第17話 獣王と剣王
フローラはシリウスの家ではなく、大きな館に車を走らせた。真っ白な石造りの建物は、西洋の宮殿を思わせるような佇まいだ。
「ここは?」
「官邸よ。お兄が待ってるから、行きましょ」
中も明るくて綺麗だった。謎の彫像もたくさんある。しばらく歩き、大きな扉を開ける。
正面にはシリウスがいた。豪華な服を着ている。正装だろうか。
その右には簡素な服を着た六本足の獣人のようなものがいる。顔の左半分がスライムのように溶けている。というより、頭にスライムを付けているように見える。体毛は銀色で、尻尾は狐のようだ。
左にはてるてる坊主のようなものがいる。頭の横からは赤い角が二本曲がって伸びている。頭の正面には黒い穴のようなものが開いていて、黒い粘液が垂れている。細い四本の脚は二メートルくらいあるだろうか。身体は全体的に薄い灰色だ。ホラーすぎる。夢に出そうだ。
「フローラ、ただいま帰還しました」
「ご苦労。座るがいい」
何か不穏な雰囲気だ。
「先に自己紹介といくか。私は小太陽に次ぎ、全天で三番目に明るい恒星、『シリウス』だ」
シリウスに続いて、獣人が口を開いた。
「俺ァ獣王、ビーストだ。事故で角を失い、擬液軟体を移植されて以来、魔物と会話できるようになったンで、魔物使いをやってるぜェ」
てるてる坊主からザーッと変な音が鳴った。
「吾輩は剣王、ソードと言うものだ。非才だが、剣にて身を立てておる」
次にフローラが竪琴を鳴らした。
「フローラです。魔王様の妹にして副官を務めております」
オレの番だろうな。
「夜という。別の世界からこの世界に飛ばされた身の上で、シリウスに保護してもらっている」
沈黙が訪れた。オレはシャドウに囁いた。
「自己紹介して」
「シャドウです。戦闘用自律魔動機で、マスターを探しております」
シリウスが何か機械を操作した。
「諸君を集めたのは、医王に続いて機王も殺されたためだ」
「え!?」
メカが?そんな。つい数時間前まで生きていたのに。
「メカは古代遺跡に行っていた。死ぬ前にメカが送った記録映像がある。翻訳措置を施しておいた」
ホログラムが現れた。見覚えのある巨大な建造物の表面は、濃紫の鱗で覆われている。尖塔と黒い像、巨大でカラフルな蝶……。この世界で初めて見た建物だ。
ここが古代遺跡か!
古代遺跡の門が開き、中から甲冑が現れた。
「ここに何の用かしら?」
くぐもった声が聞こえてきた。聞き覚えのある声が。
「あ!」
オレは思わず声を出した。ドクターを殺した女性だ。
「遺跡の調査に来たんだけど、きみは何者かな~」
「誰でもいいでしょ。すぐに帰って。ここは燃やしちゃうから」
「何を言っているのさ~。ここが魔法蟲の産卵場所と知って言っているわけじゃあないよね~」
まさか、あのカラフルな巨大蝶、魔法蟲の成虫か。待てよ。確か結婚飛行が行われるのは龍脈の近くと言っていた気がするな。魔素が濃く、ヒトが行くと数分で死ぬとか。オレが最初にいた場所が、龍脈の近くだったのか?
視界に銃が映った。メカが女性に銃を向けているようだ。
「邪魔をするなら、容赦しないから」
「落ち着いてよ。ここを燃やされたら人類の喪失だ。何のために燃やしたいの~?」
女性は剣を抜き放った。快活な笑い声が響く。
「人類?人類だって?何の冗談?見てよ、この姿。今のわたしのようなものを真の人間と呼ぶの。覚えておくといいよ」
女性は甲冑の頭を外した。金色の長髪に大きな黒い目。やはりあの女性だ。
「その姿は……!」
メカが呟いた。女性はすぐ甲冑を被り直した。剣が炎を纏っている。
「わたしにきみたちの常識は通用しないから。去らないと後悔させちゃうよ」
「待て!」
女性が剣を振り抜こうとした時、メカが発砲した。女性はそれを躱して、メカに刃を振るった。炎がメカを包んだが、装甲を傷付けるには至らなかったようだ。メカは発砲を続けるが、女性は軽やかにそれを躱しながら宙に大きく飛び上がった。映像にノイズが走る。
メカの装甲が変形して砲が現れた。女性は剣を使って攻撃をしのぎながら距離を詰めている。攻撃されるたびに映像のノイズが酷くなってきた。
「信じられねェ。メカがこうも一方的に押されるとは」
ビーストが呟いた。
女性が剣を一振りすると、メカの脚の一本が宙を舞い、メカの視界が傾いた。女性は振り被った体勢のまま迫ってきた。剣が白く光を発している。剣が振り抜かれたと思ったら、映像が途絶えた。
シリウスの笛が響いた。
「メカは古代遺跡で真っ二つにされているのが発見された。このヒトについて調べると、数十日前から古代遺跡周辺で目撃されているようだ。しかし、それ以前の目撃情報が全くない。まるで、数十日前に突然古代遺跡に降ってきたかのように。見ての通り、その見た目も強さもこの世界で類を見ないほど異質だ。こんなことは初めてだ。まるで別世界から来たかのようだな」
視線がオレに集まるのを感じる。どうして気付かなかったんだ。オレが現れたのと同時期に、オレと同じ場所に現れた人間がオレに無関係なはずがない。金色の髪の毛、大きな黒い目の女の子。この世界からしたら異質な存在。
「まさか、そんな……」
オレは顔を伏せた。
「夜と言ったな、貴殿はこの女人を知っておるのかね?」
ソードが問い掛けてきた。オレは疑われているわけだ。確証はないし、知らないと言った方がいいのだろう。しかし、もし彼女の正体がオレの想像通りなら、知らないなんて口が裂けても言えない。
「見覚えはないが、よく知っている人物かもしれない」
「どういうことだァ?」
ビーストの疑問はもっともだ。禅問答のようになってしまった。
「もとの世界でオレと共に死に、神様によってこの世界に転生したはずの者がいる。オレの家族にして友人、愛犬のルーチェだ」
【作者のメモ】
・ビーストに擬液軟体を移植して命を救ったのはドクター
・メカは自分の生命活動が停止した時、シリウスに自分の直近の映像が自動送信されるようにしていた




