第28話 新たな旅仲間
シャドウとルーナが帰ってきた。ルーナはシャドウに肩車されている。ソーレは身体を起こし、オレに向かって頭を下げた。
「血をありがとうございました。お陰様で、かなり体調が良くなりました」
「それは良かった。では、オレたちはこの辺で」
オレはシャドウに目配せした。シャドウは振り向いた。貴方だってば!
「ルーナも連れて行って下さいませんか?」
「体調が良くなったなら、ソーレが一緒にいればいいじゃないか」
ルーナはシャドウにギュッとしがみついている。あれ、思ったより仲良くなってる?
「ここで少し、やりたいことが御座いまして」
「やりたいこと?」
「何、長年にわたって縄張りを守ってやったのに、僕を改造人間に売り渡した忘恩の徒、ここの亜龍どもに、礼儀というものを教えてあげようと思っているのですよ」
ソーレは悪い笑顔を浮かべた。どことなくドクターに似ている。
「ソーレ様は先生だったのですか?」
「シャドウ、後で説明してあげるから」
亜龍に少し同情する。これから血の雨が降るだろう。しかし、ソーレを止める義理はない。
「なるほど、それは子どもには少々刺激が強そうだ」
「ご賢察痛み入ります。しばしルーナの面倒をみて頂けますか?」
ルーナはひょいとシャドウから飛び降りて、ソーレにしがみついた。
「にぃに?やぁや!行かないデ!」
「ルーナ、ほんの数ヶ月くらいです。太陽の隣にいては、月の輝きが霞んでしまいます。月の真価は夜にしか見られません。少しの間、お兄さんと離れて、広い世界を見ておいでなさい」
ソーレは太陽、ルーナは月という意味だからか。詩的な言い回しだ。ただ、ルーナには伝わっていないようだ。
「ルーナちゃん、ソーレお兄ちゃんはちょっとお仕事して、すぐルーナちゃんを迎えに来るって。オレやシャドウと一緒に待っていられそうかな?」
ルーナはソーレの顔色を窺った。
「本当に、すぐお迎えに来るノ?」
「はい。約束です。お利口に待っていてくれたら、ルーナの好きな赤い宝石をお土産に持っていきましょう」
ルーナの顔がパッと輝いた。
「約束ネ!あたし、シャドウねぇ、夜にぃと一緒に待ってる!」
「いい子ですね、ルーナ」
胸が詰まりそうだ。オレも家族に会いたくなってしまった。
「今回の件で痛感しました。僕が一人で育て続けたら、ルーナのためにならないと。どうかルーナをよろしくお願いします、夜様、シャドウ様」
ソーレは翼を広げた。
「月が輝けるのは、太陽の光があるからだよ、ソーレ」
「嬉しいことを言って下さいますね。それなら、一等明るい星が流れれば、さらに月は輝けることでしょう」
シリウスが死んだらいいって?縁起でもない。
「星と月の明るさは最初から比べ物にならないさ」
「それなら良かったのですが。夜様の光に無事出会えますように」
「ありがとう。じゃあね」
ルーチェが光という意味だと分かっている言い回しだな。翻訳機能がどうなっているのか気になるところだ。
「ルーナ、さようなら」
「バイバイ、にぃに!」
ソーレは翼をはためかせて飛び去って行った。巨体が豆粒になるまで見送り、ルーナに目線を合わせて屈んだ。
「行こう、ルーナちゃん」
「うん」
シャドウがルーナの手を握り、オレたちは歩き始めた。時々シャドウがルーナをおんぶしながら進んでいく。魔物狩りをしてルーナに食べさせて、オレは携帯食料を食べる。ルーナは一日に500㎏くらい食べている。見た目は幼児でも食事量は元の大きさによるらしい。ちなみに、新鮮な魔物肉を一口食べてみたら病みつきになりそうなほど美味だった。
「ネ、あのパタパタ撃ち落として!」
ルーナが指さす先には、翼の生えた蛇のようなものが群れを成して飛んでいる。シャドウは指をそちらに向けた。
「待って──」
バンバンと音が響き渡り、蛇が落ちてきた。ルーナはキャッキャと喜びながら蛇を食べに行った。オレは溜息を吐いた。
「シャドウ、ルーナちゃん、できるだけ目立たないように移動しようって言ったよね?お空を飛んでいる魔物を撃ち落とすのは目立っちゃうから、やめておこうか。分かった?」
「どーして目立っちゃダメなノ?あたし、人間さんの姿してるヨ?」
「ルーナ様の言う通りです。シリウス様にお会いするなら、目立った方がよいのではありませんか?」
オレは天を仰いだ。シリウスのいる方に向かってはいるのだが、シリウスに会いに行っているわけではない。シリウスの命令で動いていると思われる改造人間を探しているであろうルーチェを探しているのだ。シリウスはもちろん、ヒトに見つかったら、この集団は最悪魔物として討伐されかねないのだが、どうも理解してもらえない。
「ソーレお兄ちゃんをイジメるような悪いヒトもいるから、相手が善いヒトか悪いヒトか分かるまで見つからないようにしないといけないんだ。分かる?」
「分かった!」
「かしこまりました、サブマスター」
戦闘力は申し分ないけど、知力が足りてないな、このパーティー。脳筋のオレがリーダーになるしかないなんて。
「サブマスター、どなたかこちらに来ております」
「隠れよう」
「間に合わないかと」
「ルーナちゃん、こっちおいで」
オレはルーナを呼び寄せた。ルーナがオレのローブの裾をギュッと握り締めたところで、白い球体が猛スピードで現れて、オレたちの前で止まった。球体の一部が開く。花のようなフリルのスカート、顔を覆う薄桃色のヴェールが現れた。
「フローラ」
「お久しぶりね、夜」
シリウスの命令でオレを捕らえに来たのか?オレは魔力銃をフローラに向けた。フローラはルーナに目を留めた。ヴェールがほんのり赤くなった。
「アンタ娘がいたの?」
「違うよ!」
「夜にぃ、このお姉ちゃんだあれ?」
「あら、ゲノム編集?」
「違う!」
これはややこしい事態になったぞ。
【作者のメモ】
・翻訳珠は使用者の語彙の中で、使用者にとってしっくりくる訳を自動で探している。つまり、夜は多少イタリア語の知識がある
・ソーレはルーナの母親にお世話になっているので、ルーナに対してお嬢様のお世話をするかのように丁寧に接しているところがある




