第21話 模擬戦闘
「シャドウのために、ルールを設けてくれないかな?」
そうじゃないと、シャドウが全員殺してしまう。
「ふむ。ちょうど赤と青のリボンがある。それを身体に巻いて、攻撃が当たるか取られるかしたら脱落でどうかね?」
「いいね」
オレは赤いリボンをもらい、自分とシャドウの手首に巻いた。ビーストはクロウの尻尾に青いリボンを巻き、ソードは鉢巻のように巻いた。
「シャドウ、この赤いリボンを守りながら、あの二人の青いリボンを攻撃するんだ。いいね?」
「ハッ、あれが弱点なのですね!」
「あー、うん。そうそう」
もうそういうことでいいや。
「俺ァ審判を務めるぜェ。じゃァ両者準備はいいなァ」
オレとソードが頷いた。ビーストは大きく息を吸い込んだ。
「ウオオオォォォ!!!」
ソードは二つの鞭をしならせた。シャドウがその中に突っ込んで行った。腕から光線を放ちながら。シャドウの攻撃をいなし、鞭が縮んだ。長剣のような形状になり、シャドウに斬りかかった。あの鞭、剣にもなるのか。
「クエ!」
クロウがシャドウに向かって急降下していった。オレは魔力銃をクロウに放つ。外れた。シャドウはクロウを蹴り飛ばした。クロウは自分から飛びずさってダメージを減らしたようだ。口を開けると、何か暗緑色の液体を吐いた。ジュッという音と共に地面が溶けた。
「シャドウ、一旦退いて──」
シャドウの腕から剣が飛び出したかと思うと、ソードの剣を受け止めた。クロウがシャドウに飛び掛かろうとしたので、オレは魔力銃を連射した。一発がたまたま尻尾のリボンを撃ち抜いた。
「クロウ、脱落だァ」
棚ぼた!二対一だ!
ソードの武器は自在に長さとしなり具合を変えられるようだ。二本の鞭がそれぞれ別の形状と役割に切り替わる。剣から槍、槍から鞭と変幻自在だ。
オレはシャドウとソードの激しい打ち合いに入れそうにない。援護射撃をするにも、シャドウに当たりそうだ。しかし、明らかにシャドウが劣勢だ。
「どうしたね、人間。そんな有様では、古代遺跡の調査など不可能だが?」
それもそうだ。オレは慎重にソードに狙いを定めた。当然、軽々と防御されたが、その隙にシャドウが追撃する。ソードは武器を棒高跳びの棒のように使って飛んだかと思うと、オレの目の前に降り立った。
「サブマスター!」
あちゃー。オレはリボンをつけている方の腕を引いたが、鞭がしなりながらオレの背後に迫る。達人の業でオレのリボンだけを切り裂き、鞭はソードの手元に戻った。
「坊ちゃん、脱落だなァ」
後はソードとシャドウの一騎打ちか。ソードはシャドウの所に舞い戻り、リボンを斬った。速い。
「嬢ちゃんも脱落、ソードの勝ちだなァ」
いくら何でもシャドウは瞬殺される実力ではなかったはずだけど。シャドウは黙って俯いている。よく見ると、シャドウの腕が大砲のようになっていて、その先に光が集まってきている。
「サブマスターの仇!」
死んでないよ?
「シャドウ、やめろ!」
オレが声を掛ける前に光線が発射されていた。オレの魔力銃なんて可愛く見えるほどの目も眩むような光線だ。壁がラクレットチーズのように溶け落ちている。
「老師?」
ソードがいた場所には灰が落ちている。薄灰色の細長い燃え残りがある。まさか……。
「いやはや、あられもない姿をお見せしてしまったな」
訓練場にあったカーテンのような布からソードの声がした。ゴソゴソ動いたかと思うと、いつも通りの姿で現れた。
「怪我はない?」
「ああ」
オレはシャドウの様子を見に行った。最初に会った時のように生気がない。
「龍の息吹かと思ったぜェ。訓練場の壁が擬液軟体のように溶けちまったなァ。ただ、嬢ちゃんの魔力はもう空っぽだぜェ。動きそうもねェなァ」
ビーストはクロウを肩に乗せて歩いてきた。
「うちのシャドウがごめん。師匠、老師」
「構わんよ。まずは連携の仕方から教えていかねばなるまいね」
オレはシャドウの起動スイッチを押した。軽いめまいがしたかと思うと、シャドウの目が動いた。
「サブマスター、ご無事でしたか」
「まあね」
シャドウは突然オレを乱暴に突き飛ばした。
「危ない!敵です!」
「敵じゃない!」
このポンコツめ!という言葉をどうにか呑み込んだ。シャドウはソードに飛び掛かる途中で急停止した。
「先程サブマスターに攻撃していました。敵です」
「違うんだよ、シャドウ」
どう説明すれば伝わるんだろう。オレが考えていると、シャドウが口元を押さえた。
「よく見たら、先程とは外部素材が異なっています。別個体でしょうか?」
「ああ、うん。そうだよ」
貴方が服を燃やしたんでしょうが!もういいや。疲れる。
「失礼しました。初めまして。吾はシャドウ、戦闘用自律魔動機です」
どうやらシャドウの暴走は収まったようだ。
「魔王様との対戦を見据えて、最初にやるべきことが決まったなァ」
「何?」
「嬢ちゃんにルールを叩きこむことよォ。徹底的になァ」
ごもっともだ。
「魔法使いを相手にする戦い方も学ぶべきではないかね?吾輩はご覧の通り、戦闘に魔法を一切使わないのでな」
「俺ァ魔法蟲すら失っちまったからなァ」
「フローラはどう?」
ソードとビーストは顔を見合わせた。
「魔王様の副官かァ。適任ではあらァな。ただ……」
「ただ?」
「魔王様にさえ意見するような女人だ。吾輩たちの頼みなど聞き入れるようには到底思えん」
ソードは頭を掻いている。
「普通に頼めば聞いてくれると思うけど?」
「ハァ?どうして副官が坊ちゃんの頼みを聞くってンだい?」
ビーストは牙をむいている。
「いや、オレが頼めばというより、フローラは相手が誰でも助けてくれると思うけど?困っているヒトがいたら、魔物と戦ってでも助けるような優しいヒトだもの」
「誰だ、それァ」
「あり得ぬな」
あれ?
「副官への依頼は坊ちゃん自身がやンなァ。幻想が打ち砕かれるだろォさァ」
翌日、フローラに訓練の協力を依頼したら、あっさりオーケーされた。フローラはそれから毎日練習に付き合ってくれた。ビーストとソードは別人じゃないかとしつこいくらい尋ねてきた。
あれれ?
【作者のメモ】
・ソードは魔法を使えない環境や魔法が効かない相手との戦闘において最強である
・フローラは特に男性には刺々しい




