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午前の筆記試験が終わり、昼食を挟んでから、午後は実技試験となる。
俺とリンゼは、超低テンションの涅を引っ張り、生徒会室へとやって来ていた。
彩音と、生徒会のアドバイザーとして一緒に行動していた理衣と共に、ここで昼食をとる約束をしていたので、ついでに午後の打ち合わせもしてしまおう。
本当は、聖羅や有栖も同席するはずだったんだけれども、教会関係で何か問題が起きたそうで、2人ともぷんすこほっぺた膨らませながら出撃していった。
とりあえず俺は行かなくていいらしいけれども、とりあえずって何だろうか?
場合によっては、俺を巻き込む可能性があるってことだろうか?
まあ、いいけどさ……。
「うぅ……。半分も埋められませんでした……」
「試験時間中半分くらい机に突っ伏してたもんな」
「見てたんですか!?」
「そりゃ、リエラまで貸してるんだから、様子は確認するだろ?」
「ああぁぁ……」
試験中をほうふつとさせるポーズで机に突っ伏す涅。
癖なんだろうか?
「大試さん、この方は?」
「あぁ、新入生の涅咲愛って言って、今後1年ほど運勢最悪っぽい女の子だ。可哀想だから、サポートしてやろうかと」
「成程、大試さんの友達ではないんですね?」
「まあ、そうだな。友達って訳では……」
「初めまして涅さん。私は、生徒会長の水野彩音です。大試さんの親!友!なんです」
「は、はあ……。よろしくおねが……え!?生徒会長!?」
何故か俺の友達であるという事でマウントを取りに行った彩音。
しかも、親友であるとまで盛って。
しかし、そんな事よりも彩音が生徒会長ということにびっくりしている涅。
まあ、いきなり連れてこられて、何故か生徒会長と飯食うってなったらビックリするかもしれんな。
でもさ、少なくとも入学式で挨拶している筈だし、この部屋の上にも生徒会室って看板ついてたぞ?
ボーっとし過ぎだろ……大丈夫なんだろうか?
日常生活に支障出てそう。
まあ、ご両親が亡くなってすぐって話だし、仕方ないのかもしれないけれども。
「大試君、また女の子を連れて来ちゃったんだ?」
「またって……。これには事情があってさ。詳しくは、リンゼに聞いてくれ」
「大試がこの娘をお姫様抱っこしたから責任とろうとしてんのよ」
「へぇ……?」
「あれ?なんか空気悪くない?」
理衣の目が笑っていない。
でも、俺は別にふしだらな理由で女の子を連れて来た訳じゃないんだ。
そこは信じてほしい。
「涅ちゃん、私は猪岡理衣です。リンゼちゃんと一緒で大試君の婚約者なの」
「リンゼよ。よろしく」
「は、はい、こちらこそ……あれ?リンゼさんって言うと、ガーネット公爵家の……それに猪岡って侯爵家の……」
「あ、実家の事は気にしなくていいよ?大試君の婚約者だってことだけ覚えておいてね?」
「は、はぁ……」
今の今まで、この部屋にいるのがどんなメンバーなのか分かっていなかったらしい涅だったけど、ようやく自分の置かれた状況が理解できてきたらしい。
筆記試験と親の御不幸でへにゃへにゃになっていた脳みそが回転を始めたようだ。
「あの……犀果先輩って、もしかして……『あの』犀果ですか……?」
「『あの』ってなんだ『あの』って」
「だ、だって……四国を壊したとか、魔皇クジラを踊り食いしたとか、いろんな噂あるじゃないですか!」
「どんな噂だよ……?化け物じゃんそれ……」
デタラメにも程があるだろ。
四国は、勝手に浮かび上がっただけだし、魔皇クジラはゲロビームを吐いて暴れてたのを遠くから見守ってただけだぞ。
「そういえば、どうして私はこんな場所に!?こんな、お貴族様たちがいっぱいの場所に!」
「いや、俺が連れてきたからだが?」
「どうして私を連れて来たんですか!?」
「午後の打ち合わせついでにご飯食べようぜって」
「言われてみればそんな事をさっき言われたような気もしますけど!そもそも打ち合わせって何ですか!?」
「うん?実技試験でぶっちぎって、1組狙おうぜって思って」
「1組!?どうして1組に!?」
「運勢的にその方が良さそうだなぁと」
「こんな高位貴族のお嬢様方と生徒会長に囲まれてご飯食べる方が精神的に緊張して体に悪そうなんですけど!?」
よくしゃべるなぁ。
その元気を是非筆記試験で発揮してほしかった。
しかし、もう過去には戻れない。
未来に進むしかないんだ俺たちは。
「まぁまぁ。はい、お弁当」
「あ、すごい良い匂い……」
「だろ?彩音がこれが良いって言って聞かなかったから、正直女の子にこれはどうなんだろうと疑問に思いつつ注文しておいた今日の生徒会用仕出し弁当だ。多めに注文しておいたから、食べてくれ」
「え!?チョイスに何か問題ありましたか!?」
「うーん……スタミナ弁当って学校で女の子が食べるのどうなんだろうと思いはするぞ?」
「だって今日は忙しくて、スタミナ必要そうじゃないですか!?」
「そうかもしれんけども、ニンニク臭は……まあいいけども」
「あはは……。まあ、私は、カツサンドにしておこうかな……」
「アタシもカツサンドね」
「えぇ……?スタミナ弁当美味しそうなのに……」
スタミナ弁当は、生徒会の男子たちも食べるので多めに用意したけれども、多分女子たちは困りそうだと思ったので、女子用に他のメニューも注文しておいたんだ。
正解だったな。
「まあ、弁当の内容はともかくとしてだ。涅、午後の実技試験の話だ」
「あ、ふぁい」
「食べてる時に返事しなくていいぞ」
頬っぺたパンパンにしながらいつの間にか弁当を食べていた涅。
食欲はあるらしい。
「午後の試験中、リエラから涅に魔力を供給してもらおうと思う。そうすれば、多分1年生の中だとぶっちぎりで1位獲れるんじゃないかと思うんだよな」
「はい 蝶は 1位とります」
「おう、頑張ってくれ」
ミニサイズになって俺の弁当の横に座っているリエラに、ニンニクが効いた豚肉を箸で与えておく。
午後は頑張ってもらいたいので、たとえ見た目幼女だとしても、ガンガンニンニク臭をさせながらスタミナ補給してもらおう。
「でも、午前中の試験、私最悪でしたよ?午後1位になったところで、1組は無理そうじゃないですか?」
「いや、魔術を使える人間に対して、この国が求めている能力といえば、やっぱり一番は戦闘力だ。となれば、午後の実技試験で周りをぶっちりぎりさえすれば1組に行ける、と思う」
「そうなんですか……」
「1組になれば、卒業後の進路もより取り見取りだろうしな」
「あ、それは嬉しいです。今、将来に不安しか無いので……」
涅ちゃんのテンションがまた一瞬で地の底まで落ちた。
こいつぁできるだけ早く心のケアが必要だな。
その為にも、1組にぶちこんで良い環境で生活させてやらないといけない。
悪落ちサブヒロインにさせてはいけない。
リンゼが落ち込むから。
「リエラ、大変かもしれないけど、頼むぞ!」
「はい 蝶は いっぱい 頑張り ます」
あとから考えると、まあつまり、俺がそんな事を念入りにリエラに頼んだのがまずかったわけだが。
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