第20話 訓練
なんということでしょう!流れることすらままならなかった魔力が、今は闇魔法を喰らっても滞りなく流れているではありませんか!それどころか、身体を覆うように魔力を流すという離れ業まで身につけました!
ちなみに、今は四方から飛んでくるボールに合わせて魔力の密度を変えて防御する訓練を一時間余り続けている最中だ。防御しようが痛いものは痛い。もう止めたいのだが、ビーストもソードもシャドウの訓練に出掛けてしまった。オレにはピッチングマシーンの止め方が分からないし、ビーストからは『俺が戻るまで続けてなァ』と言われている。
「おゥ、まだくたばっちゃいなかったかい?」
「ビースト!」
「師匠と呼べと言ったろォ?」
「師匠!」
ビーストが六本足で歩いてきた。そのまま腰掛けて尻尾を揺らす。止めてくれないの?
「あの嬢ちゃんは強ェなァ。対人戦闘に特化してやがらァ。属性魔法への対応にゃ慣れてねェよォだが、地力が高ェ」
集中が乱れたら魔力の操作ができない。オレは話半分に聞いていた。
「医王殿との間に子どもはいるのかね?」
いつの間に来たのか、ソードの声が背後からした。
「はい!?痛ッ!」
ボールが額に命中し、オレは引っくり返った。動揺して魔力で防御できなかった。ここぞとばかりにボールが迫ってくる。オレは反射的に目を閉じた。目を開けると、ソードが細長い脚でボールを掴んでいた。
「集中したまえ」
「集中も乱れるよ。何の話?」
ソードはシュルッと離れた。ボールはなおも飛んでくる。訓練は終わらないようだ。
「医王殿は生き物の研究に余念がなかった。貴殿の遺伝子を調べなかったとは考えにくい。貴殿のクローンか医王殿との子どもがいないのかと思ったのだよ」
あ、そうか。勝手に遺伝情報を組み合わせて生命を生み出せるんだった。とんでもないな。
「あのばァさんならやりかねねェなァ」
ドクターはおばあさんだったのか。性別も年齢も分からないからなあ。この話題については深掘りしたくない。
「少なくともオレは把握していないよ。それより、みんなの年齢と性別について聞いてもいいかな?」
「ドクターは五十過ぎだったかァ?かなり高齢だったよなァ」
「光魔法の使い手は若々しいから分かりにくいが、そのはずだ。吾輩は三十五になるが、吾輩が幼い頃から光魔法の権威として名高い女性だった」
五十過ぎで高齢とはね。そもそも一年がどのくらいの長さなのかという問題は、この際置いておこう。
「医王殿以外の王は皆、男だ。機王殿は二十三歳、魔王様は二十歳だったと記憶しているが、どうだったかな、獣王殿?」
「そのくらいだったンじゃァねェか?」
ということは、フローラは十九だ。フローラはシリウスの一つ下だということは、メカのもとへ向かう道中に聞いた。若いな。魔王という称号はかなり権威ある称号のようだが?
「師匠は何歳なの?」
「十三さァ」
「年下ぁ!?」
子どもじゃん!中学生だよ!
「坊ちゃんは一体いくつだってンだい?」
「十六だよ。生まれ変わってからは数十日だけど」
「ふむ、羨ましい若さだ。そう言えば、昔、若者の血を使って若返るという呪術が流行ったことがあったが、勉強しておくべきだったかな?」
冗談だよね?そうだと言ってくれ。
「それだけ若ければ、続けて戦闘訓練に移っても構うまい。最初は刃を出さないでおいてやろう。貴殿は吾輩を狙って撃って構わんぞ」
ソードが鞭を取り出した。ボールが止まった。オレは魔力銃を用意した。背中に鞭が飛んできた。
「急に何するのさ、ソード!」
「おや、獣王殿のことは師匠と呼んでいたではないか。吾輩のことは老師とでも呼んでくれたまえ」
ソードは鞭を鳴らしながら言った。シリウスの威圧感とは異なる、鳥肌が立つような恐怖を覚える。
「撃ってもいいの、老師?」
「殺すつもりできたまえ」
オレはソードの頭部に狙いを定めた。魔力を魔力銃に流し、発射するよう念じる。バンと音が鳴り、光線が走る。鞭が空を切る音が響いた。光線は途中で曲がり、ソードは無傷だ。
「何をしているんだね?連射しないか!」
「は、はい、老師!」
オレは魔力銃を撃ち続けた。全て防がれている。すごい。
「相手の構えが崩れた隙を狙うのだよ。さっさと動かんか!」
「はい、老師!」
オレは撃ちながらソードの周りを回った。
「撃ち方が単調すぎる!緩急をつけるのだ!」
「はい、老師!」
オレはソードの指示通り魔力銃を撃ち続けた。掠りもしない上に、鞭も飛んでくる。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たると言った人に言いたい。実力差がありすぎると数撃っても当たらない。悲しいことに。
「流れ弾に当たっちゃァつまらねェ。俺ァ嬢ちゃんの指導に当たるぜェ。あばよォ」
「待ちたまえ。それなら、あの絡繰りも連れてきて連携の仕方を学ばせようではないか」
ビーストが牙を見せてニカッと笑った。ビーストはどこかに行ってしまった。十五分ほど休憩すると、ビーストとシャドウが入ってきた。
「サブマスター!」
シャドウはオレに駆け寄ってきた。鞭の痕を確認している。
「サブマスターに危害を加えるなどと、赦せません!」
「ならば制裁を加えるかね?二対二でよかろう」
「俺も頭数に入ってンのかい!魔物を使役しねェと俺ァ弱ェぜ」
シャドウの手が銃のような形に変形し、ソードは二本目の鞭を取り出した。
「魔物に戦わせて獣王殿は手を出さなければ、二対二ではないかね?近くに数匹待機させとる気配を感じるが」
「チッ、目ざといヤツだぜェ」
ビーストが扉を開けて雄叫びを上げると、真っ黒な大きい鳥が舞い降りた。目はなく、口には無数の牙が生えている。
「クロウ、あの坊ちゃんと嬢ちゃんを攻撃しなァ」
クロウは分かったと言いたそうに力強く羽ばたいた。
「サブマスター、全員殲滅してみせますので、少々お待ちを」
「シャドウ、分かってる?これは試合だからね?」
シャドウはオレに向かって頷いた。
「はい!この程度の敵、試合と思って片付けてご覧にいれます」
絶対分かってないな、これ。
【作者のメモ】
・この世界は実力主義で、年齢による上下関係はないに等しい
・シャドウはサブマスターの傍を離れないと言いつつ、簡単に騙されて別の場所にいた




