第27話 魔龍について
「オレに光魔法が使えたら、ソーレを治せるんだけどな」
「お気遣いなく。ただの慢性魔力欠乏症です。魔力を奪われ続けた影響でしょう。亜龍を数匹食べれば、少しでも魔力を取り込めるでしょうから、それで龍脈に行って静養します」
ソーレは弱々しく微笑んだ。魔力欠乏症、か。それなら。
「オレの血を飲めば多少は魔力が回復すると思うよ」
「え!そんな、よろしいのですか!」
「死なない程度の量で頼むね」
ソーレの瞳が潤んだ。尻尾が微かに揺らめいている。
「ありがとうございます。何とお礼をすればよいか」
「困った時はお互い様だよ」
シャドウはオレに向かって首を横に振っている。心配してくれるのは嬉しいけど、オレはこういう話しに弱いんだ。
オレは手首を切ってソーレの口に血を垂らした。
「何かお礼をさせてください。僕にできることでしたら、何でも致します。光り物を差し上げたい所ですが、奪われてしまったもので、申し訳ありません」
「じゃあ、知りたいことがあるんだ。金色の髪に黒い目の人間の女性を見なかった?亜龍の住処にいたらしいんだけど」
ソーレは目を細めた。何だ?知ってはいるみたいだけど。ソーレは横目でルーナを見た。ルーナは欠伸をしている。退屈なんだろうな。
「シャドウ、ルーナちゃんと遊んできてくれないかな?」
「かしこまりました、サブマスター。行きましょう、ルーナ様」
「うん!かけっこしヨ!」
ルーナはてとてと草原を駆け出していった。シャドウも追い駆けていく。ソーレはそれを見て微笑んでいる。
「失礼ですが、その方とのご関係は?」
「オレの友、ルーチェなんじゃないかと思って追ってるんだ。心当たりはある?」
「ええ、彼女はルーチェと名乗っていました。僕をあの地獄から救い出してくれたのです。誰にも会えず、仲間の死体を眺めて、自分が死ぬ日を待ち望みながら、蟲の餌となる日々のなんと長かったことか!あのまま何十年、何百年と過ごすと思ったら気が狂いそうでした!ルーナを想って、どうにか正気を保って……」
ソーレは歯軋りした。その牙はぼろぼろになってしまっている。オレはかける言葉が浮かばなかった。
「ルーチェ様には、枷を壊し、悍ましい蟲どもを取り除いてルーナに会えるようにして頂きました。十日ほど前のことです。その後ルーチェ様がどこに向かわれたのかは分かりません。お役に立てず申し訳ございません」
嗚呼、ルーチェが生きていた。オレは感極まって目頭を押さえた。
「ルーチェが何をしたのか、何を言っていたのか、知っていることを教えて」
「はい。ルーチェ様は魔龍の死骸を一頭ずつ調べておいででした。僕を見て生きていることに気が付くと、話しをして下さいました。僕が捕らわれた経緯とここで何をしているのか、どんな人間が出入りしているのかなど説明しました。話しが終わると、ルーチェ様は僕を解放して下さいました。これからここを焼くから、すぐに離れて戻ってこないようにと仰せでした。僕は身体を引き摺りながら逃げ出し、ルーナに会いに行きました」
ルーチェがメカに会ったのはその後か。結局ルーチェが放火せずに亜龍の住処に向かったことを踏まえると、ソーレと別れてすぐメカに会った可能性もある。ソーレが安全な場所に行くまで待てないと思って火をつけずに去ったのかもしれない。
ルーチェは何がしたいんだろう?
「人間がソーレを捕まえられるとは思えないんだけど、何があったの?」
「あの改造人間は、『魔王血珠』を持っていたのです。僕は若いので、直接当時の魔王様に血と忠誠を捧げたわけではなかったのですが、あれは二代目にも効力があるようです。あれを使って命令されると、身体の自由が利かなくなりました」
魔王?シリウスも魔王を名乗っているけど、魔龍にも魔王がいるのか?
「魔王と『魔王血珠』について詳しく聞かせてくれる?」
「千年以上前の話になります。当時の魔龍の中で最強の一頭が、魔龍を全て支配下に治めたのです。それが魔王様、ノッテ様です。魔王様は全ての魔龍に、忠誠の証に血を捧げるよう命じました。集められた血を使って呪術が掛けられ、魔王血珠が作られたのです。血を捧げた者は、血珠を持っている者の命令に抗えないと聞きました」
独裁者だあ。魔法のある世界の独裁者は怖すぎる。
「しかし、魔王様は人間の勇者に殺されてしまったのです。その後、人間は魔龍を迫害し、数が激減しました。生き残った魔龍たちは魔物に擬態して、魔素濃度の低い場所に逃げ延びてひっそりと暮らしています」
魔王は大戦犯だな。魔龍を魔法蟲の苗床に利用することで、人間は誰でも魔法が使えるようになった。今でも魔王血珠を使って魔龍を生け捕りにしているということか。何て残忍な……。
「そう言えば、ルーチェ様は僕を襲った改造人間のことを詳しく尋ねておいででした。外見、襲われた場所、僕の世話をどうしていたかなど、事細かに。ルーチェ様は随分とお怒りのようで、居場所に心当たりはないか、僅かな手掛かりでもいいから教えてほしいと頼まれました。ルーチェ様はそちらに向かわれたのかもしれません」
ルーチェが何をしたいか分からない。とにかく行ってみるしかないか。
「ルーチェに言ったこと、オレにも教えて」
「改造人間は女性で、全身機械化していました。強大な魔力量を持ち、人間業とは思えない動きをしていたのです。僕を捕らえてからは、魔法蟲の卵を植え付け、僕の食事などの世話をしていました。改造人間の口癖は『魔王様のために』です」
オレは鳥肌が立つのを感じた。魔龍を捕らえて人間に植える魔法蟲の苗床とするよう改造人間に命じた魔王様が、魔龍のトップである魔王様だとは考えにくい。それに、ヒトの存続にかかわるこの事実を、あのヒトが知らなかったはずがない。まさか、まさか……。
「ありがとう。ルーチェがどこに向かったのか見当がついたよ」
シリウス、貴方はヒトのためにそこまでできるんだね。でも、オレもルーチェのためなら何だってできるんだよ。
【作者のメモ】
・龍は光り物を好む。宝石の類は魔力を溜め込みやすいからだという説もあるが、真偽は定かではない
・千年以上前の出来事について、ソーレはルーナの母親から話を聞いていた




