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異世界が思ってたんと違う!  作者: 馬之群
第3章 決着
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第46話 身代わり

「……そうか。分かった。急げ」


 アルバはヘッドフォンを外した。


「もうすぐ会えるって。良かったねえ」

「どういうことですか?」


 今回ばかりはシャドウに同感だ。


「ちょっと前に管理人に会ったの。ムカつくから殺そうかと思ったんだけど、全員魔王城に集まれって命令したってわけ。龍脈災の後、大太陽の魔龍に会ったって連絡もらったんだ。事情を軽く説明したら協力してくれるって言ってたから、管理人をとりまとめてもらっちゃった」


 管理人が乗っ取られてんじゃん。大問題だよ。


「管理人って、何人いるの?」

「世界中に千体くらいは稼働していたはずだ」

「何でそんな大量にいるんだよ!」

「魔龍の餌となる魔物を狩らせたり、魔龍を探したりするのに人手が必要だったんだろう。私は先人から継いだだけで意図は知らん」


 管理人はアルバのクローン、だよな。こんな強い人間のクローンが千人も?冗談だろ?


「撤退しよう。この魔素濃度だと、こっちの方が不利だ」

「不可能です、サブマスター」

「オレが時間を稼ぐ」


 胸の傷は出血こそないが、劇的に治ることもなさそうだ。応急処置をしてもらったから、アルバ相手でもしばらくは持つだろう。


「交渉してもいいよ、魔王様。人間二人の身柄と引き換えに見逃しちゃおうかな」

「断る。オレは護る戦いの方が力を出せるんでね!」


 オレは献身のスキルを発動させた。記憶を失っても、潜在意識で発動したかどうか分かるレベルのスキルだ。記憶が戻った今、真価を発揮できる。


 アルバは聖剣を振り被ってきたが、オレは軽々と躱して鳩尾に蹴りを入れた。アルバは衝撃で若干後ろに下がった。そのまま至近距離で魔力銃をお見舞いする。アルバは咄嗟に体勢を低くして躱し、足払いをかけてきた。ジャンプで避けて空中で回し蹴りに移ろうとしたが、聖剣が脇腹を殴打したので吹っ飛んでしまった。戦い慣れしてるな。


 オレは魔力銃を連射したが、弾幕を掻い潜って距離を詰められた。オレの手前でアルバの足取りが急に重くなった。アルバの足元には無数の木が絡み付いている。しかし、絡んだと思ったら強引に引き千切られている。ごり押しで来やがった。オレはアルバの右腕を狙って蹴りを放った。なぜかアルバの反応が少し遅れ、オレの蹴りはまともにアルバの手首に命中した。続けざまに魔力銃を撃ったが、それは聖剣で弾かれた。


「五感がメチャクチャだよ。本当に魔法を使っちゃうんだ」


 アルバに氷塊が飛んできたが、アルバは軽々とそれを躱した。見えない罠のようなものが出現した気配を感じるが、それすらアルバは避けている。しかし、確実に動きが誘導されている。オレはアルバの動きを先読みして魔力銃を撃ち、右手を撃ち抜いた。赤い血が流れ、聖剣を手放した。オレは聖剣を取ろうと手を伸ばした。血塗れの聖剣の奥に、アルバの右足が迫っていた。聖剣がオレの目の前に猛スピードで蹴り上げられる。避けられない。


「危ない!」


——ピィーーーーーーッ!!!


 気が付いたら、オレはシャドウの隣にいた。少し離れた所にアルバと防魔服が見える。防魔服の頭部には聖剣が突き刺さっており、アルバの右足がその聖剣を蹴り上げたことがうかがえる。アルバは左手で聖剣を引き抜いた。


「あああああああぁぁぁ!」


 辺りが青白い強烈な光に包まれた。目が痛い。吐きそうだ。隣でシャドウが動いた気配がした。いつまでも収まる気配のない閃光に、オレは目を腕で庇いながら動けずにいた。冷たく無機質な手がオレの腕を引いて、魔龍の背に乗せた。しばらくして浮遊感が訪れた。閃光は若干収まりつつあるようだ。


「お兄!」


 オレはうっすらと目を開けた。青白い光を放っているのは、シリウスだった。頭にかぶっていたはずの骨は壊れてしまっているようで、布が巻かれているが、青白い光は布に弱められてはいるものの、目を刺すほどの強さで漏れている。


「ノッテ、生きているな?」

「シリウス、まさかオレの身代わりに攻撃を受けたのか?」


 シリウスは頷いた。フローラの奏でる竪琴の調べは哀愁を帯びている。


「勇者にお主を奪われたくなかった。こうなるくらいなら、最初から正直に話しておけばよかったな」

「オレが勝手に会いに行ったんだ。見捨ててくれれば良かったのに」


 シリウスはフローラの方に視線を移した。


「フローラがあんなに生き生きとしているところを、初めて見た。お主には感謝してもしきれない」


 シリウスが伸ばした手を、フローラが両手で握り締めた。


「フローラ、次の魔王はお主だ」

「嫌、ウチには無理よ。死なないで、お兄!」

「まだ私を兄と呼んでくれるんだな。ありがとう……」


 青白い光が弱まってきている。


「シリウス、オレはやっぱり貴方に会えてよかったよ。ありがとう」


 青白い光の瞬きが、星の微笑みのように見えた。微かな瞬きを最後に、シリウスが光を放つことはなかった。


 ルーナは魔素濃度の低い地に降り立った。シリウスは絶命していた。フローラがその亡骸を抱き締めている。シャドウは武装を解除し、ルーナは人型になった。オレの胸元の傷はすっかり塞がった。


「ルーナちゃんはソーレに会わなくて良かったの?」

「あのおねぇちゃん、怖いヨ」

「確かにね」


 オレはシャドウの藍色の目を見つめた。


「オレは魔龍だけど、どうする、シャドウ?」

「人類にとっての脅威は、勇者アルバだと判断いたしました。サブマスターとは手を組めるかと」

「では、改めてよろしく、シャドウ」

「はい、サブマスター」


 オレはシャドウと握手した。周りにヒトが集まってきた。フローラと何か話している。記憶にない言語で話されているので、相変わらず内容は分からない。オレたちを快く思っていないことだけは伝わってくる。


「誰であっても、彼らの髪の毛一筋でも傷付ける者は、前魔王シリウスの遺志により、処罰する。これは新魔王、フローラの厳命である!」


 騒いでいた群衆が水を打ったように静まった。フローラは毅然とした態度で群衆をかき分け、一行はそれに続いて建物に入っていった。

【作者のメモ】

・この世界に転生したばかりの時、スキルを発動しようとするたびに脳内に自分の声が響いたのは、自分の潜在意識でスキルの発動を感じ取っていたため

・夜(ノッテ)は人型より魔龍の姿の方が強いが、傷が悪化するのを恐れて、人型のまま戦っている

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