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「それで、あの娘が厄介な理由ってなんなんだ?」
「そうね……まあ、色々あるのだけれど……というより、色々あり過ぎるのが一番の問題なのよね」
「どういうことだ?」
「シリーズ中でもトップクラスに救いの無いキャラなのよあの娘」
「救いが無い?」
「これでもかってくらい何やっても上手くいかず可哀想な目に合わされて、それは悪堕ちもするわよねって状態になった上に、そのまま何も報われずに悪のまま主人公に殺されるだけの役割っていうね。なんなら、その主人公も彼女の初恋の相手だったりするのよ。プレイヤーが作った主人公のアバターが男キャラだとしても女キャラだとしてもね」
「なんでそんな事に?顔は、この世界でも上位の可愛さだったよな?そういうキャラって、普通優遇されるもんじゃないのか?」
「あー……まあ、ある意味優遇されていたというか……」
「猶更わからんのだが……」
「2代目プロデューサーがディレクターだったときに生み出したキャラらしいんだけれど、その2代目プロデューサーの小杉ってカスが、徹底的に可哀想な女の子が好きって言う特殊性癖の持ち主で、その標的にされたって本人が雑誌のインタビューでゲロって、大炎上したのよね」
「小杉ぃ……」
可哀想な目に合っている女の子が好きと一口に言っても、実の所かなり度合の部分で個人差がある分野だ。
少しケガしたくらいの女の子で興奮する奴もいれば、大事故で四肢の何れかを失ってしまった女の子というシチュエーション自体が好きというどす黒いのまでいる。
更に上のタイプもいるけれども、正直俺には理解できない性癖なので、これ以上の言及はしたくない。
だって俺は、好きな女の子には、常に幸せでいてほしいタイプなので。
女の子が主人公のアニメで、事あるごとに女の子周りで悲しいトラブルが起き、それを女の子が乗り越える事で成長する姿を見せようとする作品が昔から割とあったけれど、大体キツくて最後まで見れないんだよなぁ……。
つまり、俺とその小杉というプロデューサーが仲良くなる事は、未来永劫無いという事だ。
まあ、世界も違うしな。
「あの子が悪落ちする最初の原因は、両親が悪の組織的な奴らに殺されちゃう事なのよ」
「へぇ……。悪の組織ねぇ……」
「実は、魔王軍の残党なのよね」
「酷いな魔王軍」
「ところで、この世界の魔王軍って今どんな状態か知ってる?」
「畑仕事したり、畑に出てくる害獣や害虫を狩ってるって聞いたぞ」
「らしいわね。今や武器より農機具を使ってる時間の方が長いらしいわ」
「すごい事になってるよな」
「アンタのせいだけどね……」
リンゼが大きめにため息をつく。
お姫様抱っこをしている状態なので、その吐息を直に感じてゾクゾクしてしまった。
これも何かの特殊性癖なんだろうか?
いや、好きな女の子の吐息に反応するのは、通常の性癖じゃないだろうか?
「あれ?ってことは、あの涅って女の子の両親って何で死んだんだ?」
「だからそれが不思議なのよ。魔王軍は、別に滅んだりしていないし、今となっては魔族の領域から出てくる必要すら無いじゃない?食料は、自分達で十二分に得られているし、土壌改良によって住める場所も増えて、土地の心配すらなくなったんだから」
「悪の組織が他にできたとか?」
「逆に聞くけど、悪の組織って具体的には何だと思う?」
「こう……黒ずくめで……サングラスかけてて……」
「そんなの、実際にいると思う?」
「さぁ……?」
「アタシは、もしそんなすごくわかりやすい悪の組織員がいたら、とりあえず攻撃魔術をぶちこむわ」
「街中でリンゼが攻撃魔術を人に向かってぶっ放したってニュースが無いって事は、早々そんな人間はいないってことか」
「つまり、アタシがあの子の両親の死亡からの悪落ちを知っていながら防げなかったとしても、仕方ないと思わない?魔王軍の残党って言う、どうとでも弄れる舞台装置が無い世界で、悪の組織なんてもんが成立していたとしてもわからないし、それ以外の理由で亡くなったのだとしたら、それこそ神のみぞ知るって奴よ」
「……あ、そういうことか」
さっきからどうも話が脱線しているというか、涅咲愛って女の子のこれから起きる面倒事に関してではなく、その両親が死んだことについてばかり言及しているなって思ったら、なるほどなるほど……。
「つまり、何となく責任を感じてしまったと?」
「だから、アタシは別に悪くないし……」
「そうだな、お前は悪くないと思うぞ。彼女の両親の死については、詳しい事はまったくわからないけれども、リンゼは女神の力置いてきちゃってるんだし、防ぐのは無理だったと思うぞ」
「そうよね?そう……よね?」
「一応確認だけれども、最近誰かに冷蔵庫のプリンを食われたからって爆撃したりしたか?」
「してないわよ!」
「なら大丈夫だろ」
そう言ってやると、俺の首に回されていたリンゼの腕が、更にきつく抱き着いてきた。
こいつって、案外責任感じちゃうタイプだよなぁ……。
うーん……。
まあ、割と面倒な案件なんだろうけれども、こうなったら仕方ないか……。
「リンゼ、その涅が悪落ちなんて状態になるのって、つまりは酷い目に遭いまくったからなんだよな?」
「……そうよ。少なくとも、アタシがこの世界を作った時には、その辺りの設定はゲームに忠実にしたわ」
「だったら、話は簡単だな」
「何がよ?」
「涅咲愛が悪落ちするような酷い目に遭わないように、俺が徹底的にサポートしてやりゃいいんだろ?」
「はぁ?それ、どんだけ大変かわかってる?」
「わからん。彼女が悪の組織とやらに寝返るのって、何時頃の話だったんだ?」
「確か、夏休み前には悪の組織に入ってて、それが発覚するのは、夏休み後だったはず。そのまま仲間パーティに選択できなくなって、冬休みにはボロボロになった状態で敵として出てくるわ」
ほうほう?
「つまり、夏休みまで守り通してやれば、大分彼女が悪落ちする確率が減りそうって事だな?」
「アンタ、ゲームのスケジュールも知らずに徹底的なサポートをするとか言ってたの?」
「そりゃ、大切な婚約者を安心させるために必要なら、そのくらいするだろ?」
「…………何カッコつけてんのよ?」
少し調子を取り戻したリンゼが、俺をジト目で睨みながらひっぺたを指でグリグリしてきた。
なんか、幸せだなこれ……。
もっとやってほしい……。
「因みにだけど、悪落ちして冬休みに敵として出て来た時、オンラインゲーム基準だったから100レベル越えだったのよ。そこら辺も厄介な理由なのよね……」
「先に言えよ。ヤバいじゃん」
「ヤバいのよ」
よーし、頑張って鬱フラグをぶち壊すぞ!
感想、評価よろしくお願いします。




