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丸太を叩き割って組み合わせましたって感じのお手製燻製機っぽいものを前に、魔王様がニヤニヤしながらメモを取っている。
燻製機だっていうのは、叩き割った丸太製の箱の底から未だに煙が出ているのと、中に何かが吊るされて燻されているのが見えるからだ。
あと、臭いがすごい。
煙の臭いっぽいんだけど、とりあえず体に悪そうなので、風下から少しずれて隠れ直した。
「何となく何やってるのかは見えるんだけど、見た上で具体的に何をしているのかわかりにくいなぁ……。第一、なんであんなメモ書きまくってんだ?それより目の前の真っ黒な何かの燻製っぽいのを何とかしろよ。くせーんだよ」
「ボスって、食べ物の事になると沸点低くなるよニャ」
「そうか?そうでもなくないか?」
「そうかにゃ?」
「そうだよ。なんかイラっとするだけだ」
「ニャハハ」
「ははは」
「「…………」」
どうにもさっきから、現実を受け入れようとしたくないのか、話が逸れに逸れていく。
だってさぁ、アレ、絶対魔王様じゃないもん。
この距離から見ているだけでもわかるもん。
なんていうか……こう……何かのオタクが、自分の好きな事を研究していて、その実験結果を今まさにノートに纏めているような雰囲気なんだけど、魔王様の雰囲気と似ても似つかないんだよなぁ……。
魔王様も割とカレー関係の時は、研究者みたいに色々詳しく調べながらやってるんだけど、その姿はムキムキ筋肉姿のオッサンに似つかわしくない程学者チックだった。
それに比べて、今あそこでニヤニヤしながらメモを取りまくってる男は、どうみてもそんな知的な感じではない。
誤解を承知で敢えて言えば、何かの強烈なオタクが大喜びしながら実験してるようなそんな感じ。
俺の知り合いだと、マル義兄さんが近いか?
違いとしては、性格が悪そうというか、ストーキングとかしそうな雰囲気に見える。
おかしいなぁ……。
一応見た目は魔王様なんだけどもなぁ……。
「一応確認なんだが、ファムとエリザは、アレが魔王様に見えるか?」
「見えないニャ」
「全然違うと思う……」
「だよな……」
体は、魔王様本人っぽいけど、明らかに何かに操られているというか、本人じゃない者の意思で動かされているというか……。
「女の子になったんじゃなかったんだ……」
「え?ソレまだ引き摺ってたのか?」
「だって……パパが可愛い女の子になってたら、一緒に可愛いギャルの格好できたなぁって思って……」
「それは……」
地獄絵図では?
言いかけて、ある意味魔族っぽいかと思ったりしながらも、飲み込んだ。
「でも、ボスの話だと、フクロ蟲だったら生殖器がメスにされるんだよニャ?だったら、外側から見てわかるとは限らないにゃ」
「怖い事言うなよ……」
「案外あのシャツを脱がせたら、ブルンとおっぱいが零れ落ちて、下は大事なものが無くなってるとかかもしれないニャ」
「お前、絶対面白がってるだろ?」
「現実逃避ニャ」
いい加減現実を見ろ。
とりあえず、世界を滅ぼしかねないパワー持ってるオッサンが、意識を乗っ取られてるっぽいんだぞ?
メス化でキャイキャイ言ってる場合じゃねぇんだよ!
「とはいえ、どうしたもんかなぁ……」
「叩いたら治らないかニャ?」
「パパの体だったら、多少叩いても平気だと思う」
「ミサイル撃ち込まれても平気だろうな」
だって魔王だもん。
魔王が対地ミサイルで倒せる作品俺は知らんもん。
いくらゲームをモデルにしたっつったって、流石にそれは無理だろ?
神様だったら、電動のこぎり的なもので瞬殺できる可能性もあるが。
え?ないよね?
「問題なのは、体そのものは、魔王様本人っぽいってことだよなぁ」
「魔力的にはそうにゃ。魔力が混ざってるから寄生されてるんだろうけどもニャ」
これが、完全なる偽物だったら話は簡単だった。
消し飛ばして終わり。
不意打ち上等だ。
だけど現状は、魔王様本人を人質にされているようなもんだ。
「パパなら殺しても復活できないかな?」
「流石魔王の娘だな。普通は考え付かないことを平然と言ってのけやがる……」
「にゃあ……」
「でも、パパなら復活しそうな気がしない?」
「うーん……」
「どうだろうにゃあ……?案外ああいうオッサンがいきなりぽっくり逝っちゃうイメージもあるニャ」
「え……ヤダ……パパ死んだらヤダ……」
「なんでいきなり泣き出したにゃ!?」
「あーあ、ファムがなーかせたー」
「うっせーにゃ!」
とにかく、殺すのも止む無しと判断するのは、本当に最後の最後の段階だろう。
今は、なんとか無事に魔王様本人を助けられるよう行動すべきだ。
そこで俺は、再度魔王様の姿を観察する。
メモ書きを未だに続けているけれども、更にべらべら何かを喋ってるっぽいんだよなぁ。
とはいえ、この距離だと流石に何を言っているのかまではわからない。
スパイ映画なら、指向性マイクで50m以上離れた所から音を拾えるのかもしれないけれども、そんな便利グッズも無しでこの鬱蒼とした森の中でそんな離れた所のオッサンの喋る声を聞き分けろとか無理ゲーすぎる。
森の中ってのは、案外五月蠅いんだ。
葉っぱが擦れる音ですら、他の音を聞きたい時には非常に邪魔に感じれるくらい煩い。
「なんとかアイツが何喋ってるのかだけでもわかんねーかなぁ……」
「にゃ?それならわかるニャ」
「は?どうやって?」
「テレポートの応用で、少しだけあの辺りの空間とここら辺を繋げるにゃ。あっちの声だけこっちに届くように空間を繋げばバレないしニャ。まあ、これ結構難しいから、目で見える範囲くらいじゃないとできないんだけどもにゃ……」
「いや有能かよ……」
スパイグッズよりもヤバイ奴がいた。
よく考えたら、ファムさえいればスパイなんてし放題だったかもしれない。
そりゃ日がな一日、居間でテレビ見ながら煎餅食ってても許されるわけだよ。
俺が許してしまっていたわけだが。
「じゃあ早速頼む」
「わかったにゃ。ニャ!」
ファムが掛け声を上げると、俺達の目の前に黒くて小さな空間が出来た。
なんていうか、ちょっと怖い……。
「なにこれ……?」
「あっちからの音だけ届くようにしたにゃ。光が飛んでこないから真っ黒な空間になるニャ」
「ああ、そうか……」
言われてみればそうなのかもしれんが、深淵を覗いている気分になって怖い……。
とはいえ、だ。これで何か重要な情報が得られるかもしれないし……。
気を取り直して、音に集中することにする。
『フフフ……!ハァッハッハッハ!これだぁ!これこそが私が追い求めていた物だぁ!』
「うん、魔王様じゃないなぁ……」
「ニャ……」
「パパじゃない……」
なんか、声が馬鹿っぽい。
『しかし、まさか魔王の体がこうも扱い辛いとは思わなかったが、これでようやくまともに魔術を使えそうなくらいなじんだ気がするぞ!この黒イモリの燻製でなぁ!』
「……え?イモリ食ったのか?」
「ニャア……」
「パパ、イモリイーターになったんだ……」
もし俺が誰かに体を乗っ取られて、その間にカエルの卵でも食べさせられていようもんなら、人生に絶望してしまうかもしれない。
酷いことするなぁ……。
『これで……これであのニンゲンの餓鬼に復讐できる!それに、ファムを私の物に出来る!』
「ん?人間の子供はともかく、ファム?」
「はぁ?ニャーの知り合いにゃ?てか、だれだとしても絶対あんな奴の物になんかなりたくないけどニャ……」
「魔族なのかな?」
ファムの追っかけだろうか?
魔族だとしたら、魔族の領域から態々ここまできてまで?
やばいな……。
『そう!この知識とマッスルの申し子、レーテー様のな!』
「……レーテー?」
「レーテーにゃ?」
「レーテー……?」
あっさりと自分の名前らしきものを教えてくれた犯人だったが、ファムもエリザも心当たりが無いようだ。
これは、長引きそうだな……。
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