第8話 魔法と魔法蟲
「うぅ……」
「お、目が覚めたか、夜」
オレはスクイーズくらい柔らかいベッドの上にいた。目の前には、犬の頭蓋骨。オレは飛び起きた。少しクラクラする。
「無理するな。どうも昨日食べた百花寄せがお主には強烈な眠気を催すものだったようで、申し訳ない」
ベッドサイドの机で機械を眺めているのは、シリウスだ。ここまで運んでくれたのか。
「こちらこそ、お手数をお掛けしました」
「安心してくれ。生前、ドクターがお主のカルテをまとめていた。それをもとに衣食住の手配をするつもりだ」
ありがとう、ドクター!あのやけに痛い機器、意味があったんだね!ごめん!
「ただ、現在の設備では、食はともかく、室温や湿度、魔力量などの調整を完璧には行えない。Sランクの光魔法の使い手、ドクターならいざ知らず、私ではその状態のお主の健康を保てる自信がない。一刻も早く調整しないと、健康に重大な害を及ぼすだろう」
よく分からない言葉のオンパレードであることは一旦置いておこう。オレの健康に関わるらしいから。
「そこで、提案がある。魔法機の発明王にして、機械化人である、機王メカに頼んで、お主の生存に必要な機械をもらってきてほしい。無論、費用は私がもつ。どうだ?」
どうもこうも選択肢がない。
「ありがたい提案です。ご厚意に甘えさせていただきます」
「物分かりがよいな。すぐ出発というわけにもいかない。何か質問などあれば伺おう」
待ってました!よほど喉から出掛かっていたんだ。
「この世界のことは何も知らないのですが、一番気になるのは魔法です。オレのいた世界にはなかったもので」
「ほう。お主は運が良い。私は魔法を極めし者、全属性の使い手だ。実演しつつ説明しようか。来たまえ」
シリウスは嬉しそうにメロディを奏でながら、オレを地下室に案内した。部屋全体が白く発光しているように見える。奥の方にはアーチェリーの的のようなものと人形がある。
「魔法は、この頭に寄生している魔法蟲を通じて使う。魔法蟲は常に宿主の体内の魔力を食べて生きている。宿主が魔法を使おうと思うと、魔力を大量に食べて魔法を放ってくれるのだ。ここまではいいか?」
いいわけないだろ!その角、寄生虫なのかよ!グロい。魔法への憧れが消え失せるくらいにはグロい。
「寄生って、どういうことです?」
「ヒトは、魔力はあっても魔法を使えない種族なのだ。生後間もなく魔力量と適性を調べ、植蟲の手術を受ける。魔力量が多ければ、多くの魔法蟲に魔力を喰わせることができるから、使う魔法も強力になる。複数の属性の魔法蟲を宿していれば、魔法の幅が広がる」
赤ちゃんに蟲を寄生させるの?うわあ……。
「まあ、この先は見てもらった方が早かろう」
シリウスの角が光った。ヘラジカのように枝分かれした、立派な角が。
「光魔法がもっとも馴染みあるはずだな?自他の魔力に働きかけて循環をよくするものだと思ってもらえればいい。身体能力の強化、魔法の強化、治療、精神安定などができる。こんな風に」
シリウスは目にも留まらない速さで地下室を一周した。うん。どこが『光』?まあいいや。
「続いて闇魔法。これも自他の魔力に干渉するのだが、循環を妨げる。混乱、眩暈、麻痺、昏睡……致命的な障害を引き起こすこともある。あの人形を見てくれ」
シリウスは人形のスイッチを押した。人形はふらふらと動き出したが、シリウスの角が光ったかと思うと、その場にバタリと倒れた。
「火魔法」
シリウスの手から赤い炎が放たれ、的に当たった。
「水魔法」
シリウスの手から水の弾が放たれ、的に当たった。
「風魔法」
シリウスの手から風が巻き起こり、的に当たった。
「土魔法」
床の一部が持ち上がり、的に当たって元に戻った。
「いくら魔力量が多くても、植蟲できる上限は安全のために30匹と定められている。全ての属性の魔法蟲を5匹ずつ移植している私は、単属性魔法の威力は低い。光魔法の蟲を30匹移植したドクターに光魔法では敵わない。ただ、総合力では私が最高とされている。身に余る光栄だが、最高の魔法使いに与えられる、『魔王』の称号を冠している」
シリウスは人形を再起動させた。シリウスの角が激しく光ったかと思うと、人形に向かって火を纏った旋風が吹き荒れ、床が波打ちながら攻撃し、ボロボロになった人形が凍り付いた。
魔王か。単に最も優れた魔法使いとして使われる称号だったんだな。
「ところで、お主のデータを見たのだが、魔力量が異常な多さだった。血を精製して魔力補給薬を作れるほどだとか」
オレはドキッとした。そうか。オレの血をもとに作った薬を飲むと魔法の威力が上がるのは、オレの魔力量が多いから……。そう言えば、魔力って何?まあいいや。魔法を使うためのもとだろう。
「すみません、隠すつもりは!」
「魔力の消費量が多い魔法機も使いこなせることだろう。……え?」
オレたちは一瞬固まった。わーい、墓穴掘った~!
「メカに生存のための機械を作ってもらったら、それを稼働させるための魔力が必要になる。お主の魔力量が多いのは喜ばしいことだ。どうして隠そうとしたのだ?」
「すみません。血が薬になると知られたら、その、厄介なことになるかと……」
オレは俯いた。謎生物の面倒を見てくれている親切なヒトに失礼なことを……。シリウスはピロピロと笑った。
「心配はもっともだ。案ずるな。私は今のところお主に危害を加えないし、このことは内密にすると約束しよう」
ヒトが良すぎる。異種族友好のせいだろう。これも、確認してみるべきか?
「ありがとうございます。ところで、スキルってご存知ですか?」
「……どうして、それを?」
「え?」
シリウスの雰囲気がピリッとした。
ガイア様~!前々から言いたかったんですけど、ちょっとキツ過ぎませんか、この状況。せめてもう少し事前情報が欲しかったですよ!
【作者のメモ】
・角に見えるものは、魔法蟲カバー。魔法蟲を外部の衝撃から守っている。着脱可能
・魔法蟲は宿主から魔力さえもらえれば、食事の必要がない。野生の魔法蟲は高い魔力を持つ魔物に寄生している




