第49話 攪乱と隠し玉
オレはアルバを攻撃しようとして思い止まった。こんな巨体で暴れ回ったら、他人を巻き込んでしまう。オレは舌打ちをして人間姿になった。こうなったら、献身を発動して全員守ってやる!
「シールド展開しました!」
「オーケー、攻撃してくれ!」
アルバから身を守るように岩や炎、氷、風の盾があちこちで展開された。アルバに向かって、弾丸、岩、剣、毒など、あらゆる攻撃が降り注いできた。アルバは華麗に攻撃を躱して聖剣を振ろうとしたが、オレが攻撃の渦中に飛び込んでアルバを蹴ったことで、オレへの反撃に切り替えた。
「全員撤退していいよ」
「甘く見られて傷付いちゃうな」
「敬意を表してんだよ!」
聖剣からは高出力の光線が出続けている。受け続けるとオレの身が持たないが、逸らすと味方に当たる。既に血と悲鳴が広がっている。アルバの数百メートル圏内には原形もあやふやな塊が無数に転がっている。負傷者を連れて撤退できる状況ではなさそうだ。
「話がある。実はアルバの——」
オレが話し掛けたタイミングで、アルバの後ろから氷弾が迫ってきて、アルバは全て弾き返した。
「その手には乗らないもんね」
「違うんだって!オレが言いたいのは——」
不意に宙に巨大なルーナのホログラムが出現した。
「にぃに、なんでこんな怖いことするノ?やめてヨ、にぃに」
戦場に大音量でルーナの声が響き渡る。念話はできなかったのか。これでは会話どころじゃない。オレは諦めてアルバの聖剣を避けることに専念した。
「ルーナ、どこにいるのですか?」
ソーレの声も拡張されている。
「こっちには夜にぃ、シャドウねぇ、フローラねぇもいるヨ。けんかはやめようヨ、にぃに」
「ルーナ、お兄さんのところに来なさい。お兄さんはルーチェ様に恩返しをしなくてはならないのです」
「でも、夜にぃたちとけんかするのやだヨ」
「ルーナは何もしなくてよいのですよ。僕は誇り高き魔龍として、受けた恩に見合った血を流さなければならないだけです」
律儀すぎる。しかし朗報だ。アルバに交戦の意思がなくなれば、ソーレも止まってくれるだろう。オレは全力でアルバを止めるだけだ。
アルバは完全にオレとの戦闘に集中している。聖剣から放たれる光は、オレの体力をじわじわと奪っていく。オレは隙を見て蹴りを放って、アルバの兜を破壊した。金色の髪が風になびき、黒い目は楽しそうに細められる。
「獣王が率いる魔物の背に負傷者を乗せて撤退させたまえ!吾輩が援護しよう」
「重傷者のところに多くの催眠蝶がいるから目印にしなァ!無茶ァすんじゃねェぞォ!」
ソードとビーストを中心に、数キロメートル先で負傷者の救出が行われているようだ。はっきり言って、あのくらいの距離ならオレやアルバの攻撃範囲内だが、何とか攻撃が向かないようにするしかない。
アルバの聖剣が真っ赤に燃えている。オレはアルバが振り抜く前に何度も拳を繰り出して聖剣の威力を下げた。火の塊があちこちに飛び散ってしまった。
「業火の燔祭」
オレは咄嗟に魔龍に姿を変えて、六枚の翼を広げ、できるだけ多くのヒトを庇った。ギュッと目を閉じたが、光は瞼などものとせずに脳を揺らした。熱で鱗と翼が灼ける。じりじりと命が蝕まれる。
「召嵐!!!」
暴風が業火に襲い掛かった。業火が一瞬激しさを増したが、蝋燭が吹き消されるかのように、フッと消えた。嵐もすぐに収まった。
「見つけましたよ、ルーナ」
ルーナは自分を中心として嵐を作り出す。ソーレのやつ、わざとルーナにスキルを発動させて居場所を特定したのか。
オレの方がアルバよりダメージが深そうだ。だが、魔龍姿ならアルバに後れを取るはずがない。
「そろそろ、管理人が来ちゃうかな」
オレはハッとして目線を動かした。管理人はもう数キロメートル先まで迫っている。当然、兵士たちはその近辺にいる。ソーレのスキルでシールドなんて焼け失せた。巻き込んでしまう。
アルバの聖剣が強い冷気を発している。寒い。
オレはアルバに殴りかかったが、アルバは躱して斬りかかってくる。尻尾を振ったが、宙返りして避けられる。刃が鱗に通ることはないが、熱せられた鱗が急冷されて、ビキビキと嫌な音を立てた。アルバはオレの頭を蹴り、天高く飛び上がって聖剣を振り被る。
「止めを刺しちゃうよ、魔王様!」
相討ちになってでも倒そうかと思った時、振り上げた自分の腕にアメシストが光った。その中にはフローラが映り込んでいる。オレは手を止めた。
不意にアルバの目の前に、ゴールデンレトリバーが出現した。ホログラムとは異なる存在感がある。人懐っこい顔、上向きの口角、ブンブンと振られた尻尾。馬上夜の飼い犬、ルーチェがアルバの眼前に現れた。
「どうして……?」
オレはサッと身を屈めた。ルーチェに目を奪われていたアルバが振り返った時には、逃れようのないほどの光が襲い掛かってきていた。シャドウの魔力砲だ。ルーチェの姿は泥に変わり、フローラがオレの後ろに身を隠した。
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
アルバは金切り声を上げた。光が収まった時、アルバの甲冑は大破し、アルバ自身も肌が焼け爛れていた。闘志を失ったのか、座り込んでぜえぜえと肩で息をしている。
「例の人間、無事に目を覚ましたそうよ。近くまで来てるわ」
フローラがオレに言った。オレは頷いた。
「アルバ、聞いてくれ。会わせたい人がいるんだ」
「わたしは会いたい人なんていない」
頑丈そうな戦車がやってきた。扉が開く。
「こうなったら一人でも多く道連れにしちゃうよ!」
アルバの聖剣が不吉な唸り声を上げながら、白く神々しい光を放っている。直感的に、辺りが焦土となる未来が見えた。
そんな。アルバと彼女を会わせればどうにかできると思ったのに。このままでは何も守れず、みんな死んでしまう。
「やめてくれ、アルバ!」
「文句は地獄で受け付けるわ」
誰でもいい、助けてくれ!オレが心の中で祈った時には、視界が真っ白に染まっていた。
【作者のメモ】
・催眠蝶はビーストが麻酔のために飛ばした
・フローラは土魔法と水魔法の組み合わせで、ルーチェそっくりのゴーレムを作った




