第18話 ルーチェの処遇
「サブマスターは犬だったのですか?」
「ちょっと黙ってて、シャドウ」
どこをどうしたらそうなるんだ?
「ルーチェとは姿が違うようだが?擬態能力があるのか?」
「そうじゃないけど、人間に生まれ変わったのかもしれない」
あり得なくはない、という程度だけど。
「この女人は今、どこに?」
「亜龍の住処に行ってしまった。魔法蟲の産卵場所が無事で助かったが、亜龍の縄張りでは追跡のしようがない。亜龍との争いに発展したら目も当てられん。今は産卵期で特に気が荒いからな」
ソードの問い掛けに、シリウスが答えた。
「じゃァ野放しかい、魔王様ァ?」
「私が出向こうと思う。ビースト、ソード、護衛を頼む」
シリウスは溜息交じりに言った。
「拝命したぜェ」
「承知した」
二人はシリウスに頭を下げた。
「出向いて、その女性をどうするんだ?」
オレは口を挟んだ。
「ドクターもメカも殺せるほどの手練れだ。不意をついて殺害する方向で考えている」
「待って!もしかしたら、異世界に来たばかりで混乱しているのかも。まずは対話を……」
オレの前に鋭い鞭が飛んできた。ソードだ。こわ。
「二人も殺めた人物と対話する必要はなかろう。強さが未知数な上、常識が通じないものが相手なのだから当然だ。吾輩に言わせると、貴殿も同列だが、魔王様の賓客を斬るわけにもいかぬ」
ソードとビーストからは殺気を感じる。女性と話すためには彼らの協力が必要だ。説得するより手っ取り早い方法がある。オレは深呼吸した。
「異種族友好!」
『異種族友好が発動した』
殺気は感じなくなった。心臓に悪い。
「何をした、坊ちゃん?」
「ビースト、ソード、私の客人を困らせないでもらえるか?」
シリウスの威圧感が肌を刺す。二人もたじろいだようだ。
「しかし、今のは明らかに魔法の……」
「ごめん。オレは対等に話したいだけだ。もう何もしないから信じてほしい」
ビーストとソードは不服そうにしながらも追及を諦めた。魔法はしっかり効いている。
「オレとあの女性は同じ人間だと思う。あの女性の強さも分からないことだし、オレを連れて行った方がいいんじゃないか?交渉の切り札は多い方がいいだろう」
「相手がどういう反応をするか分からない以上、切り札は安全な場所にとっておくものだ。ここで待つんだ」
オレに対して友好的になるとはいえ、オレの頼みを何でもきくわけではない、か。
「今は亜龍が産卵期で危険だとか。もう少し待ってくれないか?」
「待って何になるんだァ?何もできるこたァあるめェ」
ビーストが唸った。スライムの目玉と目が合ってしまった。不気味だ。
「古代遺跡の調査はできないか?オレもあの女性も古代遺跡に現れたようだし、シャドウも古代遺跡で見つかったそうだ。人間と関わりがあるのかもしれない」
オレとシャドウ以外の者たちがやれやれと溜息を吐いた。
「あんな所に長時間滞在できるヒトはいない。全身防魔服を着こんでも三十分が活動限界だ。満足な調査はできん。魔法機も高濃度の魔素で動作不良を起こす、魔の領域だ」
「でも、オレなら活動できる。行ってみる価値はあるんじゃないか?」
オレはニヤリと笑った。古代遺跡の調査が進んでいないなら、むしろ好都合だ。
「どの道、そんな弱くちゃ話になンねェ。古代遺跡に着く前に魔物の餌さァ」
「あの女人と同じくらい強いのであれば話は別ではないか。いかがかな?」
オレは首を横に振った。『異種族友好』は相手に触れるか、相手にスキル発動の宣言を認識してもらわないと発動しない。『献身』は誰かを助けようとしている時にしか使えない。後は魔力銃くらいしか使えない。
「メカにもらった魔力銃くらいしか武器がないや」
オレはポケットから魔力銃を取り出した。
「機王殿の発明品か。威力は高いが、単発銃ではなかったかね?」
「連射できるよ」
「夜は魔力量が桁違いだ。魔力銃があれば、ある程度自衛はできるかもな。しかし、古代遺跡の中は罠もあるかもしれん。不十分だ」
シリウスは考え込んでいる。
「坊ちゃんの言う通り、亜龍の産卵期に行動すンのは得策じゃねェ。その女のこたァ見張っておくとして、しばらく訓練でもしながら待っちゃァどうだ?」
「一理ある。医王殿と機王殿の後任も決める必要があるのではないかね?」
ビーストとソードの言葉を受け、シリウスは重々しく頷いた。
「よかろう。夜の戦闘能力も見て、調査を任せるかどうか判断しよう。フローラは留守を預かるように。その魔法機は……」
指さされたシャドウは振り向いた。貴方だよ!
「シャドウはオレを護ると言っていたけど、古代遺跡では魔法機が壊れるらしいんだ。どうする?元々、古代遺跡にいたみたいだし、中に入れるかもしれないけど、待ってる?」
シャドウは首を横に振った。
「シャドウはサブマスターのお傍におります。たとえこの身が朽ちようとも」
重いなあ。
「えーっと、壊れる心配はない?」
「シャドウは戦闘用自律魔動機です。魔力の消費量は多いですが、頑丈に作られております」
頭脳の方はもう少しどうにかならなかったのかな。
「なら、一緒に行こうか。二人なら魔物に勝てるんじゃないか?」
「訓練次第だな」
シリウスは少し前のめりになった。
「魔力の使い方は俺が叩き込んでやるぜェ」
「吾輩は武器の使い方を伝授してやろう」
ビーストは前脚を打ち鳴らし、ソードは鞭をしならせた。剣王、だよね?鞭、じゃないのか、アレ。
「贅沢だな。世界最高峰の二人に指南してもらえるとは。では、私が七日目にテストしてやろう。全力でな。二人がかりで私に勝ったら、古代遺跡行きを認めよう」
やった!言質を取ったぞ!
「本当?ありがとう!」
オレとシリウス、シャドウ以外の全員が立ち上がった。え、何この空気?
「つまり、行かせないってことじゃないの、お兄!」
「酷ェ、そりゃあんまりだぜ、魔王様ァ」
「諦めろとはっきり言わねば通じぬようだが?」
シリウスはピロピロ笑っている。そんな強いのか、このヒトは!
【作者のメモ】
・フローラが話さないのは、彼女の地位が王たちに比べて低いから
・メカは魔力量が多くないと扱えない発明品を他の王たちに売り込んでいた




