第25話 魔龍との遭遇
オレはシャドウと共に古代遺跡を後にした。人間がいるかどうか、手掛かりは得られなかったが、ぐずぐずしているとルーチェかもしれない女性がシリウスに殺される。亜龍の住処へ行くしかないか。
「そう言えば、亜龍と魔龍の違いって何?」
「簡単に言うと、亜龍は人間が乗れるくらいのサイズの龍で、魔龍は人間を丸呑みにできるサイズの龍です。魔龍は魔力量も亜龍の五倍くらいある、地上最大級の魔力量を誇る生物です。龍脈に生息しているようですが、詳しい生態は知られていません」
ワイバーンとドラゴンみたいな違いかな?メカの言い方だと、魔力量が測定されている生物の中で最大のものは亜龍だった。龍脈には魔物さえ棲まないと、フローラも言っていた。魔龍なんて初耳だ。
「亜龍の住処に行ったら危ないと思う?」
「亜龍は対話できる知性がありますが、気性が荒いです。戦闘は避けられないでしょう。シャドウとサブマスターが組めば互角に戦えると思いますが、危険は伴います」
やっぱり危険か。それでも行くしかない。
「対話できる知性がある?」
「はい、サブマスター。亜龍や魔龍は対話できる魔物の中でも、特に高い知性を持っています。龍の気分と相手の強さによっては言葉を交わしてくれるようです」
『異種族友好』が通じるか。
「よーし、行ってみよう」
「はい、サブマスター」
亜龍の住処は古代遺跡の手前にある黒い森を抜けた所にある、珊瑚色の草原らしい。静かだ。草のそよぐ音しか聞こえない。しばらく歩いていると、巨大な影が目の前に降り立った。十メートルくらいのドラゴンだ。向日葵色の鱗、金色の目、捻じれた二本の黒い角、魔龍か。
「シャドウ、シールド!」
「グワアアァァ!!!」
間一髪、龍の咆哮に失神せずに済んだ。耳の奥がガンガンする。剣先が並んでいるかのような牙と鎧のような鱗を見ただけで足が震える。
「異種族友好!」
『異種族友好の発動に失敗した』
爪が襲い掛かってきた。シャドウがオレの首根っこを掴んで攻撃を躱した。翻訳珠がないから通じないか。盲点だった。オレは魔力銃を指にはめた。
「シャドウ、逃げられそう?」
「逃げ切ることは不可能に近いと思われます」
「オーケー、やるしかないか!」
魔力銃を魔龍に向けて撃った。鱗に当たったが、魔龍は意に介していないようだ。シャドウは魔龍に飛び掛かっていった。魔龍は周囲を飛び回って攻撃してくるシャドウのことが鬱陶しいようで、そちらに注意を奪われている。
鱗には攻撃が通らないな。そうなると、腹部か目、口に攻撃するしかないか。幸い、動きは単調で読みやすい。魔龍は上の方にいるシャドウを狙って首をもたげた。今だ!
魔龍の腹部に魔力銃の狙いを定め、何発も連射してお見舞いした。魔龍は呻き声を上げ、オレを睨みつけた。金色の大きな目が月のように光っている。樹のような大きさの尾がシールドを粉々に打ち砕いた。直撃したらぺしゃんこだろうな。
「にぃにのコトも、こうやってイジメたんだネ!?」
「うわ、喋った!」
魔龍の声は幼い女の子のように聞こえる。見た目とのギャップがすごい。
「お仕置きしちゃうモン!」
魔龍は大きく両手を振り上げた。その手が振り下ろされる前に、シャドウがオレにロープを巻き付けて引き寄せた。オレがいた場所は地面が大きく陥没し、砂埃が辺りを覆っている。この魔龍、幼いな。癇癪を起こしている子どものようだ。
待てよ。言葉が通じているのにスキルが発動しないのか?
「ちょっとお話ししようよ。多分、人違い──」
「うるさあい!」
魔龍が地団太を踏むと、地割れが生じた。身に覚えのない八つ当たりで叩き潰されるなんてゴメンだ!
「シャドウ、アレを頼むよ」
「アレ、ですか?しかし、シャドウが倒れてしまったら、サブマスターが……」
「すぐに再起動する。大丈夫だ」
魔龍を落ち着かせるには、少々手荒な方法しかなさそうだ。そのためには、シャドウの魔力砲を使うしかない。
「すぐに?」
「頼んだよ!」
オレは走りながら魔力銃を放った。魔龍は後ろ足で立ち上がり、両手を振り上げた。シャドウがいた方から強烈な光が差し、魔龍の顔に光線が命中した。ジュッという音が響き、魔龍はばたりと地面に倒れた。再び地面が大きく揺れ、砂埃が巻き起こる。オレはシャドウに駆け寄って再起動した。
「魔龍はどうなりました?」
「分からない。魔力砲が命中するのを見てすぐ再起動させたから」
「え?」
シャドウは口元を押さえた。
「まさか、サブマスターお一人でシャドウを起動させたのですか?」
「そうだよ?ずっとそうだったじゃないか」
「しかし──」
「ガアアアアァァァァァ!!!!!」
魔龍は起き上がると、耳がつんざけるほどの咆哮を上げ、尻尾をメチャクチャにぶん回した。余波だけでオレは吹っ飛ばされ、シャドウに助けてもらった。魔龍の左目の上の鱗がひび割れ、血が滲んでいる。目に直撃すれば失明していたかもしれない。大した威力だ。しかし、足りない。手負いの魔龍は怒り狂ってしまっている。
「シャドウ、二発目頼める?」
「大丈夫なのですか?」
「やるしかない」
虎の尾を踏んだような気もするが、こうなった以上、徹底的にやるしかない。魔龍は両目を瞑ったまま暴れている。隙だらけだ。シャドウの腕に光が集まっていく。目も眩むような光が放たれ、オレは目を瞑った。光が消えた。シャドウが倒れる音がする。魔龍のいた方を見ると、何もいなかった。上から大きな羽音と風を感じる。
オレが顔を上げると、頭上には黄色い魔龍がいた。その黄色い魔龍は、一回り大きな臙脂色の魔龍に掴まれ、宙に浮いていた。臙脂色の六枚の翼が悠然とはためいている。
この二頭がオレたちそっちのけで争い始める、なんてことはないかな?
「にぃに!助けに来てくれたの?」
なさそうだなあ。
【作者のメモ】
・亜龍は魔龍に怯えて逃げ出している
・シャドウは夜が自分の魔力だけを使って起動させていることすら知らなかった




