784:
「局員を全員呼び出せ!何?さっきやっと徹夜明けで寝た奴らがいる?知らん!全員だ!」
早朝7時。
最近眠りが浅く、しっかり寝たはずなのに疲れが取れないと嘆くおっさん。
肩書としては、『王都テレビ報道局長』という仰々しい物があるが、ついさっきまでは、『早くに目覚めた上に二度寝もできそうになかったので、仕方なく早朝から出社することで部下たちに無自覚な嫌がらせをするおっさん』でしかなかった。
朝の報道番組担当者が出社しているにはいるが、本来この時間帯に局長クラスが出勤している事は殆ど無い。
なので、通常であればのびのびと仕事ができる時間帯のはずが、睨まれながらの早朝作業になってしまい、顔には出さずともスタッフたちの雰囲気はどんよりしていた。
その彼の行動が、今日に関しては功を奏す。
「詳細を話せ!正確にだぞ!」
「は、はい!先程複数の教会関係者から得た情報なのですが、現教皇が辞意を表明し、更に後任を『教会バトルロイヤル~奥多摩がリングだ!~』の優勝者に指名させるという事です!」
「よし!全員聞いたな!?教皇が生きているうちに自らの意思で辞めるなんて前代未聞だ!これは、間違いなくトップニュースになるぞ!可能な限りの人員を取材に向かわせろ!今すぐにだ!」
「「「「「はい!」」」」」
「ところで、『教会バトルロイヤル~奥多摩がリングだ!~』って何だ?」
「教えてくれた教会関係者も、同じことを呟いていましたよ……」
同日同時刻、王城。
「陛下!」
「……おう……なんだ?騒々しいな……」
「就寝中に申し訳ございません!至急お耳に入れたい事が!」
王様ですらまだ眠っている時間帯。
王の寝室へと側近が駆け込んできたのは、そんな明け方の事だった。
因みに、最近は王様と王妃様は、別々の部屋で寝ている。
何故かというと、王妃様が若返ったせいか、同じ部屋で寝ていると次の日に王様が何故か疲れているからだ。
王妃様は逆にツヤツヤしているし、王様も幸せそうな顔ではあるのだが……
「教皇猊下が退任を表明し、『教会バトルロイヤル~奥多摩がリングだ!~』を開催すると宣言したそうです!優勝者に次代教皇の任命権を与えると!」
「教皇が!?一時期から人が変わったようだったが、まさか教皇という立場を捨てるとはな……」
普段は、豪放磊落を地で行く王様だが、流石に教皇が突然辞めると言い出せば、心底驚くものだ。
しかも、起き抜けにそんな事を教えられれば、それも一入だろう。
「それにしても、『教会バトルロイヤル~奥多摩がリングだ!~』だと?」
「はい!まだ詳細については発表されておりませんが、バトルロイヤルという言葉から推察するに……」
「おう!面白そうだな!俺も参加するか!」
「あ、それは無理です。王妃様から、『暫く公務以外やらせたらダメよ』と指示を受けておりますので」
「なんとかならんか!?」
「なりません」
「そうか!」
王妃様のおかげで、なんとか王様のスケジュールが守られた瞬間だった。
同日同時刻、ある貴族の家の諜報員たちの詰め所にて。
「なぁ、その話本当なのか?」
「ああ、間違いない」
「いや、だってよ……。『教会バトルロイヤル~奥多摩がリングだ!~』ってなんだよ?ふざけてんのか?」
「大真面目だ。何より教皇本人が大真面目に決めた事だ」
「頭イカれたんじゃないか?あの爺さん」
「そういう風に見せているだけかもしれんがな……」
「教会の上層部なんて、伏魔殿も良い所だ。キツネにタヌキに、イタチや蛙まで居やがる。どこまで本気なのか。本気だとして、それを真っ当に完遂するつもりがあるのかどうか。まったく、始末に悪いな……」
「とはいえだ。今俺たちが心配するべきは、教会の生臭共の事じゃないだろ?」
「はぁ……。そうだな……」
『教会バトルロイヤル~奥多摩がリングだ!~』
それが何かは、現時点で正確に把握している者はいない。
しかし、優勝したら教皇の任命権が得られるものであるという事だけは確かなようなので、参加条件次第では、間違いなく自分たちの主から参戦命令が下る。
表の戦力である騎士だの武士だのと違い、本来日の目を見ない筈の自分たちだとしてもだ。
それ程の価値が、教皇という立場を自由にできるという得点にはある。
ある……が……。
「ぶっちゃけ、もし俺が優勝したら、今の主じゃなくて一番高くその権利を買ってくれる奴に任命権渡すな」
「わかる。あのおっさん最近マジでウゼェからな。しかも、そこら中に髪の毛ばら撒くし」
「ウゼェよな。……ただ、お前、髪に関しては勘弁してやれよ……」
後に『教会バトルロイヤル~奥多摩がリングだ!~』の参加条件が、『教会信者か、教会信者から代理人に任命された者』という事が発表されると、一攫千金を狙う者たちは狂喜乱舞し、一部の人間たちはこの世の終わりのような顔になったという。
同日同時刻、某神社。
「こんな感じでとりあえず作りましょうか!」
「ドライアド1万体程で作るので、多少お時間は頂きますが……」
「構わないわ!石像の方は、もっと時間かかるって言われているもの!」
「畏まりました。世界樹様の巫女様がそう仰るのであれば」
世界は、刻一刻と動いていた。
感想、評価よろしくお願いします。




