第92話 決戦
俺の眼前まで高速で迫っていた二本の猫又の尾が、突如、消え去る。
そしていつの間にか、俺の掌の上にいたドッペさんもその姿を消していた。
慌ててズタズタになった尾を根本へ引き寄せる猫又。
すぐさま、その二本の猫又のちぎれた尾が、スルスルと復活するように伸びていく。
完全に尾が再生し、一見、ダメージのなさそうな猫又だったが、しかしそれまでの悠然とした雰囲気は、なりをひそめていた。ひどく警戒した様子で毛を逆立て、ウーと低く唸っている。
その猫又の唸る方をみて、ようやく俺もドッペさんがどこにいるのか分かる。
産巣日という聞いたことのない種へ進化したドッペさん。その体は、ほぼ透明な巨人のような存在へと変わっていた。いまドッペさんは、俺のアパートの外の隣の家の塀を跨ぐようにして立っているようだった。
俺の左目の覗き魔の眼球であれば何とかドッペさんの存在を捉えられる。
しかし俺の右目ではまったく見ることができなかった。
そんな不思議な、透明の姿だが、たぶん腕は二本以上ある。更には頭部も複数あるように俺の左目には映る。
そして、ドッペさんの鑑定結果も様変わりしていた。
『テイム済み亜神:産巣日
呼称:ドッペさん
所属:なし
スキル:擬態、生成』
そう、ドッペさんはモンスターではなくなっていたのだ。神獣ですらなく、亜神というものになったらしい。
そしてアビちゃんの配下としていたのだが、その所属が外れていた。
そしてこれは、俺が改めて悪意なき借用スキルでドッペさんを所属させようとしても、エラーが出てしまう。
最後に、ドッペさんのこれまで唯一のスキルだった擬態に、新たに生成というスキルが追加されていた。
そのスキルを、ドッペさんが今まさに使用する。
複数本以上ある腕に、各一本づつ、剣のようなものが現れたのだ。
それも、透明だった。
ただ、俺の鑑定スキルだけがその存在を告げる。
『生成アイテム:儀剣アメノムラクモ』
『生成アイテム:偽剣ハバキリ』
『生成アイテム:擬剣トツカノツルギ』
『生成アイテム:祇剣フツノミタマ』
四本の剣が生成されていた。
少なくとも、ドッペさんはいま、四本以上の腕があるらしい。
ドッペさんが構えをとる。
四本の剣についての鑑定スキルで情報が表示される位置が、忙しなく移動することで、なんとなく透明なドッペさんの姿が想像出来る。
一方、それに対峙する猫又も、二本だった尾がいつの間にか増殖していた。
まるで無数に生えてきた尾が、まるでマントか羽かといった風情で猫又の背で蠢いているのだ。
その無数の尾を背負って、猫又がドッペさんへ飛びかかるように大きく跳躍する。
亜神と神獣の戦いが、俺のアパートのすぐ横でいままさに始まった。




