第13話 メカとの出会い
フローラの角が激しく光ったかと思うと、オレたちをすっぽりと土の壁が覆った。
「この壁、壊されない?大丈夫?」
「だって、多過ぎてキモいの!見たくもない。来ないで」
土壁がしゃくしゃくと食べられる音がする。ヤバそう。フローラは泣いている。
「あいつら、弱点ある?」
「光。日光を浴びたら全く動けなくなるわ」
焚火をしていたから寄ってこなかったのか。
「外に出たら夜明けまで逃げ切れると思う?」
「ムリ。囲まれてるから」
「松明は?」
フローラは地面を操作して、かまどのところまで土壁を広げた。煙い。フローラは黄色い尺取虫をグイっと掴んだ。あれはいけるんかい!
「生木だから長く燃えるわ」
「木なんだ、それ」
「木以外の何に見えるってのよ」
虫以外の何にも見えなかったんだけど。フローラはその先に火をつけた。その途端、土壁が一気に崩れてきて、虫が押し寄せてきた。
「いやあああああああ!!!!!!」
虫に松明をかざすと、何匹かは怯んだがあまりに数が多すぎる。オレはあっという間に虫に包まれた。体中に鋭い痛みが走る。オレは顔の辺りの虫を松明で焼きつつ走り出した。
「異種族友好!」
『異種族友好が発動した』
身体を覆っていた虫が離れたが、すぐに別の虫たちが覆ってきた。意味がない。
不意に頭から周囲の地面まで大量の水に包まれた。思いがけない出来事に、少々水を飲んでしまう。虫たちが離れると、土が盛り上がり、オレを乗せて動き出した。
「フローラ!」
フローラは全身防魔服に身を包んだまま、土に乗ってオレに合流した。虫は明らかにオレだけを狙っている。フローラはあまり襲われていないようだ。
フローラは行く先々の虫に水や土で攻撃しているが、きりがない。疲労の色が見える。
「オレの血を飲んだら魔力が回復するはずだ」
「ダメよ。血の臭いでさらに凶暴化するわ!」
ああ、夜明けはまだか!足元の土をどんどん虫が上ってきている。もう、ダメだ。
「行っくぞ~!『魔素変換式持続型照明弾3号、ピカ~るくん三世』!」
メガホンのような音が聞こえてきた。次の瞬間、眩い光が辺りを強烈に照らし、オレは目を刺されたかのような痛みを覚えた。
「うぅ……」
「夜!」
何かが近付いてくる気配を感じる。ガシャンガシャンと機械音が。
「あ~ら、目をやられちゃったあ?機械化させたげよっか?」
「機王様、夜に手出しするなとの魔王令が出ていたはずですが?」
「や~だなあ、副官殿。助けてあげたら怪我をさせちゃったから、治してあげよっかなって、親切心じゃんかあ」
機王メカか。オレは目をつむったまま声のする方に頭を下げた。
「助けてくださり、ありがとうございます。夜と申します」
「あ~ら、ごていねいに。メカだよ~ん。ここじゃやだから、ぼくの家に行こっかあ」
口調、どうにかならないのか?オレは手探りで立ち上がる。
「手を貸していただければ」
「ああ、い~よ。動かんでね~」
何かがオレの腕を掴んで持ち上げた。肩が外れそうだ。
「機王様!」
「取れたら無料で機械化したげるからさ~。こんなとこ、危ないからさっさと離れよ!ね?」
「魔王様は彼を賓客扱いするよう求めたはず!」
「彼が危険区域を丸腰で歩いた挙句、魔狩りに襲われた責任は誰にあるのかな~?」
それはオレの責任です。はい。
「あの、お二人のおかげで助かりました。ありがとうございます」
ここは車の中だろうか。移動している感覚がある。
「ほ~ら、聞いたあ?」
「夜、機王様を調子に乗らせないで!魔改造されるわ」
メカとフローラの言い合いはしばらく続き、やがて車が止まった。まだ視界がぼんやりする。ガラクタの寄せ集めみたいな家だな。ドクターやシリウスの清潔感のある、というか殺風景な家とは大違いだ。
「ぼくのお家へようこそ~」
「おじゃまします」
『じゃまするんやったら帰って~』という幻聴が脳内に響く。オレの声で。ホームシックになりそうだ。
「まずはお茶でも、と言いたいけど、ヘルスチェック!副官殿は、ま、いいでしょ。新種くん、身体を調べさせてよ」
オレは頷いた。椅子に座らされ、機械を取り付けられる。
ようやく視界がまともになってきた。メカは子犬くらいの大きさの暗緑色の球体に蜘蛛のような六本の脚が付いた機械だった。角の生えた炎の姿だと知らされていたんだけどな。機械化しているとは聞いたけど、面影がない。
「あちゃ~、けっこう咬まれたね~。薬塗っとくよ。わ~あ、すごい魔力量!測定不能だってさ!龍脈近くに棲む魔物の魔力でさえ測定できるのに!ね、見て見て!」
「はあ」
見ても分かるものか。元の世界の医療知識すらないのに。
「ん~、魔法機器で補助するより、全身機械化がおすすめだけどね~。メンテも楽だし、何より安いよ~」
「機王様!機械化手術はリスクが高いですし、心身ともに後遺症が残る可能性があるのでやめていただきたいと言ったでしょう。費用はメンテナンスも含めて全額魔王様がもちます!いくらかかっても構いません」
お金を出してもらう身で言うのもアレだけど、全身機械化は怖い。
「筋力量が足りないから、魔法機械を装備するよりは魔法を付与した布で装備を整えた方がいいか。魔法布は魔法機より耐久性と持続性が劣るけど。ま~、魔力量が底なしで助かったよ。魔物用の強力な魔法具を惜しみなく使えるからね~」
オレの座っている椅子が動き、奥の部屋へと移動させられた。フローラとメカの座っている椅子も一緒に動いている。奥の部屋には、機械や布、動植物などが大量に仕舞われている。色々な香りが入り乱れて気分が悪くなる。
「よ~こそ、オレの作業部屋へ。現在、この世界に存在する全ての魔物や動植物の素材が勢揃いだよ~!ああ、正確にはただ一種を除いて、だけどね」
メカはオレを指して言った。う~ん、誰のことかな~?オレは愛想笑いを浮かべながら後ろに下がった。
【作者のメモ】
・シリウスから夜とフローラが車で出発したのを聞いていたが、到着が遅かったため、メカは二人を迎えに行っていた
・メカは脳以外の全身を機械化している




