第15話 命乞い
「異種族友好!」
『異種族友好の発動に失敗した』
失敗だと?
「ムダだよ。その部屋では一切の魔法が無効化される」
マズい。対抗手段がない。説得するしかないか。
「オレを殺すことはシリウスからの命令に反するんじゃないか?」
「魔王様、副官、医王、全員が新種くんの味方みたいだね。でも、ぼくの知っている彼らは、未知の生物を見た時に無条件で世話を焼くようなヒトじゃなかった。では、どうしてみんな甲斐甲斐しく新種くんの面倒をみるのかな?」
メカはオレに脚を突き付けた。
「魔物をも凌ぐ魔力を有する未知の生物に会ったヒトが、性格にそぐわないほどその生物に友好的になる現象を説明する術を、ぼくは一つしかもたないんだ。新種くん、精神系の魔法を掛けたんじゃあないかな?」
その通りだ。ああ、これはマズい。
「違うというのなら、ぼくを納得させてよ。翻訳珠を見えやすいように掲げてさあ!」
嘘を吐くと翻訳珠は赤く光る。どうしようもない。
「貴方の言う通りだ。オレは彼らに『異種族友好』というスキルを掛けている」
「潔いね~。遺言は?」
「でも、オレの面倒をみてもらう以上のことはお願いしていない!」
オレはすかさず訴えた。
「それ以上のことをされる前に止めるのがぼくの使命だよね~。考えてもみてよ。新種くんに比べれば、ぼくらは醜い上に魔力量も遥かに少なく、簡単に操れる。魔法服を用意させて身の安全を確保したら、新種くんがぼくたちを用済みだと考えることは充分にあり得ると思わない?」
そんなこと、思ってもいない。でも、証明できない。メカは壁につけられたスイッチを押そうとしている。
「そんな恐ろしいこと、オレは絶対にしない!」
「素材は有効活用したげるよ~。じゃ~ね」
「待っ──」
ピロンと通知音が鳴ったかと思うと、スイッチに掛けられた脚が止まった。機械を操作すると、ホログラムが出現した。蜘蛛の子だ。
「どこでこのホットラインを知ったのかな?」
蜘蛛はピカピカとしばらく目を光らせていた。
「履歴くらい消せただろうに、副官殿め。不用心極まりないね~。それであの危険区域を歩いていたわけか。そんなお人好しだとは知らなかったな」
蜘蛛の目が光る。
「ふ~ん、もしかして、そのヒトってこんな見た目だった?」
ホログラムの機械が壁の前まで迫ってきた。蜘蛛は脚を縦に揺らした。
「治療を受けたんだよね~。魔法を掛けられた痕跡は?」
蜘蛛は脚を横に揺らした。
「なるほどね。副官殿も新種くんも無事だったから安心していいよ。ぼくは忙しいから切るね~」
ホログラムが消えた。再びメカの脚がスイッチに伸びる。
「一つだけ、新種くんのお願いを聞いてあげる。今すぐ言って」
時間稼ぎをすればフローラが助けに来てくれるだろうか。
「ルーチェを探して保護してほしい」
「ルーチェ?ヒトの名かな~?」
「オレの家族だ。四足歩行をする、このくらいの大きさの生き物なんだけど──」
「ああ、もういいよ。十分だから」
全然時間稼ぎにならなかった。もう終わりだ。嫌だ。死にたくない。
メカは先ほど押そうとしていたスイッチとは別のスイッチを押した。部屋の中に機械の腕が伸びてきて、真っ白なローブを差し出してきた。縁の部分には金色の刺繍がしてある。文字のように見える。ブローチが着いている。角度によって色を変える宝石が銀色の幾何学模様のあしらわれた台座についている。
「新種くんの魔法服だよ。着てみて」
「え?な、何で?」
「いいから、着て」
オレは恐る恐るローブを手に取った。滑らかな手触りで、羽のように軽い。きっとこれには仕掛けがしてある。オレを殺すための仕掛けが。それでもこれを着ないといけないのが悲しいところだ。オレはローブを羽織った。特に変化はない。
メカとオレを仕切っていた透明なドアが開いた。途端に暑さや湿気、息苦しさなど全ての不快感が消え去った。
魔法だ!すごい!
「あれ、何ともないの?」
「いや、すごく快適になったよ」
「1200蟲力の魔法具を起動して、急性魔力欠乏症にならない、と。信じられないね~」
メカはオレに機械を取り付けて何やら調べている。ていうか、今オレは多分スキルを使えるよな?
「うん。正常に機能しているね。じゃあ、副官殿の所に戻ろう。くれぐれも妙な行動はしないように」
「そ、それだけ?」
「さっきの女の子に感謝しなよ~。新種くんがヒト助けをしたと分かったから、しばらく生かしといてあげる。ほら、来な」
オレはメカの後ろをついて行って地下室に入った。フローラはまだ魔法機器と戯れていた。
「ただいま、フローラ」
「それが例の魔法服?へえ、悪くないわね」
フローラはローブをじっくり眺めている。メカがフローラに話し掛けてきた。
「副官殿が乗ってきた車に関して報告があるんだ。今、データを転送するね」
「問題は車をどうするかですよね」
「あれは機密情報を含んでいるでしょ?履歴からホットラインに電話がかかってきたよ」
「あ、すぐ回収しないと」
話しが長くなりそうだ。オレは二人から離れて、アンドロイドに近付いた。起動しないと言ったが、今にも動き出しそうだ。
「それにしても精巧だなあ」
オレは何気なく胸のスイッチを押した。凄まじい脱力感に襲われてふらついたところを、アンドロイドが支えてくれた。
「○◆×、□$▽●、&+?」
「え、な、何?」
アンドロイドは藍色の目を瞬いた。
「吾はシャドウ、戦闘用自律魔動機です。初めまして、サブマスター」
オレは冷や汗を掻いた。何かとんでもないもの起こしちゃったよ!
【作者のメモ】
・例の部屋では翻訳珠の魔法も効かなくなっているため、実は翻訳はもちろん、嘘発見器の機能も果たさなくなっている
・メカは夜のスキル対策を万全に行っている。魔力銃も対策されている




