第2話 ありきたりな転生
「ああ、こうなるなら最後に食べたかったなあ。ハー○ンダッツ」
こんな感想しか浮かばないくらいには、オレの十六年間の人生は薄っぺらかった。オレは見渡す限り真っ白で何もない空間で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「ふふ。第一声がそれとは。初めまして。ご自分のこと、思い出しましたか?」
優しい声のする方を見ると、亜麻色のうねる長髪に深緑色の優しそうな目、ギリシャ神話に登場する女神のような装いの美女が立っていた。
「まだ記憶が混乱していますか?」
「あ、いいえ。オレは馬上夜、十六歳。愛犬のルーチェと散歩していたら、急にルーチェが走り出して、オレはリードを放してしまいました。車道に飛び出したルーチェを追って、オレも車道に……」
目が眩むほどの光が迫ってきて、体中に強い衝撃が走って、それで……。気が付いたらここにいた。オレは死んだのか。
「ルーチェは!ルーチェはどうなりましたか!あの場にはゴールデンレトリバーの女の子がいたはずなんです!」
オレは女神(仮)に詰め寄った。
「彼女も死にました」
女神(仮)の返事は冷たかった。オレは肩を落とす。オレがリードを放したりしなければ……。
「申し遅れました。わたくしはガイア。この世界の神です。貴方には地球から出て行っていただきますわ」
「え?」
オレは思わず後ずさった。オレ、何かした?
「そう怯えずとも大丈夫です。別に罪人として裁くつもりはございません。向こうでご自由にお過ごしください」
全然状況が分からない。『向こう』って何?
「あの、向こうって……」
「ごめんなさい。時間がありませんの。『異種族友好』と『献身』のスキルは使えますから、後はご自分でどうにかしてくださいまし」
謎を増やすな!何だよ、スキルって!抗議しようとしたオレは気付いた。オレの手が透けている。時間がないってことだけは分かった。無駄な質問はできない。
「ルーチェに会わせてくださいませんか!彼女も死んだのでしょう?」
「向こうでお探しくださいな」
よかった。また会えるんだな。絶対に探し出す。
「もうよろしくて?向こうに送るのもかなり大変ですのよ。各神への根回し、転生させるための器の構築、異質な存在が混入することによる被害の予測、調整……。もう二度としたくないと思っていましたのに、それを二度も!質問より供え物が欲しいくらいですわ」
ガイア様は溜息を吐いた。どれほど大変なのかオレには想像もつかないが、随分と疲れて見える。
言われてみれば、ガイア様は死んでしまったオレたちに、別世界でもう一度生きるチャンスをくれるのか。慌ててお礼も言えていなかった。
「すみません。オレとルーチェのためにありがとうございます」
「あら、恩着せがましかったですわね。気にしないでくださいまし。貴方がたをただ死なせるには忍びないと思って、わたくしが勝手にしたことですもの。お気になさらないで」
ガイア様の笑顔が眩しい。女神様……!いや、本物の女神様なんだけど。
オレは何か差し出せるものがないかと探った。学ランのポケットには生徒手帳とボールペンがあるばかりだ。これじゃゴミの始末になってしまう。神罰がくだっちゃうよ。
そう言えば、手に持っているビニール袋にはハー○ンダッツが一個入っている。とけてはいないようだ。うーん、神様への供え物としてどうなんだろう。まあ、要らないと言われたらやめればいっか!オレはハー○ンダッツをガイア様に差し出した。
「もしよろしければ、お召し上がりになりますか?」
ガイア様はオレの手元を見て、声を上げて笑った。鈴を鳴らしたような綺麗な笑い声だ。
「アハハ!まさか、わたくしにくださるの?ありがとう。受け取っておきますわ」
ガイア様に伸ばしたオレの手が消えかかっている。オレはゾッとした。ガイア様はオレの手からビニール袋を取った。
「貴方の供物、確かに受け取りましたわ。では、お気をつけて。二度とこちらにいらしませぬよう……」
ガイア様の声が遠のいていく。分からないことだらけだが、『向こう』に行く時間らしい。何かに引っ張られるような感覚がして、オレの意識は暗転した。
【作者のメモ】
・事故現場からは、夜が直前に買ったはずのハー○ンダッツだけが忽然と姿を消していた




