第93話 恐ろしきモフモフ
それは、不思議な光景だった。
俺のアパートの至近距離で繰り広げられる争い。
片方は一見、猫。
そしてもう片方は透明。
ただ、双方ともに巨大という、大いに困った共通点。
つまりは、周囲の被害が甚大だった。
猫又が展開する触手のような尻尾は、まるで際限がないように増え続けていく。
そして透明なドッペさんが、これまた透明な四本の剣で襲い来るそれらを次々に切り飛ばしていくのだ。
結果的に、猫又が触手風の尻尾を増やし、振るうたびに、千切れた巨大な猫の尻尾が四方八方に飛んでいく、ように端からは見えるのだ。
そうしているうちに、徐々に猫又が弱っていくのが分かる。
しかし猫又の尾の増殖と攻撃は止まらない。
いや、止められないのだろう。
鑑定スキルでみたところでは、他の攻撃方法もありそうなものだ。しかし、亜神たるドッペさんには、そんな生半可な攻撃では効かないと踏んでいるのだろう。
ゆえに、切られるたびに徐々に衰弱していくのが猫又自身もわかっていても、尻尾を増やし攻撃することを止められないのだ。
それ自体は、ドッペさんが有利なので良いのだが、問題はあたりに散らかる、猫又の尾だ。
俺の住むアパートの周辺の建物には、それぞれ少なくとも一本は猫又の尾が直撃している。
崩れる建物が多数。幸い崩れずとも、尾が突き刺さり、まるで猫の尻尾が生えているかのようになっているものも多い。
そう、俺の住まう街は、ほぼ壊滅状態と言えた。
猫の尾で。
そんな猫又の尾は当然、俺の住まうアパートにも飛んでくる。
ドッペさんも当然、気には掛けてくれている。
透明な剣で、はたき落とすようにして守ってくれてはいたのだ。
ただ、やはり何事にも完璧はなかった。
たまたま複数の猫又の切られた尾が同時に俺の住まうアパートに迫り。
そしてたまたま猫又が最後の力を振り絞るように、これまでで一番大量の尾を触手のように生やしてドッペさん目掛けて繰り出したのだ。
そんなわけで、一本の猫又の切られたモフモフな巨大な尾が、俺に直撃コースで飛んでくる。
ドッペさんの剣は、間に合わないだろう。
――ここまで、か。みんな、ありがとう。
恐怖は当然、ある。しかし心に浮かんだのは眷属たち皆の笑顔だった。
俺はそうして自然と笑顔を浮かべると、意識して目を見開く。
覚悟を決めた果ての、結果を見届けようとしたのだ。
――目は絶対、逸らさないっ!
そんな俺の目の前を横切る、影。
「霊羅さんっ!?」
霊羅ありすが、部屋のドアを蹴破るようにして侵入し、俺の目の前で、迫りくる巨大モフモフ猫の尾に、立ち塞がったのだった。




