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異世界が思ってたんと違う!  作者: 馬之群
第3章 決着
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第45話 アルバの絶望

 大前提として、オレはアルバに死んでほしくない。たとえアルバが聖剣にありったけの魔力を籠めようが、一蹴りで壁を粉砕しようが、まともに反撃する気はないわけで。そうなると流石に分が悪い。


 狭い場所だと小回りの利く人間の方が有利だ。オレは体当たりで窓を割り、外に飛び出した。アルバは破片が舞う中に飛び込んでオレを追い駆けてきた。石殻斗だってあれに当たれば傷がつくのに、アルバの素肌に触れても掠り傷さえ付けられないらしい。


「ちょっとお、逃げるなら、ジャマしないって約束しなきゃ」

「生憎と、オレの別荘を壊したくなかっただけだよ」

「ざんね~ん。降参ならいつでもしちゃってね」


 アルバはオレの背に蹴りを入れてきた。骨が折れたかと思うほどの衝撃が走った。オレは思わず手荒に振り落とした。アルバは華麗に受け身を取る。そのまま聖剣を振って光る斬撃を飛ばしてきたので、オレはのけぞって躱した。地面が割れる。アルバは追撃の手を緩めようとはしなかった。いくつかの斬撃が当たり、血が流れた。


「生きてやってみたいこととか、ないのか!」

「家族も、友達も、言語も、文化も、思い出の地も、な~んにも残っちゃいないのに?」


 迫りくる聖剣を尾で捌こうとしたが、尾を蹴りで逸らされて肩口をしたたかに斬られた。雨のように赤い血が降った。


「わたしの味方はお母さんだけだった。みんなわたしを気味悪がって、怯えて、腫れ物扱いしてきた。わたしにはお母さんさえいれば良かったのに!魔物が攻め入った時だけ、勝手に勇者なんて呼んで戦わせて、お母さんを守るために戦ったのに、結局お母さんは人間に閉じ込められて、魔物から逃げられずに死んだ!わたしが駆け付けた時には、血の一滴も髪の毛一本も残されてはいなかった!」


 アルバの剣速がさらに増して、オレも応戦に熱が入る。人間なら骨も残らないだろうというくらいの威力で叩いたが、アルバはちょっと痛そうにしているだけだ。

 アルバの眉間には皺が寄り、オレを激しく睨みつけている。聖剣の輝きがどんどん強まっていく。


「自暴自棄?そうよ!わたしは千年前に魔王城に向かった時から、ずっと自暴自棄だったの!きみには理解できないでしょう?世界で一人しか頼れる人がいなかったのに、わたしの手が届かないところで死んでいたと知った時の絶望なんて。笑っちゃうよね?世界最強だなんて持ち上げられておきながら、大切な人一人も守れない勇者は、世界の敵になっちゃおうとしてるの!傑作じゃない?」


 気付けばオレは人型になっていた。アルバの真っ黒な目が、死んだ時の姉貴の目を思わせる。姉貴の変わり果てた姿を前に膝を付いた時の無力感が再び襲ってきた。身体が、動かない。


——ザシュッ!


 胸板を貫かれた。血が口元までせり上がってくる。オレはゴポリと口から血を零した。胸が熱い。オレは立っていられなくなり、ぺたんと座り込んだ。


「どうして、そんな顔するの?」


 オレがどんな顔をしているというんだろう。酷い顔なんだろうな。


「どうして千年前、わたしを庇ったの、魔王様?」


 アルバはオレの喉元に聖剣を突き付けている。


「今更、それを知って、何になる?」

「じゃあ、地獄で聞かせてちょうだい」


 聖剣を握るアルバの手に力が入った。


——ヒュン!


 聖剣が空を斬る音がした。その切っ先はオレではなく、遠くに向けられていた。光線が空を走る。光線の向かった先には、向日葵色の魔龍が飛んできていた。背中に何人か乗っている。


「お友達?」


 オレは首を横に振った。アルバは完全に信じていない目だ。

 ルーナはアルバの目の前に降り立った。背中から、防魔服のヒトが二人とシャドウが滑り降りた。防魔服のヒトの一人がオレに駆け寄ろうとして、アルバに聖剣で制止された。


「勇者アルバだな?」


 駆け寄ろうとしなかった方の防魔服のヒトが言った。シリウスだ。


「きみたちは誰?」

「私は魔王シリウスだ」

「ああ、自称魔王ね」


 アルバはもう一人の防魔服に視線を移した。


「魔王の妹で、魔王副官、フローラよ」


 アルバはシャドウに視線を移した。シャドウは振り向いた。やると思ったよ。


「戦闘用自律魔動機、シャドウだ」


 シリウスが紹介した。最後にアルバはルーナを見上げた。


「ルーナって言うノ。魔龍ヨ」


 アルバは聖剣の切っ先を少し下げた。


「初めまして。わたしは勇者アルバ。こっちは魔王ノッテ。きみたちはここに何の用?」

「魔王ノッテだと?」

「そう。勇者アルバが千年前に倒した魔王ノッテ。自分の正体を思い出したのはついさっきだけど、本物よ」


 それより、胸が貫かれているんですが。それは気になりませんかね、みなさん?


「ノッテを刺したのはお主か?」

「勇者が魔王を刺すことは、この時代では異常なの?」

「どうして刺したのかにもよる」


 寒い。指先から温もりが消えて動かせなくなった。フローラがオレに駆け寄って助け起こしてくれた。


「……ありがとう」

「黙って回復薬を飲みなさい」


 アルバはフローラに攻撃しようとしたが、シリウスが岩の壁で阻んだ。オレは回復薬を飲み、胸元の傷にも薬が塗られた。オレはフローラの肩を借りてシリウスの後ろに下がった。シリウスからの攻撃を軽々と捌きながら、アルバは話し掛けてきた。


「魔王様を刺したのは、わたしは人間を滅ぼしたいのに、止めようとしてきたから」


 シリウスたちは顔を見合わせた。アルバは別に本気で攻撃するつもりはないらしい。


「どうして人間を——」

「はあ、めんど。月の魔龍、大太陽の魔龍を助けたのはわたしだよ。大太陽の魔龍はわたしのクローンと一緒にいるから、会いに行ったらどう?」

「え、アルバねぇは、にぃにの友達なの?」


 アルバはヘッドフォンのような機械を取り出した。


「管理人、アルバから通信だ。現状を報告せよ」

【作者のメモ】

・アルバの母親のステラは、勇者アルバの姉として後世に名を残している

・シリウスはフローラたちに合流して、夜に会いに行こうとしていた。アルバがいることは予想外だった

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