第9話 古典的ツンデレ
「待て。翻訳珠の都合かもしれない。スキルという言葉をどう認識している?」
「あの、魔法蟲を使わなくても、魔法を使える能力のようなものだと思っていたのですが……」
オレはシリウスの顔色を窺った。骨を被っているのだから分かりようがない。
「概ねその通りだ。そして、魔法蟲や魔法機なしで魔法を使うのは、魔物だけだ。この家からほとんど出たこともなさそうなお主がスキルという呼び方まで知っているとはな」
こうなったら異世界転生のことを全て打ち明けるしかない。オレはこちらの世界に来た経緯を詳しく説明し、『異種族友好』と『献身』というスキルを持っていることも伝えた。
「私に使ったな?『異種族友好』とやら。この私が立場を忘れてお主のことを気にかけてしまうのは、そのスキルが原因か」
「も、申し訳ありません」
自覚があるものなのか。オレは冷や汗を掻いた。
「いや、私でも使っていたことだろう。よく正直に話してくれた。異世界の神からの祝福であれば、そういうこともあろう。ただ、他の者にはスキルの話しをせぬ方がいいぞ。この世界における魔物は討伐対象だ」
シリウスの口調からは圧を感じる。不自然なほど寛大な処置は、スキルのおかげだろう。
「一度発動したスキルを取り消す方法はありますか?」
「言っておくが、私はそのスキルがなかったら、お主を保護しない可能性が高いぞ。そして、この世界で指折りの権力を持つ者の一人である私を敵に回したら、お主はかなり不利な立場になる。それでもいいなら、ただ念じればいい。簡単に取り消せる」
……怖い。オレの身の安全もそうだけど、こんなにオレのことを心配してくれるヒトから、軽蔑されたくない。
「……すみません」
「賢明な判断だ。他の者にもスキルを発動させておいた方がよかろう。特に、お主と共にメカに会いに行くことになる私の妹には。昨日も会っただろう?」
あの花人か。って、妹ぉ!?何も似ていないが?
「良いんですか、自分の妹に変なスキルを掛けられて」
「お主は善良な人物のようだ。構わん。それに、あいつにとってもその方がいいと、私は思う」
いやいや、いいわけないだろ!
「そろそろ来る頃だ。上に戻ろう」
人形や床、的が元に戻っている。オレはシリウスの後について地下室を出た。豪華な調度品に囲まれた広い部屋に着いた。中には既に花人がいた。魔法珠を付けている。オレとシリウスも腰掛けた。
「ちょっと、お兄!本気でそのバケモノを飼うつもり?信じらんない!」
心象は悪そうだ。シリウスは動じずに言った。
「改めて紹介しよう。棘のある美しき花、フローラという。水と土の魔法を使う。こう見えてなかなかの実力者だ」
ようやく名前が分かった。オレはフローラに頭を下げる。
「夜です。お世話になっております」
「やめて!敬語なんて使っちゃって、キモいんだけど!」
この口調は翻訳のせいなのか?調子が狂う。
「夜、このじゃじゃ馬を手懐けてやってくれ」
「誰がじゃじゃ馬よ!」
シリウスの背中の管から軽快な笛の音が鳴っている。フローラは荒々しく胸のハープを掻き鳴らす。
「こんな未知のバケモノ、さっさと処分しよ、お兄!」
「ほう、本気で私に逆らうのか、フローラ?」
シリウスの威圧感で息が詰まりそうだ。シリウスはフローラに手をかざした。フローラの角が光り、身構えている。
オレの脳裏に、オレを庇うために戦って死んだドクターが浮かんだ。オレのスキルのせいで兄妹が争うなんて、あってはならない!
「やめてください。フローラは間違っていない!オレ、出て行きます」
「その必要はない。お主があのじゃじゃ馬にアレを使いやすいよう、私が鞭を当てておいてやる」
シリウスの手元に火花が見える。
「ダメです!オレは、使いません。異種族友好なんて──」
『異種族友好が発動した』
はい!?
「ま、まあ?お兄がどうしてもっていうなら?このバケモノの面倒をみてやってもいいけど?」
フローラは腕を組みながら言った。オレとシリウスは顔を見合わせて、盛大に噴き出した。何だこのコッテコテのツンデレは。
「何よ!二人して!面倒みてあげるって言ってんの!感謝しなさいよ!」
ぷくーっとヴェールが膨れている。心なしかかわいく見える。
「ありがとう、フローラ。これからよろしくね」
「き、気安く呼ばないでよね!」
「傑作だ。最高だよ、夜。あの生意気な妹が、こんな……。ククク……」
笑っている場合か、これ?さっきまで処分とか言ってたのに、この豹変だぞ?
それより、どうしてスキルが発動したんだ?オレはフローラに触れてない。前は異種族友好と口で唱えても、発動条件を満たしていないと言われたのに。
「馬鹿にしないで、お兄!」
「いや、面白い手の平返しだと思ってさ。お前、ついさっき何て言ってた?」
フローラのヴェールの桃色が濃くなった。どういう原理なんだ、あれ。
「あ、あれはちょっと、コイツの反応を試したっていうか?でも、コイツ、追い詰められても異種族友好とか変なこと言うだけだったし、よく考えれば、こんな弱っちいヤツが何かしても、ウチが叩きのめしてやればいいだけだもん」
フローラは角を光らせる。さっきまで青かった翻訳珠が赤く光っている。
そうか。翻訳珠があるから、今回はフローラに『異種族友好』という言葉の意味が伝わったんだ。スキルの発動条件は、相手にこの言葉の意味が伝わること、あるいは直接触れて念じることのどちらかなのかな?
「はい、嘘。翻訳珠が赤く光ったぞ」
シリウスが言うと、フローラは慌てて翻訳珠を隠した。
嘘を吐くと赤く光るのか、これ。ヤバ。オレ、今までに何か嘘吐いたっけ?
「お前も年頃の女の子だ。こんな神々しい男に会ったら恥ずかしくて素直になれないよな?」
フローラのヴェールが真っ赤になった。
「ち、ち、違うし!?馬ッ鹿じゃないの!?」
え、ええ……?
「アハハハハ!」
シリウスがピィピィ笑い転げ、フローラがペシペシとシリウスを叩く中、オレは呆然とそれを眺めているしかなかった。はあ、もう、馬ッ鹿じゃないの?
【作者のメモ】
・シリウスとフローラは一歳離れた兄妹
・フローラは水の魔法蟲15匹、土の魔法蟲10匹を移植している、Aランクの魔法使い




