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覗き穴ダンジョン~自宅警備員の俺の部屋の壁にダンジョンの深淵を覗ける穴が空いた件  作者: 御手々ぽんた


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第94話 公認

 意識が浮上する。


 どうやら俺は気を失って寝転んでいたらしい。

 見慣れた天井が視界に映る。アパートは崩壊はしなかったようだ。


 体の上に、温かくも、重く湿った感触がある。


「霊羅さんっ!」


 記憶が蘇る。

 猫又の尾が直撃する直前、霊羅さんが部屋に押し入ってきて俺の前に飛び出したのだ。


 俺は慌てて、しかし気をつけながら霊羅さんの体を自分の上からずらすと起き上がる。


 節々に痛みはあるが、俺は動ける。

 明らかに霊羅さんが猫又の尾を何とかしてくれ、さらに俺を庇ってくれたのだろう。


 その霊羅さん本人は明らかに重傷だった。


「霊羅さん、どうして、ここまで!」

「――良かった、ご無事で。視線のおか……」


 薄っすらと開いた霊羅さんの瞳。そして俺の方を見て、うわ言のように何かを呟いている。


 意識は辛うじて確認できたが、危険な状態なのは明白だった。


 この状況では、救急車は間に合わないだろう。


「そうだ、ポーション! 割れてる――」


 どこかのタイミングで割れてしまったのだろう。

 部屋の隅に散乱したガラス片がある。


 そうして部屋を見渡している時だった。

 横倒しになっていた冷蔵庫が、さらに移動して壁の覗き穴が再び見えるようになっていた。


 そこからちょうどアビちゃんが出てくるところだった。


「アビちゃん! どうしよう、霊羅さんが俺を庇って、こんな」


 そこまで告げると、アビちゃんがそのスライムの体をぐわっと広げて俺の顔以外を包み込む。


「え?」


 びっくりした。

 しかしすぐさま、それがアビちゃんなりのバグなのだと分かる。

 と、同時に俺は冷静さを取り戻す。


 アビちゃんが俺に冷静に、と伝えたということは何かしらできることがあるということだ。


 俺の体を離すと、アビちゃんはふよんと一度跳ねて窓から飛び出していく。

 外では、まだ猫又が生きて足搔いていたのだ。ドッペさんの応援に行ったのだろう。


 俺も気合いを入れ直すと霊羅さんの頭側に回り込み、脇の下を持ってその体をゆっくりとずらし始める。


 霊羅さんから漏れるくぐもったうめき声。

 傷に障っているのだ。その血の気を失い真っ青な顔色の霊羅さんの目だけが唯一、俺の動きを追うように動いている。


 しかし俺は足をとめることなく、自分の布団までれもさんを運ぶ。

 そう、神域――極楽に霊羅さんの体の、特に酷く見える傷の部分が当たるように横たえる。


「霊羅さん、すいません、眷属化させてもらいます。この責めは、霊羅さんが回復したらいくらでも受けるので」


 瞬く霊羅さんの目。


 それが肯定とも拒絶とも分からないままに、俺はスキル覗き魔の眼球(デバガメゴヨウタツ)を発動。


 霊羅さんを覗きこんだ。


「あれ、もう眷属になってる?」


 予想外の事態。

 せっかくアビちゃんのハグで取り戻したはずの冷静さが一気に吹き飛ぶ。


 これまでの霊羅さんとの記憶が、走馬灯のように俺の脳内を走り抜けていく。


「……う、ぅんっ」


 その走馬灯が、霊羅さんの声で途切れる。

 俺の眷属たる霊羅さんに、神域の回復作用が効果を発揮したのだ。

 完全に治った訳ではないにしろ、霊羅さんの顔色はかなり良くなっている。


 その霊羅さんが横になったまま俺の方を向いて口を開く。


「あの、視線のお方が、私を眷属にして下さった責任を取ってくれるって、本当ですか?」


 顔色が回復したばかりのはずなのに、頬が真っ赤に染まっている。

 その潤んだ、嬉しそうな瞳に向かって、俺は責を受けると言ったんだけど――とは到底、言えなかった。




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