第22話 シリウスとの試合
「無理に私に挑まずとも、ここにおれば安全だぞ。戦ったり傷付いたりする虞もない」
「ありがとう。でも、オレは護ってもらうばかりの存在でいたくない」
訓練場は野球場くらいの広さがあり、一面堅固な白壁で覆われている。シリウスは軍服のような服を着て、角を微かに光らせている。分厚い透明な壁の奥には、フローラ、ビースト、ソードがギャラリーとして控えている。
「腕に着けた魔石を砕かれたらその時点で脱落だ。いいな?」
オレは頷いた。シリウス、シャドウ、オレの左腕には緑色の石が付いた腕輪がはまっている。
「では、始めようか」
シリウスの両隣の床がせり上がり、巨大な犬の形になった。右側に現れた白い犬の周りには白い花が舞っている。左側に現れた黒い犬の周りには黒い泡が浮かんでいる。
「シールド展開」
シャドウの言葉に合わせて、オレとシャドウの周りに透明な防護壁が出現した。シャドウは右手を剣、左手を銃に変えて白い犬に向かって駆け出した。
オレは魔力銃を黒い犬目掛けて撃った。その途端、近くで爆発が起きた。防護壁が揺れる。何だ?面食らっているオレに黒い犬が飛び掛かってきた。オレは至近距離で魔力銃を放った。犬の頭が吹っ飛んだ途端、大爆発が起こった。防護壁は消滅し、オレもしたたかに身体を打ちつけた。黒い犬は動く気配がない。身体から泡が出続けている。
オレはポケットから回復薬を出して飲んだ。何が起きているんだ?シリウスは動いていない。それならば、爆発が生じた原因は周囲に浮かんでいる泡しか考えられない。まさか、魔力に反応して誘爆するのか。
「オレへの対策か。やられたな」
オレには魔力銃しか武器がない。空中を無数の泡と花が舞う中、魔力を放つたびに爆発が生じたら、オレの方がダメージを受ける。
「シャドウ、シールドをお願い」
「はい、サブマスター」
防護壁が再展開したところで、オレは魔力銃を下ろした。自爆特攻するには早い。シャドウは剣で白い犬の首を斬り落とした。花が大量に零れ落ちて舞い上がる。
「シャドウ、花と泡、吹き飛ばせる?」
「かしこまりました、サブマスター」
シャドウの腹が開き、ファンが剥き出しになったと思うと、花と泡が飛ばされていった。しかし、犬だったものからは花と泡が湧き続けているので、訓練場を埋め尽くすほどの花と泡はなくなる気配がない。オレたちが手間取っている間に、シリウスが黄色い炎を出す鳥のような何かを作り出している。
「ダメだ。諦めよう。攻撃を頼む」
「かしこまりました、サブマスター」
シャドウは花と泡に覆われた空間の、針孔のような隙間を縫って鳥を狙撃した。神業だ。被弾した鳥は落ちていく。撃たれなかった鳥がこっちに向かってきて、炎を吐いた。花が燃え始め、炎が一瞬で広がった。耐火布とは言え、熱い。息が苦しい。早いとこ決着をつけないと。どうしたらいい?
黒い泡が上昇している。今なら魔力銃が使えるか。オレは鳥を撃ち落としながら、火を避け、シリウスの方に向かって行った。辺りは黄色い炎の花が咲き乱れており、シカのような角のシルエットは目立っている。火の粉を被ってしまうが、多少の火傷は後で治せばいい。
ここからなら、シリウスに魔力弾が通る。オレの放った魔力弾がシリウスの方へと向かって行き、シリウスの目の前に迫ったところで、不自然に曲がって床に当たった。よく見たら、シリウスの周囲には氷の壁がある。シリウスは悠々と魔法薬を飲んでいる。魔力回復か。想定内だ。
「魔力切れになるまで撃ち込んでやる!」
オレは氷の壁に魔力弾を撃ち続ける。周囲の敵はシャドウに任せることにして、シリウスからの攻撃を避けつつ反撃することに集中する。地面が口になって噛み付いてきたり、暴風に吹き飛ばされそうになったりしても、耐えながら銃を撃つ。氷の壁は何度か割れ、張り直しにも時間が掛かるようになってきた。黒い泡や火の花も少なくなった。
「ここまでやるとは思わなかった」
「降参する?」
「お主がか?」
シリウスは笑っている。オレはひびの入った氷に銃口を向けた。魔力銃を撃った瞬間、氷が自分から融け、シリウスは天井に何か伸ばしたと思うと、上に飛んで行った。シリウスのいた場所の裏には黒い泡が大量に見える。マズい。
爆風がオレに襲い掛かった。全身の痛みで意識が朦朧とする。回復薬をまさぐって飲み、目を開けると、シリウスが立っていた。オレとシリウスの周囲は雹の交じった冷風が吹き荒れている。オレは魔力銃を構えようとしたが、シリウスにオレの腕を掴まれた。これで脱落か。
「ようやく話しができる」
シリウスは周囲を見渡してから話し始めた。
「夜、私は例のヒトを何としてでも殺す。だから、お主が何を調べようが、例のヒトと対話しようが無意味だ」
「そんな!オレの唯一の同族なんだ。ドクターとメカを殺したとはいえ──」
シリウスはオレの腕を掴む力を強めた。
「危険だからだ。思想、戦闘能力、美貌、どれをとっても前代未聞。潜在的な影響力は計り知れない。彼女の存在は世の中を脅かしかねないのだ」
「それを言うなら、オレも同じだろう。オレも殺すの?」
「夜だけは特別だ」
シリウスはオレの額に指を突き付けた。
「忘れるんだ、全て」
脳の内側が掻き回されるような感覚が襲ってきた。ドクターと食事をした時、ルーチェとボール遊びをした時、いくつもの記憶が同時に再生される。記憶が溶けて混ざり合っていくような感覚がする。頭が割れそうだ。
「や……めろ!」
オレはシリウスに頭突きした。痛い。
「忘却魔法が効かない?妙だな。前世の記憶の影響か?」
シリウスはぶつぶつ呟いている。
「こうなったら、手足の四、五本もいででも監禁するしかないか」
オレの手足は四本しかないよ!どこが『友好的』なんだ!
【作者のメモ】
・シリウスが使っている魔力回復薬は、夜の血から作った物とは異なる、市販品
・忘却魔法は闇魔法の一種




