第11話 人助け
フローラは真っ白なウェディングドレスのような服で全身を覆っている。頭には透明な球体を被っていて、宇宙服っぽい。車は白い大きな球体だ。中には席が四つあり、前方にはモニターがあり、車外の様子が見える。オレはフローラの隣に座っている。目元に仮面をつけ、布を一枚、口元に巻いて。防魔マスクってこんな簡易でいいんだ。
「じゃ、移動している間暇だし、アンタの元いた世界の話しでもしてよ」
「そうだね。まず、太陽は一個でもっと大きく見えるし、空は青くて──」
「ちょっと待って!何それ、ウチをからかってんの?」
「冗談であってほしかったのはオレの方だよ」
いい反応だ。オレは魔法珠をフローラに突き付ける。当然青い。嘘は吐いていないのだから。フローラのヴェールが白くなった。
「本当に異世界から来たの?ヤバ」
「まだ驚くには早いよ。地平線は水平に見えるくらい真っすぐで、場所によっては見渡す限り真っ青な大海原が広がってるんだ」
「何それ、面白そう!」
オレはフローラにせがまれて、地球の様子を詳しく語った。オレの知識は中学の理科で止まっているけど。この世界とはかなり相違点が多いようだ。
しばらく話していると、車が止まった。フローラがモニターを操作する。
「どうしたの?」
「進行方向に魔物の群れがいたみたい。狩りの最中かな。迂回しないと。あ!」
フローラはモニターの映像を拡大した。髪の毛が蛇のように蠢いている二頭身の生き物が蜘蛛のようなもの三匹に囲まれている。その髪は三匹の蜘蛛に絡まっている。蜘蛛はバタバタと手足をばたつかせている。
「女の子が魔物に襲われてる!」
「助けられそう?」
「ウチを誰だと思ってんの?」
いや、分からないから!フローラの実力も魔物の脅威も!
「助けてあげられない?」
「お兄からアンタの安全確保を第一にするように命令されたから。ウチが外に出たらアンタが危なくなるかも──」
「お願い!助けてあげて!オレのことはいいから」
『献身の発動条件が満たされた』
発動してもオレが戦うわけじゃないけど、発動して損はないな。
『献身が発動した』
「あれ、何か身体が軽くなった」
「え?」
「とにかく、行ってくる!」
献身の効果か?あれ、オレ以外にも効くんだ。
フローラは勢いよく飛び出して、水を放った。蜘蛛たちが水浸しになった。蛇髪がフローラに髪を伸ばしたが、蜘蛛が脚を振り上げて切り裂く。フローラが手を伸ばすと、蛇髪の足元が流砂のようになって、蛇髪は沈み込んだ。髪を伸ばしてくるが、届かない。フローラは蛇髪の目の前に行って、水を撃ち出した。蛇髪の頭が吹っ飛び、髪も動かなくなった。
え、そっちが魔物なの?ってことは、女の子って……。フローラが蜘蛛三匹を引き連れて帰ってきた。ああ、うん。女の子ね。オーケー。
「大変!この子たち、急性魔素中毒を引き起こしてるわ!」
「どうしたらいいの?」
蜘蛛の目のような小さな十個くらいの目がピカピカと光る。光る箇所と光り方が規則的だ。多分、これが言語なのだろう。
「すぐにでも、魔素の少ない所に運ぶしかない。まあ、車の中でも多少はマシね。でも、この車は四人までしか乗れないから……」
「オレが降りるよ」
「ダメ、魔物が多すぎる。死ぬわよ」
蜘蛛はピカピカと目を光らせている。何となく苦しそうだ。オレはさっさと車を降りて、蜘蛛たちに車に乗るよう合図した。蜘蛛は車に乗った。フローラも乗り込んで、蜘蛛の手当てを始めた。車が透明になり、中の様子が見えるようになった。
「応急手当はしたけど、やっぱりすぐ医者に診せなきゃマズいわ」
フローラの声が車から聞こえてきた。一番大きな蜘蛛の目が光る。
「何て?」
「末の妹だけでも助けてくれって」
大きな蜘蛛は硬そうな脚を小さな蜘蛛に伸ばしてトントンと優しく背を叩いている。見た目はアレだけど、見捨てるのも忍びない。
「この三人は車を動かせるの?」
「自動運転だから」
「じゃあ、三人に車を譲って、オレたちは歩いて行くっていうのはどう?」
フローラは車を降りてきた。ハープをそっと鳴らす。
「正直、末の子はもうダメだと思う。せめて防魔マスクでもないと。あの子だけ降ろして四人で出発するのが一番良いわ」
フローラの言うことはきっと正しいんだろう。でも、この子はまだ生きているのに、姉妹が傍にいるのに、見捨てるなんてオレには……。
「……分かった」
「ウチが上手いこと言うから。アンタは黙ってて。どーせ下手な同情してみょーなこと言うに決まって──」
オレは口元の防魔マスクを取った。
「ちょっと!?」
「これをあの子に。どうか全員助けてあげて」
息苦しくはない。龍脈から遠いからか?何にせよ良かった。
「……ここまで馬鹿だと、いっそ清々しいわね」
フローラはオレの手から防魔マスクをむしり取った。そのまま車に颯爽と乗り込んだ。
「感謝しなさい、アンタたち。この車と防魔マスク、ちょっと貸したげるわ!十分回復したら、魔王の妹、フローラに返しにいらっしゃい」
三匹の蜘蛛の目が激しく明滅する。しきりに脚を擦り合わせている。
「早く行きなさい!」
蜘蛛たちを乗せた車はあっという間に見えなくなった。はや!
「呆れた。この魔素濃度でも何ともないのね、アンタ」
「シリウスの部屋との違いも分かんないよ」
「うわ、鈍すぎ!水中に突き落としても気付かないんじゃないの?」
「気付いた頃には空の上かもしれないな」
本当にお空の上に行く羽目にならないといいんだけど。
「ま、気分が悪くなったら言いなさいよね。アンタみたいな細枝、ウチの魔法でちゃちゃっと運んじゃうから」
「ありがとう、フローラ」
フローラのヴェールがほんのり赤くなった。
「ねえ、気になったんだけど、アンタにはウチやあの子らがどう見えてるわけ?」
「どう、とは?」
「あの子ら、醜すぎる。普通のヒトなら関わることも避けるわ」
「え?」
この世界のヒト基準でもアレなのかよ!かわいそうに。
「アンタには、ウチもあの子らと同じように見えてんの?」
「いや、正直、フローラの方がかわいいよ」
急に大量の水が降ってきて、オレは水浸しになった。オレの言い方も悪かったけどさ!
【作者のメモ】
・蜘蛛の顎に見える部分が角なのだが、夜は気付いていない
・蜘蛛姉妹は別の場所から魔物に攫われてきたため、魔素濃度の高さに耐えられない状態だった




