第23話 決着と出立
「ごめん、シリウス」
オレはシリウスの反対側に向かって魔力銃を三発放つ。シリウスに向かってニヤリと笑ってみせた。
「監禁されるくらいなら死んだ方がマシだ」
「何を……?」
「逃げた方がいいよ、シリウス。一直線な攻撃だから」
オレが銃を撃った方から光が見えている。合図は伝わったようだ。
シリウスの角が光り、オレに飛び掛かってきた。一瞬のうちに組み伏せられた。動けそうにない。周囲を覆っている暴風がやんだ。床がせり上がり、光を防ごうとしているが、それでも光が漏れて見える。
「これじゃ防げないよ!逃げろって!」
光が大きくなり、視界一面に広がった。壁の溶ける煙とジューッという音がゆっくりと迫ってくる。シリウスは魔法薬を一度に五本くらい飲んで壁を増やしているが、溶けるスピードの方が上回っている。
想定外だ。シリウスがこんなことをするなんて。護らないと。
『献身の発動条件が満たされた』
発動する。
『献身が発動した』
オレは上に乗っているシリウスを跳ね退けた。その瞬間、壁が完全に崩壊した。シリウスを庇おうと手を伸ばした。視界が真っ白に染まり、何も見えなくなる。背中が灼ける。シリウスがオレの腕の中から抜け出す。
オレはその直後、意識を失った。
「……る、夜、起きなさいよ!」
オレは瞼を開けた。フローラの顔が目の前にある。オレは辺りを見渡した。高価そうな調度品が整然と並んでいる。ここはシリウスの家だ。
「フローラ?」
「そうよ!あのポンコツに何を命令したのよ、この馬鹿!アンタが死んでたら殺してやるとこだわ!」
シャドウの魔力砲でオレの脳味噌が吹き飛んだのでなければ、フローラはメチャクチャなことを言ってるな。
「シリウスは?」
「まだ目覚めないわ」
「……ごめん」
シリウスは光魔法で逃げると思った。シャドウの攻撃は本命ではなく、隙を作ることが目的だったんだけど。敵を庇うなよ。オレの手足をもいでから監禁するって言っていた話はどうなったんだ。
「考えてみたらシリウスもまだ二十歳だもんな。嘘発見器もあるし、ブラフが強火すぎたか」
オレは頭を掻いた。監禁は死んでもゴメンだが、自殺願望はない。ちょっと動揺してほしかっただけなのに、素直にオレの身を案じてくれるとは。ピュアか!それでも本当に魔王か!
「それにしても、何でアンタの方がお兄より軽傷なのよ」
「シャドウの魔力は元々オレのものだから、オレにとってはダメージが小さいんだよ」
頭を庇いながら耐えれば、魔力銃くらいは撃てるはずだった。シリウスが油断して近付いてきたところで腕の魔石を壊して勝てると思ったのに。
「負けちゃったかあ」
「今それ言う?本ッ当に信じらんない!」
「試合だったから、つい」
オレは起き上がった。窓の外は薄暗くなっている。シャドウの姿が見えない。
「心配させちゃってごめんね、フローラ」
「べ、別にアンタのことなんて心配してないんだからね!お兄を危険な目に遭わせたから文句言ってやろうと思っただけ。勘違いしないでよね!」
「はいはい」
フローラのヴェールは真っ赤だ。まだ意識のないシリウスを置いて、オレの様子を見に来たのは、監視のためだろうか?
「オレの処分について何か言われてる?」
「処分って何よ?」
「いや、言われてないならいいんだ」
シリウスはオレの記憶を消して調査に行かせまいとしていた。記憶が消せないと分かると、手足をもぎ取ってでも監禁してやると。恐ろしいことに、魔法珠は青いままだったんだよな。シリウスが目覚めたら、オレは厳重に監禁されるだろう。
「勘違いしてるみたいだから言っとくけど、試合はアンタとポンコツの勝ちよ。ポンコツの馬鹿みたいな攻撃のせいで、お兄とアンタの魔石が割れちゃったの。ポンコツはぶっ倒れたけど、魔石は割れなかったから、ルール上勝ちでしょ?」
わーい、勝ったぞー!
「……それは良かった。シャドウはどこ?」
「アンタの部屋に運んどいたわ」
今しかない。シリウスが目覚める前に全ての決断を下さないと、手遅れになる。
「ありがとう。オレは部屋で休むから、オレが外に出るまで、何があっても入ってこないで」
「分かった。ウチはお兄の部屋にいるから、何かあったら呼んで」
「うん。じゃあね」
オレはすぐに部屋に戻り、部屋の隅に座らされているシャドウを起動した。
「サブマスター、ご無事でしたか?」
「まあね。それより、すぐここを出よう。他のヒトに見つからないよう、こっそりとね」
「かしこまりました、サブマスター」
食料と水を盗んで、シャドウも連れて行くことになるな。うう、罪悪感で胃が痛む。
「シャドウは見つからずに外に行けるルートの確保をお願い。古代遺跡への行き方は分かる?」
「分かります、サブマスター」
「よし。オレが戻ってくるまで待っててね」
オレは食料や水、着替えなどを持ち出した。そして、部屋に戻ると、映像記録媒体を起動した。
「シリウス、黙って去ってすまない。恩を仇で返すことになってしまったが、本当に感謝している。オレがこの世界に来てから、初めて会話したのがシリウスだった。ドクターが殺され、オレも衰弱死するところだったのを助けてくれた日のこと、今でも覚えている。この世界のことが何も分からなかったオレに色々と教えてくれて、不安が軽くなった。闇夜を照らす星のような安心感だった。シリウスに会えて、本当に良かったと思っている」
オレは言葉に詰まった。伝えたいことはたくさんあるのに、口に出そうとすると泣いてしまいそうになる。
「……さようなら」
オレは録画を停止して、机の上に置いた。
「行こう、シャドウ」
「はい、サブマスター」
オレとシャドウは、いわゆる魔法使いのローブといった、足元まで隠れる黒ローブを着て、裏口からそっと出て行った。
【作者のメモ】
・訓練場は半壊してしまっていて、修理には魔法を使っても数日掛かる
・シリウスが目覚めないのは、怪我が深刻だからというよりも魔力の使い過ぎである。休めば全快する




