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異世界が思ってたんと違う!  作者: 馬之群
第2章 調査
34/51

第34話 病人と怪我人

「助けてくれてありがとう。実はルーナが具合悪そうなんだよね」


 ソーレは跪いてルーナの様子を確認し始めた。


「にぃに!」

「ルーナ、ご飯をどのくらい食べましたか?」

「ん?」


 ルーナはふわふわした様子で、頭が回っていないように見える。


「昨日は燃える牛三頭と、肉食恐竜みたいなやつ五頭と、種が弾けるハート形の果物七個と、空飛ぶ蛇十匹を食べてたよ」

「食べ過ぎです、ルーナ」


 食べ過ぎなんかい!


「でも、魔龍の姿の時より大分少ないヨ」

「胃袋の大きさを考えなさい、ルーナ」


 ソーレは錠剤と水筒をルーナに渡した。ルーナはこくこくと飲んでいる。


「休めばよくなります」

「それは良かった。そう言えば、龍脈災の対応を相談に来たとか?」

「はい。龍脈に行って魔素を吸い取ろうかと思ったのですが、夜様はどうなさいます?」


 どうなされと言うんだ。


「魔素を吸い取ったらどうなるの?」

「僕は体調が良くなるし、魔素濃度が下がると、他の生き物も助かってウィンウィンではありませんか?ご一緒にどうです?」


 そんな一緒にカラオケ行かない?みたいなテンションで言う内容なのかな。


「ルーナは?連れて行くの?」

「あ、体調が悪そうなので龍脈は止めておいた方がいいですね。そうなると誰かが面倒をみないといけなくなりますか」

「じゃあオレが看病しておくよ」

「いいんですか?」

「もちろん」


 正直、こんな恐ろしい魔龍と一緒に龍脈に行く方が怖い。良い人ではあるけど。


「おや、ルーナが眠ってしまいましたね。目を覚ましたら渡しておいてください。そろそろ人間が来そうなので僕は退散します」


 ソーレはオレの手に何か握らせてきた。鶏の卵大の赤い宝石が金のリングにはまっている。地球なら何億円になるんだ?


「夜様にはこれを」


 ソーレが渡してきたのは、銀のチェーンが付いた、グレープフルーツ大の宝石だ。真っ黒な中に赤や青、緑の輝きが見える。オーロラのように美しい。


「いいの?こんな高価そうな物もらっちゃって」

「夜様は恩人ですから。好みをお伺いしておくべきでしたが、気が回らず失礼いたしました。お気に召したらよいのですが……」

「ありがとう!綺麗、ずっと大切にするね」

「ありがとうございます。ルーナをよろしくお願いいたします」


 ソーレは爽やかに微笑むと、翼を広げて飛び去って行った。

 ルーナは穏やかに寝息を立てている。オレはバリアから滑り降りた。未だ燃え盛る大地を踏みしめ、ヒトが去った方に歩き始めた。


「夜!大変、シャドウが!」


 フローラが駆け寄ってきた。オレは後について人波をかき分けた。シャドウは作業台の上に寝転んでいる。胸元に大穴が空いている。周りにはロボットアームがあって、シャドウを修理しているようだ。シャドウの目がぎょろっと動いてオレを見つめる。


「サブマスター」

「シャドウ、な、治るよね?」

「修理するには記憶回路を繋ぎ直さなくてはなりません。そうすると、マスターのことを思い出してしまいます」

「いいことじゃないか」


 シャドウは目を逸らした。


「マスターのことを思い出したら、シャドウはその命令に従って動くようになります。シャドウは戦闘用自律魔動機です。サブマスターや皆様のことを攻撃してしまうかもしれません。修理することはお勧めしません」

「シャドウはマスターに会いたいんじゃないの?」


 シャドウは弱々しく頷いた。


「会いたいです。しかし、恐らくマスターはもう、お亡くなりなのでしょう。マスターのいた時代からかなりの時が経っていると思われます。それなら、マスターのことなど思い出さない方がサブマスターのためです」

「でも、記憶回路を直さないとシャドウが治らないんでしょう?」

「完全に機能停止します」


 オレはシャドウの胸元の風穴を見つめた。反対側まで貫通していて、断面は配線や基盤が剥き出しになっている。


「治そう。敵になってしまうとしても、シャドウに元気でいてほしい」


 ロボットアームが指文字で何か伝えようとしてきた。


「一度シャットダウンして修理するって言ってるわ」

「ありがとう」


 ロボットアームが手を振ってくれた。オレはシャドウの手を握る。


「シャドウ、今までありがとう。無事に治りますように」

「ありがとうございます、サブマスター」


 ロボットアームがシャドウの電源を切った。修理には時間が掛かると言われ、オレはルーナを抱いたまま、フローラとその場を後にした。医務室は負傷者で埋まっているので、ホテルのベッドにルーナを寝かせた。


「ルーナは大丈夫なの?」

「食べ過ぎみたい。寝てればよくなるって」

「ふーん、情けないわね。馬ッ鹿みたい」


 フローラは手際よくルーナの服を着替えさせ始めた。オレは慌てて後ろを向いた。


「フローラは怪我しなかった?」

「もう治したわ。そんなことより、魔物を焼き払った空飛ぶ魔物は何なの?」

「友達」

「友達!?」


 オレが恐る恐る振り返ると、ルーナはふわふわの布団を被っていた。


「まあいいわ。ウチには関係ないから」


 フローラはお菓子を差し出してきた。綿菓子みたいな見た目で、パリパリしている。シナモンの香りと蜂蜜のような味がおいしい。フローラもパリパリ齧っている。


「それだけ?」

「あそこまでヤバい魔物なんて、下手に知りたがるもんじゃないわ」


 ソーレは人間のことが嫌いだろうから、賢明な判断だ。


「オレはルーナとシャドウを連れてルーチェを探しに行くから、今度こそお別れだね」

「ルーチェって結局、アンタの何なの?」


 オレは無言で綿菓子を頬張った。


「ペットっていう概念はある?」

「魔物の調教みたいなこと?」


 文化の説明から始めないといけないな。

【作者のメモ】

・夜がもらった宝石はブラックオパールみたいなもの

・シャドウは古代遺跡の調査をした辺りで、自分が前に稼働していた時代と違うことに気が付いていた

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