第36話 非常時の予兆
「分からない……。吾は魔物を滅ぼさねばならぬのに、バグ、だろうか?」
スキルのせいか。オレは魔力銃を下げた。
「オレのことは覚えてる?」
「サブマスター、夜様。吾は、シャドウは全て覚えております」
「それなら——」
ドーンと衝撃が走り、部屋が揺れた。上で爆発でもあったのかと思うくらいの衝撃だ。
「一時休戦して外に出ない?」
「同意します」
オレとシャドウが外に出ると、上を下への大混乱に陥っていた。
「フローラやルーナのことを攻撃しないよね、シャドウ」
「ひとまずは」
ルーナは魔龍だからシャドウの攻撃対象になりそうだけど、記憶があるならルーナに勝てないことくらい分かるだろう。それより、二人の安否が心配だ。
「行こう」
「はい」
ヒトをかき分けて、ホテルに戻った。道中でフローラとルーナに出会った。
「龍脈災の第二波が来たわ!こんな早くに強い魔物の群れが来るなんて、完全に想定外よ。自然ではあり得ないと断言してもいいわ。何か予想外の事態が生じているみたいね」
「どうするの?」
「ルーナの『にぃに』に連絡は取れない?」
そもそも、ソーレは龍脈災を鎮めようとして龍脈に向かっていたはずだ。それなのに、かえって事態が悪化しているのは何故だろう。
「ルーナちゃん、ソーレに連絡ってできる?」
「んー、念話って、にぃに嫌がるんだけど……」
ルーナはキュッと目を瞑った。
「アレ?つながらないナ。変なノ。人間に捕まった時以外、必ず返事はくれたのニ」
「人間に捕まった時以外?」
「えっとネ、魔王血珠?とかいうヤツにじゃまされて、念話ができなかったって言ってたヨ」
ということは、また管理人に捕まったのか、ソーレは!不用心すぎる。そうだとして、龍脈災はどうして生じたんだ?管理人はシリウスの命令で動いているはずだ。龍脈災を魔龍に鎮めさせるために操るなら分かるが、鎮めに行ったソーレを操って邪魔するのは意味不明だ。
「夜?」
「ソーレは管理人に捕まったんだろうけど、シリウスなら詳細を知っているんじゃないかな」
シリウスも怪しいんだよな。何を考えているか分からなくて。
「お兄が?一応訊いてみようかしら」
フローラは機械を取り出して操作し始めた。シリウスのホログラムが浮かび上がった。
「どうした、フローラ」
「お兄、魔法蟲の管理人って知ってる?」
「どうしてそれを尋ねる?」
シリウスは低く笛の音を鳴らした。
「龍脈災を止めてくれそうな魔龍の知り合いがいるんだけど、管理人に拉致されてるっぽいのよ」
「それはあり得ない」
「どうしてそう言い切れる?」
「詳しくは機密だから話せないが、そんなことは不可能だからだ」
まあ、管理人が好き勝手に魔龍を操ったら大問題だよな。何か対策されているのか。
「でも、その魔龍とは不自然に連絡が付かなくなったんだけど?」
「アレがもう使い物にならないことは証明されている。管理人の仕業ではないとするなら、そんなことが可能なのは——」
シリウスは黙り込んでしまった。
「可能なのは、何なのよ?」
「気にするな。こちらの話しだ」
フローラは不機嫌そうに竪琴を鳴らした。
「夜はいるか?」
「いるよ」
「そうか。夜の保護を最優先にしろ、フローラ。その件は私が対処する」
やはりフローラはシリウスの差し金で来たのか。シリウスは記憶を消そうとしたり監禁しようとしたりしていたが、オレが逃げたものだから、監視兼護衛としてフローラを付けたんだろう。
「いや、シリウス。オレが行った方がいい。その魔龍はオレの知り合いで人間嫌いなんだよ。オレが説得しないと龍脈災を鎮めてくれないかもしれない」
「なおさら許可できないな」
シリウスは即答した。シャドウが手を挙げた。
「理由を伺っても?」
「魔龍の戦力は災害級だ。不用意に接触させるわけにはいかない。お主なら分かるだろう?戦闘用自律魔動機」
「オレが魔龍の力を悪用するって言いたいのか?」
既に恩を仇で返した分際で言うのもなんだけど。
「フローラ、夜をしっかりお守りしろ。魔王命令だ」
「でも——」
「私は忙しい。切るぞ」
シリウスのホログラムが消えた。
「にぃに、また捕まっちゃったノ?」
「そうみたいだね」
「もう待ってるだけは、やぁや!助けに行くモン!」
ルーナはオレを睨み上げている。
「でも、魔龍は操られちゃうんだ。ルーナちゃんは行かない方がいいよ」
「だって、あたししか、にぃにを助けられないモン!人間がにぃにに勝てるはずがないヨ」
「オレならどうにかできるかもしれない。スキルがある」
「ですが!」
シャドウが口を挟んだ。言った後で、しまったというように口を押さえた。何だ?
「フローラ、龍脈災を止めるためだ。ソーレを助けに行かせてくれ」
「アンタに何ができるってのよ?」
「オレはスキルで異種族の友好度を高められる。よく考えたら、まだ管理人やソーレには異種族友好のスキルを使っていない。友好的になったら龍脈災を止めてくれるかもしれない」
『異種族友好の発動に失敗した』
今スキルを発動させようとしたわけじゃないんだけどな。
ドーンと大きな物音がして、再び地面が大きく揺れた。
「時間がない、フローラ。早く行かないと!」
「なりません、フローラ様!」
「フローラねぇ、お願いヨ!」
三人に詰め寄られたフローラのヴェールの色は真っ白になった。かわいそうに。
「もう嫌!何でウチばっかり!」
ごもっともです。
【作者のメモ】
・建物が揺れているのは、魔物の遠距離攻撃が町を覆うバリアに命中しているから
・念話をするには、両者が対面して互いの魔力を事前に流しておく必要がある




