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異世界が思ってたんと違う!  作者: 馬之群
第2章 調査
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第24話 古代遺跡の調査

「ようやく着いたね」

「はい、サブマスター」


 改めて見ても巨大な建造物だ。魔素濃度が高いはずなのに、古代のヒトビトはどうやって建てたのだろう。表面を覆う濃紫の鱗が朝日に煌めいている。庭にある黒い像は魔物の姿をしている。オレとシャドウは門の前に進み出た。黄ばんだ門には葉っぱのような装飾が施されている。まあ、それはいいのだが……。


「巨人の館かよ」


 オレは苦笑いした。門の高さは日本の建物でいうと、六、七階くらいの高さはあるだろうか。人力では開けられないだろう。調査が進まないわけだ。オレは門に触れてみた。門の装飾が光ったかと思うと、自動で門が開いた。少し疲労感がある。魔力を持っていかれたな。

 中には規格外の大きさの部屋が広がっていた。窓は水族館の水槽くらいの大きさがあり、テーブルは岩をそのまま割ったように見える。乳白色の断面が美しい。


「誰かいますか?」


 頼むからいないでくれ。返事はないから、誰もいないのだろう。


「入ろう」

「はい、サブマスター」


 オレはどんどん奥に進んで行った。大木を焼き尽くせそうな暖炉と雲のようなクッションのある部屋、壮大な絵画を描けそうな大きさの石盤が並べられた部屋、人間を料理できるくらいの大きさの調理施設がある部屋、橋のようなハンモックのある部屋、金銀財宝で埋め尽くされた部屋などがあった。


 どの部屋にも切り株大の手提げランプがある。オレたちには持ち運べそうにない大きさだが。中には石が入っており、オレがランプに触れると熱と光を発した。シャドウ曰く、魔力に反応する魔石の一種らしい。暖房になりそうなくらい温かい。


 中庭には湖がある。中央には島があり、岸には所々大岩のような大きさの畳まれた布がある。湖底は濃紫の砂が煌めいている。外で見た鱗と同じ色だ。


「人間の住処じゃないねえ」


 今まで会ったヒトはどれも異形ではあるが、人間と大差ない体格だった。だが、この館の主は、どう考えても数メートル、下手したら十メートル以上の体格がある。


 石盤には文字のようなものが彫られていた。解読できれば、この館の主について情報が得られるだろう。


「シャドウ、この文字読める?」

「申し訳ありません、サブマスター。シャドウには分かりかねます」

「気にしないで。データの保存はできそう?」

「はい、サブマスター」


 石盤のある部屋には白い一角獣の彫像がある。よく見ると、角は身体より黄ばんでいる。オレは角に触れてみた。床が動き、数メートルの穴が出現した。真っ暗で下がどうなっているのかは分からない。


「地下室か!でも、階段はなさそうだね」


 シャドウはオレの傍に駆け寄ってきた。


「シャドウが偵察してきましょう」

「ありがとう」


 シャドウは穴に飛び込んだ。シャドウが降り立つ音は数秒経ってから聞こえた。相当深いな。しばらく経ってから、ロープが飛んできて柱に巻き付いた。シャドウが飛び上がってきた。


「下には魔龍の死骸が数体、魔法蟲の卵と幼虫塗れで転がっておりました。詳しい調査はまだですが、危険はないかと」


 グロ……。いや、調査すると決めたんだ!行くぞ!


「じゃあ、オレも降りるよ」

「かしこまりました、サブマスター」


 シャドウはオレをお姫様抱っこした。

 ええ!?


「シャドオオオォォォ──」


 オレが抗議するより先に、シャドウが穴に飛び込んでしまった。シャドウの肩が翼のように変形して、地面に激突しないで済んだ。寿命が五年くらい縮んだ。


「暗いね」


 オレが呟くとシャドウの目が光った。気が利くなあ。そこは地下室というより、天然の洞窟のようだった。


「ありがとう」


 目の前には暗緑色の十メートルは超えるドラゴンが横たわっていた。これが魔龍か。一部だけ鱗が剥がされており、鶏卵サイズの紡錘形の透明な卵や十cmくらいの透明な幼虫が見える。魔法蟲だ。腐臭はしないが、やけに甘ったるい臭いがする。奥には鼠色や紺、山吹色の鱗が見える。


「サブマスター、壁に文字が」


 オレは岩壁を見た。白い文字が一面に書かれている。掠れてしまっている部分もある。


「読めないよね?」

「読めます、サブマスター」

「じゃあデータだけ……って、え?読めるの?」


 シャドウは頷いた。


「読み上げましょうか?」

「お願い」


 シャドウが言ったのは、だいたい次のような内容だった。


 全ての人間が魔法を使える世の中の実現。それこそがわたしの悲願であり、このような死の地に流された理由でもある。この洞窟だけが地上に比べて魔素濃度が低いようで、辛うじて一命を取り留めた。しかし、死の間際の苦しみが伸びただけに過ぎない。わたしは何か罪を犯したというのか!神よ!


 一部の魔法使いのみが寿命を縮めて魔力を増やし、生涯魔法を鍛錬し、命懸けで魔物を狩る。魔法を使えない人々は多くが若くして命を落とし、魔法使いの顔色を窺いながら生きる。誰もが生まれながらにして魔物を相手に生き延び得る力を手にして、安心して生活できる社会の実現は、万人を幸福にするとなぜ分からない!


 (以下彼を追放した為政者への怨嗟が千字ほど綴られる)


 後世の人間がこれを見たら、魔法蟲を利用して魔法を使う方法を検討してほしい。魔法蟲とは、魔力の多い魔物に寄生して魔力を吸い取って生きる虫だ。試しに人間に魔法蟲を移植したが、人間は激痛を訴え、魔法蟲共々ほどなくして死亡した。魔力量の多い魔物を苗床に孵化した魔法蟲の方が、宿主替えした後の必要魔力量が少ないようだ。


 (以下実験データが詳細に記録されている)


「なるほどね。彼の研究を引き継いで完成させたヒトがいるわけだ」


 洞窟の奥には錨ほどの太さがある鎖と人間の胴回りより大きな枷が壊れていた。赤黒い血と臙脂色の鱗が散乱しており、さらに奥に血の跡が続いている。

 オレは血の気が引くのを感じた。鎖や枷の断面は全く錆びていない。血は乾いているが、遺跡の風化具合に比べるとかなり新しい。


「シャドウ、地上に戻ろう。今すぐに!」


 ドラゴンと鉢合わせなんて絶対に嫌だ!

【作者のメモ】

・古代遺跡の近辺には生き物がほとんどいないため、風化が非常に遅い

・夜は金銀財宝を少々拝借している

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