ている俺ですが、背後からの刺すような憎しみの波動がめっちゃ怖い。
これ、レーテーだけじゃなくて魔王様からのなにかも飛んできてない……?
わかってるよね?
そういうフリだからね?
「……うん、ウチ決めた!」
俺が冷や汗をかきながら状況の推移を観察していたら、突然エリザが決意の表情でこっちを向いた。
「大試!ウチ、その……おっけーだから……パパに勝って?」
「ちょ!?エリザお嬢様!?」
「ウチは演技じゃなくて本気だから」
「待つニャ!落ち着くにゃ!」
「落ち着けないもん!ドキドキしてるもん!だからおっけーなの!」
「にゃああ……」
なんか、恐ろしい事言ってきたなこの娘……。
今ここには、体を動かすことができないとはいえ、貴方のお父様もいらっしゃるんですよ?
それも、魔王様なのその方。
更に、散々俺が嫉妬の炎にガソリンぶっかけてやったレーテーとかいう奴もいるの。
「ひゅおおおお……ふひゅおおおお……!」
後ろからの奇妙な音に、首をギギギと効果音が付きそうな動作で振り返れば、怒りで顔を真っ赤にしている魔王ボディレーテーの姿が……。
目からは血の涙を流し、口からは言葉にならない恨み辛みを絞り出すかのような呼吸を繰り返している……。
え?
今から俺、コレと戦うの?
素手で?
しかも、仮にレーテーをなんとかしたとしても、その後魔王様にも対応しないといけないの?
やばない?
そんな混沌の中、何が切っ掛けだったのかも分からないけれど、鐘の音が聞こえた。
ッカアアアン!
多分、これがゴングなんだろうなぁ……。
「大試ぃぃぃぃいい!がんばってー!!!」
「内蔵ぶちまけて死に晒せニンゲンのヤリチンガキがあああああああああああああ!!!!!!!!!!」
開幕早々、殴り合いの経験が足りない感じがする子供っぽい喧嘩パンチが飛んできた。
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