第33話 戦場に響く鳴き声
あ、そうだ。あれ使えばいいじゃん。
「異種族友好!!!」
『異種族友好が発動した』
周囲にいた異形たちが動きを止めた。便利だな、これ。
「今の夜にぃのスキル?」
「まあね」
異形たちはオレを庇うように戦い始めた。オレの周囲に土や氷の壁が現れた。
献身は無理かな。自分のために戦っているだけだし。
『献身の発動条件を満たしていない』
ほらね。何となく分かるようになってきた。
「あたし、スキルを使ったらすぐ疲れちゃうノ。夜にぃはすごいネ」
「ルーナちゃんはスキルを使わなくても十分強いから大丈夫だよ」
緊張感ないなあ。無数に魔物が押し寄せてくるのに。ルーナは笑いながら近くの魔物の顔面に拳を貫通させた。光景と会話の温度差で風邪ひきそう。
かれこれ数時間は経っただろうか。異種族友好と叫びすぎて喉が痛くなってきた。スキルで味方にした異形がどんどん倒れていく。灰になって消えた者、液状に溶けた者、弾け飛ぶ者など、様々だ。ヒトか魔物か分からないが、心が痛い。
「夜にぃ……」
ルーナが蒼い顔でふらふらとやってきた。オレは慌ててしゃがみこんだ。
「どうしたの?具合悪い?」
「疲れちゃったノ。眠っちゃいそうヨ」
まだ子どもだもんな。この星だと一日の三分の一くらい経ってるし、一人で千匹くらい倒してるし。疲れるか。
「眠っていていいよ。オレが守るから」
「いいノ?」
「うん。安心して休んで」
オレが両手を広げると、ルーナはとことこ入ってきた。汗臭くないかな。ルーナを抱き上げて背中をぽんぽんと叩く。ルーナがうとうとしてきた頃に、シャドウが近付いてきた。
「大丈夫ですか、サブマスター」
「ルーナが眠いんだって。オレが抱っこしとく。あ、耳栓ある?」
大声でスキル発動させたらルーナが起きちゃう。シャドウは何処からともなく耳栓を出してきた。自分で言っといてなんだけど、よく持ってたな。
「どうぞ」
「ありがとう」
ルーナの耳に耳栓をはめた。起きる気配はない。かなり無理してたんだな。
「これ、終わる気配なくない?」
「そろそろ撤退命令が出されると思います」
「え、今撤退したら町がヤバいんじゃないの?」
「いえ、これだけ数を減らしておけば、まだ復興が楽な方です」
過酷な世界だなあ。命懸けで戦って、被害を軽くするだけなんだ。
話しながらもシャドウはオレの周りの魔物や飛んでくる瓦礫を撃っている。オレも声を張って異種族友好のスキルをかけておく。
「心配してくれてありがとう。戦いに集中していいよ」
「シャドウがルーナ様をお預かりしましょうか?」
「でも、シャドウは動き回るよね?オレはどうせ一回も攻撃してないからいいよ」
魔物とヒトの区別がついていないから。
「では、何かありましたらお呼び下さい」
「うん」
シャドウは遠くに駆け出していった。腕が疲れてきたので、ガラスの馬のような見た目の生き物にスキルをかけて、背に跨った。見た目に反して温かい。ガラスの馬が。
「キエーーーーーッ!!!」
耳がキーンってした。ルーナが起きてしまわないか気になったが、大丈夫そうだ。音が不快だったのか、ものすごい数の異形が一斉にいなくなった。
ビキビキと、味方が用意してくれた壁が壊れる音が聞こえてきた。異形の大群が押し寄せている。今までもそうだったのだが、圧が違う。津波のように押し寄せる黒い群れを見て、オレは放心状態になった。
「逃げて!」
ガラスの馬に叫ぶと、全速力で駆け出した。だめだ。追い付かれる。踏み殺される。オレはルーナの様子を確認した。蒼白い顔でぐったりしている。オレが守らないと。
『献身の発動条件が満たされた』
発動する。
『献身が発動した』
今までで一番身体が軽い。魔力が身体中を駆け巡っている感覚がする。
「シャドウ!」
オレの声は地響きに掻き消された。ルーナが薄っすらと目を開けた。
「夜にぃ……?」
「……大丈夫だよ」
オレは深呼吸した。行ける。今なら何でもできる気がする。
オレはルーナをしっかりと抱え、ガラスの馬の背から飛び降りた。魔物より速く走って振り切ろうとするが、目の前の町が透明な壁のようなもので覆われていて進めなくなった。魔物は背後まで迫っている。オレは助走をつけて町のバリアの上に飛び乗った。
「スキルすげー」
上空から大量のバショウカジキが猛スピードで泳いできた。次々と町を覆うバリアに体当たりして、身体が水しぶきになって弾け飛んでいる。オレは自分の方に突っ込んでくるバショウカジキを魔力銃で撃ち落とした。その陰から別の魔物が後から後から迫ってくる。
飛んでくる岩で頬に血が滲み、吹雪が生じて手足が凍り付きそうになる。双頭のウツボのような魔物が目の前まで来た。手がかじかんで銃を構えるのが遅れた。噛まれる。
「業火の燔祭」
すさまじい光と熱に目が眩んだ。目を細めて見てみると、辺り一面火の海になり、魔物たちが断末魔すら上げられずに消し炭になっている。肉の焼ける臭いが鼻をつく。火の中を、一人だけ悠然と羽ばたいているヒトがいる。シルエットは人間の若い男性に見えるが、蝙蝠の羽のような翼が六枚生えている。
「ソーレ?」
「お久しぶりです、夜様」
ソーレはオレの目の前に降り立った。百人のヒトが数時間かけて戦っても減った気配がない魔物の大群が、一瞬にして灰燼に帰したんだけど。火に耐性がありそうなヤツもいたのに。敵に回さなくて良かったあ。
「どうしてここに?」
「龍脈災が生じたので、対応について話し合いたくて馳せ参じました」
「そうなんだ。体調は大丈夫?」
「お陰様でこの通りです」
目が慣れてきた。ソーレは臙脂色の髪の二十代くらいの青年の姿をしている。目は金色だが、ルーナの爬虫類のような目と異なり、人間味がある。黒いスーツ姿で、執事っぽい見た目だ。
やっぱりソーレが一番まともな人なんだよな。
【作者のメモ】
・途中で聞こえてきた金切り声が撤退の合図
・ソーレはルーナの魔力を辿って探しにきた




