第30話 仲直り
「申し訳ありません、サブマスター。ルーナ様が突然お倒れに!」
シャドウが頭を下げる。フローラは挙動不審ながらオレの後ろに立っている。ルーナは相変わらず高熱でうなされている。
「流石に急性魔力欠乏症になったみたいね」
「魔力が戻れば治る?」
「そりゃもう、元気に襲い掛かってくるわよ」
オレはナイフを取り出した。
「何してんの!?」
「そうだった。フローラは今のうちに逃げて。ルーナには上手いこと言っとくから」
「馬ッ鹿じゃないの!?そんなことしたら──」
「逃げないなら今すぐルーナを治すよ」
フローラはオレと議論しても無駄だと思ったのか、近くの藪に姿を隠した。それでいいのかと思ったが、オレは手首を切ってルーナに血を飲ませた。だんだんルーナの顔色が良くなっていき、呼吸も安定していった。
「夜にぃ……?」
「怖い思いさせちゃってごめんね、ルーナちゃん」
「うぅん、あたしも怖くて暴れちゃってごめんネ」
「体調はどう?」
「大丈夫ヨ」
さっきまでの辛そうな顔が嘘みたいに元気そうだ。
「そちらの藪にお隠れになっているフローラ様はどうなさるのですか?」
「シャドウ!」
シャドウは小首を傾げている。口には気を付けろよ。本当にお隠れになるところだぞ。
「フローラねぇって、夜にぃのお友達?」
「まあね。できれば赦してあげてほしいな」
「もうルーナのことイジメないかナ?」
「それは間違いないよ」
どうしたってフローラではルーナをイジメられないからな。
「じゃあ、ごめんなさいして仲直りしたいナ」
「だってさ、フローラ!」
茂みからフローラがおずおずと現れた。
「ごめんね、ルーナ。ウチ、急に魔龍だなんて聞いて驚いて……」
「ルーナもごめんネ。フローラねぇ、あたしのお友達になってくれる?」
ルーナはぷくっとした手を差し伸べた。あれ、オレは友達じゃないんだ?フローラは蔦のような手を伸ばして握手に応じた。
「ええ、ルーナ。改めてよろしくね」
一件落着、か?しばらく警戒はしておくべきだろうな。
「じゃあ、オレたちはルーチェを探しに行くから」
「ウチも同行させて!」
「何で?」
「車が壊れちゃったし、仕方ないでしょ?」
そう言われると弱い。
「分かった。邪魔しないでね」
「ハァ?何様のつもり?」
「置いていってもいいんだけど?」
「う……分かったわよ」
フローラはしゅんとした。どうせなら情報収集しておくか。
「機械化人って珍しい?」
「どうしたの急に。腕とか脚とか怪我したヒトが機械化することはたまにあるわよ」
「全身機械化するヒトは?」
「前機王様以外では一人しか知らないわ」
オレは身を乗り出した。
「そのヒト、女性?居場所は?」
「女性よ。居場所は知らないわ。お兄に定期的に会いに来るの。そろそろやってくる頃合いね」
「官邸に来るの?」
「家に来るわよ」
シリウスの家の近くで情報を集めれば、機械化人やルーチェの情報を得られるかもしれない。
「じゃあ行ってみよう」
「サブマスター、複数人がこちらに近付いて来ております」
「目立っちゃったわね。急いで離れましょ」
「あたしの背中に乗ったラ?」
ルーナは緑青色の龍に姿を変えた。その大きさはサラブレッドより一回り大きいくらいで、二人くらいヒトが乗っても大丈夫そうだ。
「亜龍に化けられるの?」
「何にだって化けられるヨ!」
ルーナは尻尾をぶんぶん振っている。
「三人乗れるかな?」
「サブマスター、シャドウは走っていけます」
「夜と相乗り?冗談じゃないわ!」
「でも、フローラねぇは夜にぃの友達なんだよネ?」
フローラが言葉を詰まらせた。下手なことを言ったらルーナと敵対すると心配しているのだろう。
「ルーナちゃん、同じ年頃の男女が相乗りするのは──」
「いいわよ。夜がいいなら」
フローラがつっけんどんに言った。ヴェールがほんのり赤い。
「オーケー。時間がないしそれで行こう」
ルーナがひざを折ってくれたので、オレはお礼を言って跨った。手綱なんてないので、たてがみに掴まっておく。フローラはオレの後ろに跨った。
「シャドウねぇも疲れたら言ってネ」
「お気遣いありがとうございます」
「あまり揺れないようにしてね。揺れそうな時は前もって──キャア!」
ルーナが走り始めると、フローラがギュッと抱き付いてきた。バラのような芳香が漂ってくる。
「大丈夫、フローラ?」
「振り向いたら赦さないわ!」
「はいはい」
これが美少女とはいかなくても、女性の見た目だったらなあ。いや、邪な気持ちではなく、元の世界を懐かしむ意味でね?そんなオレの思いを振り切るかのように、ルーナは軽やかに駆けていった。
ルーナが止まる頃には、オレは軽い乗り物酔いと尻の痛さで気分が悪くなっていた。フローラはと言うと、バジルのような香りのミストを吹き出していた。やたらと機嫌が悪そうな所を見ると、乗り心地は快適ではなかったらしい。
「ルーナちゃん、ありがとう。人間姿になってくれる?」
「うん!」
オレたちは町に入っていった。相変わらず地球では見られない光景が広がっている。空中を蛸のように泳ぐ生き物、歩く木のような生き物、頭からラッパの生えた生き物など異形しかいない。中には機械が空を飛んだり道を走ったりしているが、乗り物なのだろうと感じた。
「あ、あれ!例の機械化人よ」
フローラが指さした先には、象牙色の兵器のような機械が歩いていた。四本の脚と二本の銃のような腕、楕円形の本体には上部に二つの小さな穴、下部に大きめの穴が開いている。
「シャドウ、ルーナちゃんを頼んでもいいかな?できるだけヒトに会わないように気を付けてもらえる?」
「かしこまりました、サブマスター」
ルーナは、ほっぺをぷくーっと膨らませている。かわいい。でも、魔龍を操るという相手に魔龍のルーナを会わせるわけにはいかない。
「フローラは?」
「行かないと思う?」
オレはニヤッと笑った。
「思わない」
【作者のメモ】
・フローラがミストを出しているのは、車酔いで吐いているようなもの
・町を行く機械はほとんどが魔動車




