四
今日のここまでこそが、まさにジェットコースターだった。
初めて会話をして振り回され、嫌だったアトラクションも乗ることができた。思いのほか恐怖はなかったものの、建物の中まで走るとは予想できず、逆に声が出なかった。
「すごい。予想以上」
横のハイテンションについていけない自分がいる。エスカレーターで下の階に降りると、アイスクリームの専門店の列に並んだ。
「今日は暑いねえ」
「うん」
先程の会話が気になり、うまく返事できない。
「勝又君、楽しいかな。なんかリアクションが薄いから心配だよ」
「ごめん、楽しいよ」
「ならいいけど。なんか、私だけで楽しむのはおかしいよ。特に今日はファ・・・」
「大丈夫。お互いに楽しもう」
あの単語を聞きたくなかったので、言葉を途中で遮った。お互いに性格も気持ちもわからない初対面なだけに、相手の動きが気になってしまう。
しばらく黙ったまま、列に合わせてゆっくり進む。
「堀之内さんと話したかったから、それだけで自分は嬉しい。こうやって横で楽しんでくれるのであれば、満足している」
彼女のため息が聞こえる。満足いく話が出来ないのはもどかしいが、背伸びも出来ない。そもそも、彼女を満足させるような男は、こういう場面でなんて言うのだろうか。
「・・・わかった」
納得していない表情で、彼女は頷いた。そこでアイスクリームの順番が来る。
「どうしよう・・・」
「どうしたの」
難しい表情でメニュー表を彼女は眺めている。
「チョコレートとストロベリー、どちらがいいか決められない」
数秒前の話題がなかったかのように、彼女はじっとメニューを見ている。
「そうしたら、チョコレートとストロベリーを一つずつ」
店員に注文をした。彼女が振り返る。
「いいの」
「うん、どれもおいしそう」
財布を出して二つ分のお金を払う。出来たアイスを二つもらうと、少し離れたベンチに腰を掛けた。
「片方も、好きなだけ食べていいよ」
私のペースというならこれくらい当たり前のはずなのに、申し訳なさそうにしている彼女に語り掛けた。
「じゃあ、少しだけもらうね。一口でいいから」
そう言って、チョコレートにスプーンを刺した。
「勝又君も、ストロベリーを一口食べてね」
「いや、別にそこまで・・・」
「いいから。嫌いじゃないでしょう。私だけ食べると、食い意地張っているように見えるじゃない」
変なところを気にするのだなと思いつつ、従ってストロベリーアイスにスプーンを刺した。彼女は目を細めた。
「冷たくておいしい。ありがとう」
「こちらこそ、ありがとう」
感情を見せないと言われたので、なるべく出すように努めた。正しい台詞を使う語彙力がないのは問題だとつくづく身に染みる。
「そんな、お礼言われることはしていないよ。好き勝手に動いて、勝又君は合わせてくれて。ファンサービスになっていないよね」
「それなんだけど・・・」
今度はこちらが息を大きく吐いた。
「ファンサービスで来てもらって、最初は嬉しかった。だって、ずっと憧れて、絶対話すことなんてできないと思っていた堀之内ひまりと一緒に過ごせるのだから。でも、堀之内さんと一緒に話して、わがままなように見えて、こちらを気遣ってくれる優しさとか、おいしいものを食べて、嬉しそうに笑う仕草とか見たら、もっと知りたいって思ってしまって・・・」
隠していた無邪気な気持ちが単語となってあふれ出した。こんな自分を見せたら、絶対に幻滅される。驚いたように彼女の目が大きくなる。
「つまり、どういうこと」
たどたどしい言葉に困惑したようだ。眉をひそめて、困ったように首を傾げる。
「ファンサービスではなく、もっと距離を・・・」
「ごめんなさい」
心にすっと冷たい風が吹いた。熱くなった気持ちを伝えた中で、一番聞きたくなかった返事だった。
「そうだよね。ごめん」
「あの、もう少し話そう。いきなり距離を縮めるのは困る」
恋愛というステージにすら立てていない経験値の無さが、判断を大きく誤ったようだ。これが気まずいという空気なのだと身をもって感じている。
そもそも、うまくいかないと思って言わなかった気持ちを、なぜ話してしまったのか。考えても遅い。すべてが崩れてしまった。
「ねえ、ねえ」
肩を叩かれて我に返った。目の前には変わらず女神がいる。
「聞いていたの。別に嫌なんて言っていないよ。でも、私にも事情があるの。そんな顔しないでほしい。あと、溶けているよ」
意識が戻って、右手を見るとチョコレートアイスがすっかり溶けてしまっていた。彼女はハンドバックからウエットティッシュを取り出すと、引き抜いて渡してくれた。
「ありがとう」
「さて、次に行こうか」
アイスを食べ終えると、直ぐに彼女は立ち上がった。
「今日はわがまま言ってごめんね」
「いや、そんなにわがままに聞こえない」
そのままの気持ちを伝えた。彼女はしばらく考える素振りを見せると、ぼそりとだけ呟いた。
「それなら、もっとわがままになろうかなあ」
意味のわからないまま、次の場所へと歩き出した。




