第16話 シャドウの目覚め
「どうやって起動したの、新種くん?」
「サブマスター、敵を排除しましょうか」
「かわいい!ね、触ってもいい?」
ツッコみきれないって!シャドウがメカに手の平を向けたのを見て、オレは慌てて止めた。
「ここに敵はいないから!落ち着いて、シャドウ」
「畏まりました、サブマスター」
久々に人型の存在と会話をした!感激だ!できればもっと平和な内容が良かったけど!
「で?どうやって起動したの?」
「スイッチを押しただけなんだけど。そうだよね、シャドウ」
シャドウは無表情にオレを見つめている。
「シャドウはマスター以外の方からの操作を一切受け付けていないのですが、緊急時には基準量以上の魔力を注入することで起動することが可能になります。今回は緊急稼働を確認しましたので、起動者をサブマスターとみなしてお仕えします」
メカはオレの様子を調べた。
「新種くんが急性魔力欠乏症の症状を引き起こしている。緊急稼働に必要な魔力量ってどのくらいなの?」
「機密事項に当たりますので、お答えいたしかねます」
メカはオレに小瓶を差し出した。透明な液体が入っている。オレは言われるがままに液体を口にした。苦い。脱力感が少し収まった。
「少なくとも1200蟲力よりは多いと。高魔力使用魔法具でもこのレベルは聞いたことないよお。複数人で起動するしかないねえ。古い魔法機だからかなあ」
「ね、触ってみてもいいでしょ?」
メカもフローラもシャドウに釘付けだ。
「シャドウ、触っても大丈夫かな?」
「構いません」
三人でべたべたシャドウを触る。質感はプラスチックでひんやりとしている。
「調べたいなあ」
「マスターの許可がないため、認められません」
「瞬きの様子、発声時の口の動き、手足の運び、新種くんとあまりに似すぎているねえ。でも、戦闘用自律魔動機くんが発見されたのは、五十年も前のことなんだ。何をモデルに誰が作ったのか、キョーミあるねえ」
「機密事項に当たりますので、お答えいたしかねます」
シャドウは人間をモデルに作られたと考えられる。ドクターを殺したのも人間の女性だったが、五十年前となると、シャドウとは無関係だろうな。この世界には、オレ以外の人間がいるようだ。どうも人間は珍しいようだが、転生者が他にもいるということだろうか?
フローラはふにふにとシャドウの頬をつついている。
「かわいー、連れて帰りたい」
「ダメだよ~。ぼくのだもん」
「今は夜のものではありませんか、機王様」
メカにはただでさえ危険視されているんだ。戦闘用のアンドロイドなんて手に入れたらますます危険人物扱いされる。
「メカがシャドウを見つけて保護していたから、メカの意向に従うべきだよ、フローラ」
「ほ~ら、新種くんもこう言ってるよ?」
「シャドウはサブマスターから離れません」
シャドウが淡々と言った。おーい、空気を読んでくれ。これ以上話をややこしくするな。
「ほら、シャドウもこう言ってますよ?」
フローラも乗っからないでくれ。
「えっと、シャドウ。メカの言うことを聞いてくれないかな?」
「緊急稼働時にはマスターと合流するまで、サブマスターの傍で警護する使命があります」
今まさに、サブマスターの身に危険が迫っているんだけど。貴方の態度のせいで。
「戦闘用自律魔動機くん、例えばぼくがサブマスターを襲おうとか、引き剥がそうとかしたらどうする?」
「全力で排除します」
「じゃあ、例えばサブマスターがぼくを殺すように命じたら?」
「シャドウの使命はマスターと合流するまで、サブマスターを守ることのみ。命令に従う義務はありません」
マスターって誰?合流できなかったら、ずっと戦闘用アンドロイドを連れ歩くことになるわけ?
メカはフローラに話し掛けた。
「魔力の使用量からして、この魔法機くんの戦闘能力はかなり高い可能性がある。ぼくじゃ手に負えないかもねえ。まずは魔王様に報告しようかあ」
「分かりました!」
フローラは地下室から出て行った。
「もしマスターが死んでいたらど~するの?」
「機密保持のために自壊します」
シャドウは即答した。
「そんな!そこまでしなくても──」
「シャドウはマスターを敬愛しております。マスターのために壊れることは誉れなのです」
シャドウはオレの言葉を遮るように言った。オレは反論しかけてやめた。気持ちは分かる。
「それほどマスターのことを想っているなら、会わせてあげたいね。マスターについて教えてくれない?」
「しかし、マスターの許可がありません」
「でも、シャドウはオレを守りつつマスターを探すんだろう?オレがマスターについて知らないとどうしようもないじゃないか」
シャドウは口元を押さえた。
「本当です。サブマスターは天才なのですか?」
誰でも分かるだろ!
「夜って呼んでくれないかな?」
「承知しました。サブマスター、マスターの情報をお伝えいたします」
サブマスター呼びは確定なのか。シャドウはオレの耳元に口を寄せた。メカがいるからか。
「実はシャドウは──」
「うるさい!耳打ちするなら声を小さく!」
あり得ない。シャドウはオレの耳元に口を寄せ、普通の声量で話し始めた。シャドウはオレから離れて、口元を押さえた。
「申し訳ありません、サブマスター。実はシャドウは記憶回路に問題をきたしてしまっているようです。シャドウという名であること以外、何も思い出せません。恐らくは緊急稼働した影響でしょう」
耳打ちする内容でもなかったな。情報ゼロだ。
「マスター探しは難航しそうだね」
「申し訳ありません」
「シャドウのせいじゃないさ」
フローラが入ってきた。
「お兄……魔王様が、シャドウを買い取るそうです」
メカは不服そうに脚で床を鳴らしている。
「魔王様がそう仰せなら従うしかないねえ。こちらでも戦闘用自律魔動機くんに関する情報を集めておくよお」
メカが言うと、フローラは飛び上がった。
「やったー!ウチはフローラ、お姉さまと呼んでいいわよ」
「はい、フローラ様」
「アンタ、ウチを舐めてるの?魔王様の妹にして、魔王副官よ?」
「シャドウに命令することができるのは、マスターだけです」
「何ですって?」
やれやれ、面倒事が増えたな。
【作者のメモ】
・五十年前にシャドウを発見した人物はメカではない。メカは数年前にシャドウを購入している
・この世界において、人型の自律機械は使用魔力が多すぎて実用化されていない




