第47話 決戦の準備
「勇者アルバと古代遺跡で何をしてたの、夜?」
フローラはオレに尋ねてきた。オレはバッとシャドウの方を向いた。
「古代遺跡にあった石盤のデータをまだ持ってる?」
「はい」
「破棄して、今すぐ。お願い!」
「かしこま——」
「何で、夜?」
フローラが口を挟んできた。翻訳珠があるから嘘は吐けない。
「それは、その……」
「シャドウ、その石盤って何?」
「古代遺跡内にあったものです。シャドウのデータベースにない文字で書かれていたため、解読できませんでした」
フローラは翻訳珠に機械を繋いで操作し始めた。
「現在までに解読されている、全言語データを転送するわ」
「フローラ、大したことじゃないんだ」
「受け取りました。龍文字と合致。解読可能です。解読しますか?」
「大急ぎでね」
「かしこまりました」
オレの意思は!?
「こんな非常時に解読するほどのものじゃないんだってば!ノッテの日記だよ。恥ずかしいから読まないで」
「勇者アルバと戦うのに貴重な資料じゃない?」
「アルバのことはほとんど書いてないよ」
ルーナが舟をこぎ始めた。フローラがすかさず、いつぞやのゲームをあげている。ルーナは目を輝かせて遊び始めた。
「解読終わりました。要約してお伝えしましょうか?」
「やめて」
「頼んだわ」
シャドウは内容を読み上げ始めた。本人が嫌だって言ってるだろうが!オレは諦めてシャドウを睨みつけた。
「随分と壮絶な龍生だったのね。それで、その後はどうなったの?」
オレはアルバが姉貴の孫娘であることや姉貴のスキル『加護』の影響で消滅を免れて転生し、呪いが消えて戻ってきたことなどを補足した。
フローラの持つ機械が鳴った。ホログラムで単眼の蚊のような異形が現れた。
「どうしたの?」
蚊がブンブンと鳴いた。
「魔法蟲の管理人に関するデータを寄越しなさい。大至急よ」
フローラは通信を切った。
「古代遺跡に管理人が集まりつつあるみたいよ。魔龍のクォーターなんて、厄介な人間を量産してくれたものね。勇者アルバと夜が互角だと考えると、絶望的な状態だわ」
「怪我が治ったら、一応オレの方が強いからね」
オレは控えめに補足した。かっこ悪いが、戦力を見誤ると作戦に支障が出る。だから、負け惜しみとかでは一切ない。
「でも、人間じゃ敵わないでしょ?」
「身体能力が高すぎるからなあ。シャドウの魔力砲レベルじゃないとダメージを与えられないと思うけど、車並みの速さで動き回るよ、あの子」
「それはどこの魔動機ですか?」
「残念ながら人間なんだよ」
オレは苦笑した。アルバは魔法が使えないからまだ良かった。フローラの機械が鳴った。
「管理人のデータが送られてきたけど、機械で強化されているだけで、元の身体能力は人間並みよ?魔力量は桁違いだけどね」
「それなら何とかなりそうだ」
「まあ、そうなんだけど、変じゃない?魔力量や魔法適性が再現できないのは分かるわ。でも、身体能力は遺伝情報が同じなら同じになるはずよ。別人なんじゃないの?」
言われてみればその通りだ。
「でも、魔王血珠を使えていた以上、管理人もオレの血族であるはずなんだ。元になった遺伝情報が不完全で、身体能力を引き継げなかったんじゃないの?」
「そもそも、千年前の人間の遺伝情報でクローンを生み出し続けているという事実の方が信じられません。そのようなことが可能なのですか?」
不可能なのですか?オレ、理科の知識は中学で止まってるんだよ。
「知らないわ。科学者じゃないもの」
ルーナがよちよちとやってきた。
「ね、夜にぃは魔龍なんだよネ?今までどこに暮らしてたノ?」
「最寄りの龍脈だよ」
最寄り駅みたいな言い方になっちゃった。ルーナはこてんと首をかしげた。
「あれ?にぃには龍脈に住む魔龍はいないって言ってたけどナ?」
「龍脈にいたのは、千年前の話だからね」
「千年間眠ってたノ?」
「いや、魔法で千年後に飛んできたんだ。確かに、魔龍の仮死状態なら千年くらい眠れるかもしれないけど」
オレは笑った。ルーナは妙に感心している。
「すごいネ」
「すごいかな?それで言うと、姉貴のスキルと神様がすごいんだよ。呪いを捻じ曲げてオレとアルバを死から救って、千年後に飛ばしてくれたんだから」
ルーナは目をぱちくりさせた。
「恐ろしいスキルね。『加護』って。アンタとアルバ、もしかして今も不死だったりする?」
「どうだろう。違うといいな。少なくともオレがまだ不死なら、アルバも死なないはずだ。姉貴は娘を守ろうと龍脈災に立ち向かって捕まり、最期まで娘の身を案じていた。孫のアルバへの加護の方が大きいに違いない」
むしろオレに加護を授けてくれたことの方が驚きだ。
「待って、それっておかしくない?」
フローラが首をかしげた。
「だって——」
フローラの言葉を聞いて、オレは固まった。確かにそうだ。え、どういうことなんだ?何があったらそんな——。
「ウチ、ヘンなこと言ったかしら?」
「フローラ、少し調べてほしいことがあるんだけど——」
オレはフローラにある頼みごとをした。フローラは快諾してくれた。しばらくオレは部屋の中を歩き回り、結果を待った。カラカラになった喉を潤すためだけに苦い茶を啜り、いたたまれなくなってまた歩く。フローラの機械が鳴った。オレは足を止める。
「ビンゴよ、夜。アンタの予想通りだったわ。あの管理人、勘違いしてたのね」
オレは舌打ちした。
「あ、ごめん。ありがとう、フローラ」
「ううん、いいの」
「じゃあ、もう一つ頼みごとをしていいかな?」
オレは拳を握りしめながら、フローラに一つ頼みごとをした。
「分かったわ。ウチもそうした方がいいと思ってた。あと、勇者アルバと管理人たちは進攻を始めたそうよ。一緒に迎え撃ってくれる?」
オレは溜息を吐いた。
「もちろんだよ」
「お供します、サブマスター」
「あたしも行くヨ!」
これが正しい決断だとは思わない。きっと間違っている。しかし、そんなの今更だ。オレは苦い茶を飲み干すと、フローラを追い駆けた。
【作者のメモ】
・シャドウが作られた時、既に古代語は使われない言語となっていた
・管理人は外観がバラバラなので、傍目には同一個体だと分からない




