第10話 機王メカについて
「べ、別にィ?コイツの顔がちょっとばかり整ってて、美術館で見る絵画に出てくる天使にそっくりだからって、何とも思ってないんだから!勘違いしないでよね!」
やめてくれ!恥ずかしくて死ぬ!
「あの、オレの見た目なんて、ごく平凡ですよね……」
「ハアァ!?」
「からかわれても困ります。そもそも、貴方から見たらオレなんてバケモノでしょう?」
フローラはシリウスを見上げた。シリウスはヒューッと長い音を漏らす。
「夜のいた世界ではどうか知らないが、この世界でお主を見たら、十人中十人がその美しさに見惚れることは請け合いだぞ。闇市に出したら最高額が付きそうだ。お主の顔がここまで美しくなかったら、ドクターも誰かにお主のことを相談くらいできただろうに」
わーい、人生初のモテ期到来だあ!相手が異形限定だけど!
「ドクターが言葉も通じない状態でオレの面倒を見続けたのって……」
「翻訳用の魔法機器は高価な割に魔力を食うからな。あまり出回っていない。ドクターの財力では買えなかっただろう」
謎が解けた。
「高価なものをありがとうございます」
「気にするな。私には、はした金だ」
カッコいい……。
「さて、フローラが同行してくれるとして、メカの所に行くための打ち合わせをしようか」
オレはシリウスに勧められ、青緑色の飲み物を口にした。ミントのような清涼感とショウガのような辛みが舌を刺す。ほんのり身体が温まる。おいしい。
「メカの住処は龍脈に近い。防魔マスクが必需品になるな」
「龍脈?」
フローラが呆れたようにハープを鳴らす。
「地上には所々、魔素が地中から噴き出して魔素濃度が高くなる場所があるの。そういう所には体内の魔力量が多い、つまり強い魔物が棲むんだけど、魔物さえ棲まないほど魔素が濃い場所が龍脈よ。龍脈の近くには魔法蟲の成虫が結婚飛行に行くだけ。そんな場所にヒトが行けば、数分で死ぬわ」
「本当は全身防魔服がないと危険だが、お主の体格に合わせて作らせる時間はない。お主の魔力量を考えると、防魔マスクで事足りるだろう」
不安だなあ。でも、信じるしかない。ていうか、魔法蟲ってそんな凄い生き物なのか。
「分かりました。フローラは全身防魔服を着るのですよね?」
「当ッたり前でしょ?アンタみたいなバケモノと一緒にしないでくれる?あと、敬語もやめてって言ってるでしょ!」
「……ごめん」
この世界の敬語の立ち位置が分からない。敬語を使えって言われるなら分かるけど。
「メカの所へは車で一時間くらいか。道はフローラが分かっている。それよりは、メカについて話しておこうと思う」
ホログラムが現れた。真っ青な長い角が一本生えた橙色の炎のようなものが見える。
「これがメカだ」
「これがメカ?」
生き物にも見えない。
「適性検査時の手違いで、Sランクの水魔法使いメカには、水の魔法蟲が一匹移植されただけだった。魔力量は有り余っているが、成長してから再移植を行うのは、安全上認められない。しかし、メカは幸いにも魔法機を作る才能があった。魔法機を使うには自由に使える魔力が多い方がいい。怪我の功名というやつだ」
「お兄、機王様の半生を語り出したら終わんないでしょ!もっとまとめなさいよ」
面白かったけどな。
「とにかく、魔法機器を発明することにかけては右に出る者がない。ゆえに、『機王』の称号が与えられている。しかし、性格は一癖あるぞ。自身も機械化してしょっちゅう装甲を変えているし、ヒトを見ると改造したがる。お主のカルテは送ってあるが、見たことのない生物だ。改造したがるに決まっている。気を付けろ」
どう気を付ければいいんでしょうか、それは。
「情けないわねえ。ウチが付いてるって言ってんでしょ?機王様がいくらアンタを改造したくても、魔王であるお兄に逆らうことはできないんだから!」
「魔王の方が機王より権力があるのか」
「魔王は龍脈災の発生時に陣頭指揮を執るからね。他の四王と別格なの」
フローラは胸を張って答えた。この世界の政治体制はどうなっているんだろう。まあいいか。
「龍脈災って?」
「龍脈から大量の魔素が噴出することで、大量の魔物が魔素濃度の低いヒトの居住区に侵攻する災害。ここ数百年起こってないけどね」
なるほど。そりゃ確かに災害だ。
「龍脈災はともかく、魔物くらいには出くわすだろう。道中は夜の身の安全の確保を第一とするように、フローラ」
「はーい」
フローラはヴェールの隙間からストローを通して青い涼やかな飲み物を飲んでいる。緊張感は全くない。シリウスの手元の機械が光った。
「メカのやつ、早いな。いつでも来ていいと。何か言っておきたいことはあるか?」
分からないことだらけだが、確認は後回しだ。
「では、一つ。オレと一緒に異世界から犬がやってきているはずなんだ。犬という生き物は……」
「ドクターの記録媒体に残っていた、これだろう?ドクターも探しているようだった」
ホログラムでルーチェの姿が映った。
「そう。ルーチェって言うんだ。どうか、その子を探し出して保護してくれないか」
「はぁ?こんな間抜けそうなのを?ウチらに何のメリットがあるわけ?」
オレはフローラの発言にイラついたが、どう考えても向こうの言い分が正しい。
「対価なら払う当てがある。オレの血から魔法を強化する薬が作れることはドクターが証明済みだし、闇市にだって売れそうなんだろう?だから──」
「ば、馬鹿言わないで!アンタ、それがどういう意味か、分かってんの?」
シリウスの角が光ると、フローラが黙らされた。魔法か。
「夜、お主はこの世界の相場も知るまい。軽々しい発言は慎むことだ。不当に搾取されてもおかしくないぞ」
「これだけ親切にしてもらったんだ、そこは信用する」
シリウスは立ち上がった。オレは生唾を呑む。
「夜、フローラ、行ってこい。ルーチェについても情報を集めておく。その後の話しは、帰った後にしよう」
「ありがとう」
下に降りると、車や荷物の手配が済ませてあった。オレとフローラはシリウスに見送られ、メカのもとに向かって旅立った。
【作者のメモ】
・フローラは美術品の収集が趣味。シリウスは魔法の研究が趣味
・魔法の適性検査及び、魔法蟲の移植は医王の管轄である




