第38話 アルバについて
フローラが目を覚ました。オレの姿を見て悲鳴を上げる。
「助けて!食べないで!」
「ああ、ごめん、フローラ。オレだよ、夜だ」
「え、夜?」
「うん。オレ、実は魔龍だったみたい」
フローラはオレを見上げた。がくがくと震えている。フローラの身に着けている機械から通知音がした。すると、シリウスのホログラムが現れた。
「フローラ。おや、お主はもしや……」
「その反応、貴方はオレの正体を知っていたのか?」
今のオレの姿を見てもシリウスは冷静だ。
「その声、夜か。ドクターがお主の身体を詳しく調べたからな。私とドクター、メカはお主が魔龍だと知っていた。その上で、お主がそのことを自覚していないことにも気付き、人間として扱うことに決めたんだ」
「何のために?」
シリウスは少し黙り込んだ。
「直接会って話そう。近くにいるから、小一時間で会いに行ける」
「時間がない。知り合いの魔龍を救出に行きたいんだ」
「行くな。お主が勇者アルバに会ってしまったら困る」
「は?」
勇者アルバって千年前に魔王を倒したという人間のことだったよな?どうして急に出てきた?オレが困惑していると、シリウスはヒューッと笛の音を漏らした。
「この際だから言うが、お主がルーチェと呼ぶ例のヒトの正体は、勇者アルバだ。ドクターの家に残された生体データから、間違いなく本人だと分かった。つまり、魔龍の天敵だ。決して会いに行くな」
「あり得ないよ。千年も前の人間だろ?」
異世界からやってきたなんて言っておいてなんだけど。
「勇者アルバは魔王血珠を使ったことで、この世界から消滅したとされている。管理人が言うには、あれは魔龍を全て従えることができる代償として、一度でも使うと魔龍の呪いが発動して世界から消え失せるのだそうだ。だが、当時魔王血珠に血を捧げた魔龍が全て死んだことで、数十日前に魔王血珠の力が完全になくなったと報告を受けている」
世界から消え失せるという言い回しが意味深だな。オレは顎に手を当てた。
「何が言いたいの?」
「魔龍の呪いで地球に転生した勇者アルバが、魔王血珠の力が失われたことで再び戻ってきたのではないかということだ」
「勇者アルバって、魔王を倒した英雄じゃないの?戻ってきて困るわけ?」
シリウスはピロピロと大爆笑した。
よく考えたら、管理人はアルバのクローンか。自分のクローンを大量に生み出して機械化して、魔法蟲の管理人として働かせ続けてきたと考えると、いい気はしないな。
「死んだ英雄だけが良い英雄だ。千年前の英雄なんてお呼びじゃないのさ」
「勇者アルバが戻ってきたとして、オレが知り合いの魔龍を救出に行くことと関係ないだろう?」
「魔王血珠は既に失われたんだ、夜。その魔龍はどうして連絡が付かなくなったのだと思う?」
操られているという可能性はない。ということは、まさか……。
「彼のスキルは町を襲う魔物の群れを一瞬で灰にするくらい強力だ。勇者っていうのは、そんなに強いのか?」
「勇者の持つ聖剣は魔物を倒すための武器の中でも、魔龍を倒すことに特化した魔法を付与してある武器だからな。相性が悪いんだ。実際に千年前の魔王を倒した実績がある」
ようやく話しが見えてきた。シリウスにとって魔龍とは、魔法蟲の苗床として必要な存在だ。かつて魔龍を討った英雄が、生き残った魔龍を殺して回るのは都合が悪いのか。
待てよ。よく考えたら、捕らわれていたソーレを助けたのがアルバじゃないか。ソーレがアルバに襲われたはずがない。
「もう一度言う。勇者アルバに会いに行くな。そのまま待っていろ。私が保護しよう」
「……分かった」
ホログラムが消えた。いつの間にか人間姿に戻っていたルーナがオレに話し掛けてきた。
「にぃにを助けに行かないノ、夜にぃ?」
「ルーナちゃんは勇者アルバって知ってる?」
「知らなあい」
ソーレももしかしたら知らなかったのかもしれない。アルバに会った時、勇者だとは知らなかったみたいだ。
「オレたち魔龍の天敵なんだってさ。もう少ししたらヒトが来るから、そのヒトと相談して助けてもらおう」
「分かっタ!」
すぐ横を亜龍が羽ばたいていった。オレは崖下を覗いた。強そうな魔物の群れが、町の方に進んでいる。よく見たら、迎え撃とうとしている集団もいる。
「龍脈災か。フローラ、このままじゃ大勢のヒトが死ぬよね?」
「そうでしょうね」
「でも、オレなら助けられる」
「調子に乗り過ぎよ!」
痛いところを突かれた。自分は実は魔龍だったと聞いて強くなったように感じてしまったが、魔龍としての戦い方なんて知らない。龍脈災を止められるなんて思い上がりも甚だしいのかもしれない。
「危なそうだったら飛んで逃げるよ」
「夜!」
オレは六枚の翼で魔物たちの方に向かって行った。これはスキルの使いどころだろう。
「異種族友好!!!!!」
『異種族友好が発動した』
オレは激しい眩暈と吐き気、脱力感に襲われて飛べなくなった。攻撃されるんじゃないかと不安になったが、誰も攻撃してくる気配がない。まさか、全員にかかったのか?オレがぐったりしていると、何かの影が日差しを遮った。
「すっごーい、夜にぃ!」
薄目を開けると、ルーナが人間姿で手を叩いている。シャドウがジェットと翼を出して、ルーナとフローラを抱えて飛んでいた。三人がオレの近くに降り立つと、周囲の異形が一斉に敵愾心を剥き出しにした。このスキルはあくまでオレに友好的になるだけだ。言うことを聞かせられるわけではない。
「やめろ!」
オレが叫ぶと、異形はオレの方を見つめた。額に傷のある亜龍がオレに大声で吼えてきた。
「何だ貴様ぁ!俺様に命令すんじゃねえよ!」
「オレはただ無用な争いを止めようとしただけだよ」
「無用だぁ?改造人間どもが急に襲い掛かってきやがったんだ!泣き寝入りしろっつーのか、このデカブツ!」
随分と威勢のいいことだ。
「改造人間?」
「頭のネジの外れてそーなアマさぁ。『我々、魔物殲滅する。魔龍、見つける。魔王様のために』だとよぉ」
管理人が暴走してるじゃないか!
【作者のメモ】
・ドクターは夜が魔龍だと分かったため、シリウスに引き渡すと魔法蟲の苗床にされてしまうと思い、匿っていた
・声量が大きくなったことで、地を覆うほどのヒトや魔物全てにスキルを発動させることができた




