第4話 検査とご飯
「やめて、殺される!ふわふわ、助けて!」
オレはふわふわの方を向いた。ふわふわは建物の外に出て行ってしまった。ふわふわぁ!オレはお前だけが頼りなのに!黒ケープはオレの腕に鋭い機器を突き通した。俺は痛みに悲鳴を上げた。血が抜かれていく。黒ケープは興奮気味に翅を震わせる。
「何をするんですか!」
黒ケープは機器を外してくれた。灰色の角が光ったかと思うと、痛みが引いた。傷口を見てみると、綺麗さっぱり消えている。
「治った?どうやって……」
黒ケープは何かの画面を見ている。先ほどオレの腕に刺した機器や今も繋がれている機器からケーブルが伸びている。表示されている文字のようなものは、まったく見覚えがない。周りをそっと見渡すと、機械がずらっと並んでいる。ここは実験室か何かなのだろうか。
黒ケープはニタニタ笑いながら、翅をしきりに震わせている。オレはそっと繋がれている機器を外した。その途端、黒ケープがオレの方を振り向いた。
「ブブ、ブン。ブーン」
怒っているっぽい。黒ケープはドリルのようなものを向けてくる。あんなので刺されたら大怪我をする。オレはやめてほしいと手で合図した。
「待って!」
黒ケープは動きを止めた。よーし。オレより頭が良さそうだし、会話ができるはずだ。オレは自分を指した。
「オレ、夜。人間。それ、痛い。やめて。オーケー?」
「ブブン、ブ、ブーン、ブンブン、ブブブブ」
黒ケープはオレを指し、画面を指し、ニヤリと笑って食べるジェスチャーをした。意思疎通はできそうだが、嫌な予感。
黒ケープは採取したオレの血を飲んだ。翅を激しく震わせている。カメレオンのような長い舌で念入りに舐め取っている。黒ケープは四つの目を細める。うわあ、捕食者の目だあ。
「助けて……」
食べられる。どうにか触れないと。オレは黒ケープに突進した。黒ケープは目にも留まらぬ速さでオレの攻撃を躱し、馬乗りになった。右腕に激痛が走った。刺された。
『異種族友好の発動条件が満たされた』
「異種族……うぐぅ……」
痛すぎて気を失いそうだ。発動してくれ!
『異種族友好が発動した』
痛みが引いた。黒ケープがオレの上からどき、慌てたようにオレを撫でまわす。そっとオレは自分の右腕を見てみる。怪我は治っている。血で濡れているが。助かった……のか?
「ブブ、ブンブン」
黒ケープはオレをギュッと抱き締め、わしゃわしゃと撫でまわした。友好的になったみたいだ。ホッとしたらお腹が空いた。
「ご飯」
オレは食べるジェスチャーをした。黒ケープは待てと合図して、別の部屋に行った。しばらくして皿を二つ持って戻ってきた。黒ケープはそのうちの一つを差し出した。赤くて丸いものが何個か入っている。パンだろうか。黒ケープがかじりつく。
オレも恐る恐る一口かじる。おいしい!カレーのような食欲をそそる薫りで、ベリーのようにフルーティーな味がする。食べ進めると、中にはカラフルな何かが入っている。噛み締めると、とろとろと中身が溢れてくる。海鮮の出汁を思わせる豊かなコクと強い旨味、ねっとりとした舌触りが柔らかいパンとよく合う。ちょっと舌がピリピリするなあ。
「おいひい!」
オレは黒ケープに告げた。舌足らずになっちゃったよ、恥ずかしい。黒ケープは機器を付けるように合図した。え、やだよ。痛いし。オレは首を横に振った。黒ケープはオレを指し、腹痛の真似をして、首をかしげた。
「あー、オレが食あたりをしないか検査ひたいってことらね」
あれ、噛みすぎなんだけど。おかしいな。取り敢えず、オレは手を差し出した。黒ケープは丁寧に機器を取り付け、画面をチェックすると、頷いた。角が光る。舌の痺れがなくなった。これ、オレの怪我を治すたびに光っているな。魔法を使っているのか。
「ありがとう」
オレは頭を下げた。黒ケープはニコニコ笑っている。オレが完食したのを見て、黒ケープはパンを差し出してきた。まだ満腹ではないが、体調を崩したらことだ。やめておこう。オレは首を横に振った。黒ケープは自分でパンを食べた。
さーて、危機が去ったところで、一言……。そろそろ人間に会いたいよ!
「描くもの、ない?」
オレはものを描くジェスチャーをした。黒ケープは小さな機械と二つのベルトを持ってきた。黒ケープはベルトを頭に巻き、機械を操作した。宙にホログラムが浮かぶ。黒ケープは何もしていないように見えるが、黒髪黒目の地味顔がホログラムとして映った。オレだ。
オレもベルトを巻く。黒ケープのことを思い浮かべたら、ホログラムに現れた。わお、ハイテクぅ。これなら、猿どころか、オレでも描ける。オレは人間を描き、探すジェスチャーをした。ちょっと造形はあやふやだが、十分伝わるだろう。才能があるかもしれない。
黒ケープは、四本腕に一本角の生き物、一本の角の生えた炎のような何か、六本足で角の生えた何か、四本の細長い足の上に丸い頭の付いた二本角の何か、犬のような頭で頭頂部に翼が生えた何かを描いた。それぞれの角が光る。その中に人間を描いたが透明になって消えていった。周りの生き物は人間を探すが、どこにもいない。
才能あるかもとか思ったオレが恥ずかしい……。
「どゆこと?」
黒ケープは、オレを指して首を横に振った。指を一本立てる。自らの角を指し、オレの頭を指し、首を横に振る。オレは頭をひねった。
「人間は……オレ一人?角がない者なんていないと?」
そう言えば、魔法を使う時、角が光っていた。この世界の生き物はみんな角が生えていて、それで魔法を使うのか?
オレを見て、すぐ採血と分析をしたのは、初めて見る生き物だから?『異種族友好』は発動したのに毒入りの食事を与え、魔法で解毒したのは、人間にとって何が有害か分からないから?
「この世界に人間は、オレ一人だけ?」
オレの言葉に黒ケープは羽音を鳴らすばかりだった。ああもう、最悪だ!地球に帰してくれ!
【作者のメモ】
・夜が『黒ケープ』と呼ぶ生き物の用いる言語はモールス信号である。なお、黒ケープの舌では人間の言語の発音は不可能である
・ホログラムはイメージを具現化するので、イメージが曖昧だと造形が曖昧になる




