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魔王様が、エリザとカレー屋を放置してどこかへ行っているという有り得ない状況。
事は、この世界を揺るがす問題になりかねないクッソ面倒な物な臭いがプンプンする。
女児アニメを見て母キャラに目覚めと騒ぐ奴くらい面倒。
となれば、だ。
「エリザ、その事について詳しく話を聞きたい。だけどその前に、この馬鹿どもにカレーを頼む」
「あ!うん!」
俺とエリザが話している横で、顔を赤くしながらエリザの胸に視線を釘づけにされている2年生男子たち。
こいつらの醜態があまりに酷いので、とりあえず食欲で脳みそを麻痺させてやろう。
王盛りカレーを出されたら、それだけで恐らくノックアウトだ。
「「「「お願いしますっ」」」」
「はーい!ちょっと待っててねー!」
「「「「はうあっ」」」」
エリザが戻っていく場面で男子たちがまた例の発作を起こした。
いや、何に反応した?
「やっぱり裸エプロンじゃない……なのに!」
「そうか……ホットパンツってこんなにいいんですね……」
「天然……天然だ!」
「おお……女神の如し……」
馬鹿だった。
ってか、女神っていうか、魔王の娘にして将来の魔王だったかもしれない存在なんだが……。
可愛いのは認めるがな!
ジューっと揚げ物をする音が響き始めてから10分ほどで、巨大な皿に盛りつけられた王風カツカレー王盛りが4皿やって来た。
「「「「おおお……!!!」」」」
エリザがその皿を持つと、毎回胸の前に持ち上げているので、男子たちの視線が忙しなく動いていたけれども、とりあえずテーブルの上に固定されたようだ。
「召し上がれ~」
「「「「頂きます!!!!」」」」
テンション高く食べ始める男子4人。
よし、これで邪魔は無くなった。
アレさえ食べさせとけば、ほぼ確実に奴らはノックアウトだ。
ごはんで2kg、ルーで1kg、カツが4枚の王盛りの前にひれ伏していろ!
いや、すげぇペースで食うなこいつら?
さっきパンも食ってたよな?
いいけどさ……。
俺は、テーブルから立ってエリザを連れてカウンターへと移動した。
「で、魔王様どんな感じだったんだ?」
「それがね……パパがウチのことを『エリザベート』って呼ぶの……。いっつも『エリザ』って呼んでたのに……。別の人になっちゃったみたいで……」
「それは重傷だな……」
即時緊急事態宣言が必要なレベルだ。
「一昨日帰って来た時も無表情で、自分の部屋でゴソゴソ何か探してたみたいだけど、見つからなかったみたいでまたどっかにいっちゃった……」
「うーん……。異常事態だって事だけは確かだけど、詳しく何が起きているのかはさっぱりだな」
「うん……。それにね、カレー粉がもうすぐ切れそうなの。このお店のカレーの調合方法だけは、パパも教えてくれてなくて、このままだとあと何日かで切れちゃうから、お店を閉めるか、ウチが代わりに作るかしないといけなくて……」
「それも中々重大な問題だな……」
魔王が変な事になっているのに比べたら些細な問題かもしれないけれども、個人の飲食店で起きる問題としてはかなりキツイ。
見せを長期間閉めていたら、再開しても客が戻って来てくれるかわからないし、味が変わったら固定客が離れるかもしれない。
そして、その判断を娘のエリザがしないといけなくなっている事自体も辛い。
何を選択しても確実に売り上げがマイナスになるのに、何かしら選ばないといけないって言うのは、俺だったら心臓バクバクだわ。
「あ、そうだ!大試、お願いあるんだけど……」
「なんだ?」
「ウチの調合したスパイスで作ったカレー、食べてもらえないかな……?その、パパ程上手く作れてないかもだけど、味見して観想聞かせてほしいなって……」
「いいぞ」
「ホント!?ありがとう!」
美少女が、正面から見ると裸エプロンみたいに見える格好でもじもじしながら手作りカレーを食ってほしいって言って来たら、思考をするまえに脊髄反射でOKの返事を出すのは仕方ないと思う。
仮に口に入れた瞬間、煮詰めたゴーヤ汁みたいな味がすると先にわかっていたとしてもOKを出すレベル。
「エリザベート先輩の……手作りカレー……?」
「なぜ……なぜ大試先輩だけそんな美味しいことに……?」
「おかしい……我は納得できん……!」
「フフフ……これこそBSS……」
お前らもカレー食ってんだろ!
魔王が調合したスパイスのやつだぞそれ!
「はいどーぞ!」
「……ハートマーク?」
「これはウチが一から作ったカレーだから、盛り付け方もウチが自由にしていいかなって!」
「成程……。ちょっと恥ずかしいけれど、エリザらしいといえばエリザらしくて良いと思う」
「ありがと!」
出てきたカレーは、ルーの海の中にハート型の白いご飯が島の如く鎮座しているような盛り付けだった。
まず、スプーンでルーを少しとって香りを確認する。
「……ふむ……うんうん……」
「……!」
俺の一挙手一投足をじっと見つめているエリザ。
こうも凝視されると緊張するな……。
あと、男子共。
お前らはもっとカレーに集中しろ。
「じゃあ、味も見ていくか」
「うん……!」
ルーを口に入れてみる。
ほうほうほう?
なるほどなるほど……。
「そうだなぁ……。まお……店長のカレーを100点として評価すると……」
「ゴクリッ」
「87点だな」
「ホント!?パパのカレーと比べて87点も貰えるの!?」
「うん、普通のレストランで出てきたら、文句なく金払う出来だと思う」
「やったー!」
ぴょんぴょん跳ねるエリザ。
その揺れる胸元を凝視しながらカレー食ってる器用な男子4人。
零したらゲンコツだぞ?
「ガラムマサラの香りが強く出過ぎている気がする。逆に、クローブは少し増やしてもいいかもしれない。まあ、その辺りは好みによるから、あとは自分が納得できるものにしていけばいいと思うけどな」
「そっかー……。大試って、結構スパイスにも詳しいのー?」
「いや、身体能力が上がったせいで嗅覚も鋭くなってるのと、この店に通ってたら自然となんとなくわかるようになっただけだな。だから、あんまり力にはなれないかもだけども」
「ううん!すごく参考になったよ!でも、えへへ……87点かぁ……!」
ニヤけて顔を両手で挟むエリザ。
そしてそれに納得していないっぽい男子4人。
「いや、エリザベート先輩の手作りってだけで1億点だよね?」
「確かに……いや、でも、今私たちが食べているカレーだって、スパイスの調合はともかく、エリザベート先輩の手作りといえるのでは?」
「なん……だと!?では我らは今、美少女の手作りカレーを食べているという事か!?」
「然り……そう考えればだんだんこのカレーが光り輝いているように見えてきた……」
よし、こいつらはもう好きにさせておこう。
「エリザ、店長についてはこっちでも調べてみるよ。ファムにも確認だな」
「うん、おねがい!やっぱり大試に相談して良かった!」
「俺も教えてもらって助かった。知らんうちに大変な事になってたかもだし」
「うん……えへへ……」
あまり表には出していなかったけれども、内心結構心細かったのかホッとしている様子のエリザが、俺の隣の席に座って左腕に抱き着いてきた。
エリザは元々割と距離感近めでボディタッチが多めだから、俺としては割と慣れたもんなんだけれども……。
「「「「ぐぎぎぎっ」」」」
後ろで歯を食いしばりながらカレーをパクついてるらしい男子4人には、後でゲンコツ落としとくことを決心しながら、俺はエリザのカレーを食べて空腹を満たして行った。
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